今回取り上げるのは「意地悪な問いかけ(Wicked Questions)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。
リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はこちらのNoteを読んでいただければと思います。
この方法で何ができるか?
このLSは、同時に成り立ちにくいが実際に両立させなければならないことや、注意をあまり払われてこなかったパラドックス(逆説)を言語化して掘り起こすことで、現状を新たな角度で見て、思考を活性化させることを狙いとするものであるといえる。
5つの構造要素
やり方としては、パラドックスの概念とテンプレートを与え、それを参考に参加者に考えさせるというとてもシンプルな進め方である。
実施にあたっての追記事項
「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。
「現実はそもそも矛盾に満ちていて、人間の側が気付かぬふりをしているのだ。」というメッセージが聞こえてくるようである。また、実際に社会生活や組織活動において、正しい目的や価値は一つに絞れるものではなく、複数の目標や価値がせめぎ合っているということから、そのバランスを意識し、一方に偏りすぎないことを、ワークなどで意識させたいときに特にこのワークが有効でありそうだ。
矛盾を意識することはストレスがかかることだ。また、それ自体が誰かを非難する武器へと容易に転換させる。このワークでストレスから逃れようと参加者が「非難を浴びせたり、一方に偏った意地悪な問いかけは避ける。」という点には特に気を払わねばならない。そのような物言いが出たときに、ファシリテーターがそれを柔らかく退ける勇気を持たねばならない。
また、このような質問を初めて考える人たちに向けたチュートリアルのテクニックを磨いておくこともポイントとなりそうだ。
ここで触れられている「即興劇プロトタイピング」、「15%での解決策」「25/10 クラウド・ソーシング」については以下のNoteで紹介している。
また、「エコサイクル・プランニング」もLSである。改めて紹介することにしたい。
「1-2-4-ALL」については、他のLSとの絡みでよく登場することもあり、すでに以下の記事で紹介しているので参考にしてほしい。
「Edgeware」という書籍については日本語訳がでていない。Amazonの書籍紹介によれば、ヘルスケアにおける複雑性の科学を扱っている書籍である。複雑系科学の入門書としても推薦の声が多い。
これらの事例からも、人間が活動するすべての分野において「意地悪な問いかけ」を作ることの有効性がうかがわれる。他のLSと組み合わせたときの事例も蓄積され、共有されると有り難いと感じた。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係
「意地悪な問いかけ」の種は、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークでは豊富に出現する。
一つの問いを共有し、お互いにその問いに対する考えをモデル化したときに、全く同じものは出ないからだ。参加者は唯一の正解はなく、それぞれの人が「これが正しいのではないか」と感じているものが並ぶ世界がそこに現れる。つまり、モデルが並んでいる風景が「意地悪な問いかけ」と解釈することができる。
「意地悪な問いかけ」は、参加者を「当たり前で満ちている自分の世界」から(それはコンフォートゾーンである)連れ出し、他の人との意見の相違を見せることによって創造力を刺激する。
このときに大事になるのが、他の意見や主張、価値観との相違に向き合い、逃げないことである。「意地悪な問いかけ」の場合には、それらを一つの文章(問いかけ文)の中に押し込んでいくプロセスを辿らせることで、創造力を生み出している。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドにも、モデルを作って共有したあとに「みんな違ってみんないい」に留まらないようにしなければならない。「モデルの違いを統一して乗り越えたり、両立させたりするためにはどうしたらいいか?」などと一歩踏み込んで問いかけ、答えとなる作品をグループごとに創らせるような進行に乗せることで、「意地悪な問いかけ」のエッセンスをレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークに持ち込むことができるだろう。