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状況は変わる。だから、ツールも変えていこう【魔法の4秒】終

 あるハイテク企業のCEOと幹部チームが参加する社外戦略会議で、司会役をつとめたことがある。社の収益額は6億ドルを超えていた。ぼくたちは数日間かけて組織の各部を改変した。新たな組織構造をつくり、新たな管理職ポジションをつくって人を割り振り、説明責任を明確にした。

 優良企業だった。リーダー陣は有能だし、成長戦略はしっかりしているし、目標は無理がないしで、数年以内には10億ドル規模にまで発展しそうだった。だが、みんなで設計した新たな組織構造について、CEO直属の幹部のひとりが発言した。

「これはうまくいきませんよ。9億ドル規模になったら目が届かないでしょう」

 CEOはちょっと考えて応じた。

「べつに9億ドル規模でうまくいくことまで考えなくていいよ。当面うまくいけばそれでいいんだ。あとでまた変えよう。そうだな、7億5000万ドル規模あたりになったら」

 CEOの言うとおりだ。いっときは効果があっても、しばらくすると効き目がなくなるものは多い。たいていのことについては、あとで変えてもいいやという気持で一時的ソリューションを導入した方がよい。恒久的ソリューションにするつもりで導入すると、容易なことでは廃止できないからだ。

★★★

 ビジネスプロセス・リエンジニアリング、1分間マネジャー、目標管理、ゲリラマーケティングその他数々のアイデアを、しょせん一時のブームだと切り捨てるのは簡単だ。今日はもてはやされても、明日はもう見向きもされない。なら最初から手を出さない方がよい、と考えがちだ。

 しかしそうではなく、次々登場する「一時のブーム」をうちの会社でもしばらくのあいだ活用できるんじゃないかと考えてみてはどうだろう。しばらくのあいだでも十分な場合もある。べつにいつまでも続かなくたって大成功するものはある。

 大事なのは、どんなソリューションも万能薬だと思って導入しないことだ。何かを万能薬と思いこんでしまうと、弱点や副作用には見て見ないふりをするようになる。しかしいずれは何らかの欠陥が見つかるのは避けられない。すると今度はそのソリューションを一切信用しなくなってしまう。ソリューションがもたらしてくれた価値も一切目に入らなくなる。
 こいつは期待外れだったな。結局、何にでも効くわけじゃないじゃないか。そして次なる万能薬を探し求める。

★★★

 これっきゃないというソリューション、あらゆる問題を解決してくれる処方箋、不安を解消する万能薬へのあこがれは根強い。だが間違っている。この世には完璧なものはなく、永久に続くものもないからだ。

 ならばあらゆるソリューションは一時的な存在であり、あらゆるツールは潜在的価値を秘めた、しかしはかない存在だと思った方がましだ。このことは、私生活の改革(新しいダイエット法)にも組織改革(新たな経営ツール、新たな組織構造、新たな多様性プログラム)にもあてはまる。

 あらゆるソリューションを一時的なものと考えれば、以下のように驚くほどのメリットがある。

①コミットしやすい
完璧でもなく永続もしないのなら、ちょっと試しにやってみてもいいかなという気になる。
②即、実施できる
永続しないなら、なにも完璧な形で導入しなくてもいい。機能するレベルにもっていければいい。
③まわりを巻きこみやすい
これは不完全で未完成なソリューションですと認めれば、まわりも積極的にソリューション改善に加わってくれるだろう。参加者が当事者意識をもつようになるというおまけもある。
④費用が安くすむ
完璧でもなく永続もしないなら、最初からいきなり巨額の資金を投資するのはやめておこうということになる。
⑤廃止すべき時期が来たら未練なく廃止できる
もともと巨額の資金やアイデンティティを賭けたソリューションではないから、いかにすばらしいソリューションかを触れまわったり、もはや付加価値を生まなくなってもしがみついたりして膨大な時間とエネルギーを費やす心配もない。効果がないという証拠があるのにかたくなに信じ続けるのは、決してほめられたことではない。

 「しょせん永久に続くものではない」と考えればこんなにメリットがある。おかげで行動に出やすくなる。ただ考え、話し合い、計画し、どういう行動をとるかを議論しているだけで終わってしまうおそれが少なくなる。

 自分は変わる。状況も変わる。まわりの人も変わる。だから使うツールも変わって当然だ。

★★★

 本書では、とっさに賢い判断を下し、インパクトのある行動に出るためのアイデアや戦略や戦術をたくさんご紹介してきた。いますぐ活用していただけるものもあるだろう。もっとあとになってお役に立つものもあるだろう。

 柔軟にいこう。

 自分にぴったりくるものを実践し、効果があるあいだだけ使い続けよう。どうも効果がなくなってきたと思ったらまた本書を開き、ぴんとくるものを探そう。とにかく深呼吸し、立ち止まってよく考え、目指す地点へたどり着けそうな選択をすることだ。

★★★

『魔法の4秒』
きこ書房

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