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smashing! チョコレートドリームなおれ
佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。
今月に入ってから飼い主さんたちやご近所さん、将棋教室の面々等からのチョコレートが山のように届いている。これ俺ら一生分頂いちゃったんじゃないだろうか、ちょっとだけ心配もしながら、佐久間はそれでも浮かれる毎日。
明日はバレンタイン。そして前日である今日は喜多村の誕生日でもある。このお話自体、主となっているのは大体が誕生日に巻き起こるイベント。何故なら(バ)カップルは年がら年中何かしらの記念日を言祝いでいるからだ。人目も世間体も関係なく、延々垂れ流されるエターナルラヴァー達のイチャコライベの様子、お楽しみいただけてると嬉しいです…などと中の人の呟きはどうでもいいとして、喜多村への今年のプレゼントも恒例のボクサーパンツ。ちょっと奮発したけど。喜多村は佐久間が選んでくれたものは全て悦んで受け入れるので、正直何を頂いても至福なのである。
「ありがとうな鬼丸、それでだ、今年俺はケーキを自作したいんだ」
「え!よかった予約入れなくて!でもいいのか俺作ろうか?餡子入っちゃうけど」
「(餡子?)実はハルちゃんからクーベルなんとかチョコもらってて、それでお手製のを鬼丸にご馳走したいんだ」
お前自分の誕生日なのに。佐久間は喜多村をハグし、小さな声でありがとうな、と呟いた。鬼丸の美味しい顔が見たいんだ、喜多村はニカッと笑顔で返す。これちょっと怪しいんじゃないか、普段だったらそう思うはずがそこはバースデーマジック。こういうツメの甘さは佐久間のいいところでもある。
雲母がくれたのはエクアドル産のちょこっといい感じの成分入り、最高級クーベルチュールチョコレート。スパイス程度ですから問題ありません、まさに妖艶な笑みとともに伊達軍団の華は怪しいチョコ置いてったでしかし。あの人たちの「ビヤク」的なやつで何度もえらい目にあっているというのに、喜多村は懲りてない。どころか再チャレンジばっかしてる気がする。
そうと決まれば仕込み仕込み。朝一でやっとけば夕方には冷んやり食べごろのチョコレートケーキ、またはガトーショコラが出来上がるはず。手間を考えると後者が適切かと思われる。喜多村は手慣れた様子でガトーショコラを仕込んでいく。家中に漂うカカオの香り。あかんこれ目が据わりそう、佐久間は代替えとして手持ちのチョコレートを口に放り込み事なきを得た。夕診後が楽しみだな!喜多村は(いろんな意味で)嬉しそうに笑った。
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結果を言えば、特に変わった様子は見られなかった。
夕飯に喜多村の好物の牛丼(松阪牛)をたらふく食べ、そのあと主役のガトーショコラを頂いた。目から火花が出るほど美味い(佐久間談)のだが、ビヤク的な効果は感じられなかった。ちょっとだけ肩すかし、でも佐久間の最高の美味しいをもらえた。いい誕生日だなリイコ、高い方のササミボーンをもらってご機嫌なリイコは、早々にバスマットの寝床へと引き上げていった。今日はツンが多めだな。
食器を片した後いつものように風呂へ。すると佐久間が真面目な顔で「してほしいことしてやる」それだけ言って先に浴室に入っていった。えこれってチョコ効果?ビヤクスペシャル?思わず浮かれそうになった喜多村はそれでも、そんな力借りなくても十分毎日が「ビヤク」で満たされてることに、改めて納得するのだった。
がしかし、喜多村の魔神部分がいつのまにかフルマックスになっていることに、当の本人が気付いてないっていう。まさにこれこそビヤク効果。