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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(32)統合〜自律

 今回取り上げるのは「統合〜自律(Integrated~Autonomy)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

この方法で何ができるか?

 グループ内の対立を「どっちつかず」から「どっちつかず」の戦略や解決策へと導くことができる。より統合的でありながら、より自律的であることの利点を表面化することで、より鋭い戦略的思考、相互理解、協調的行動に全員を引き込むことができる。パラドックスに注意を払うことで、次のような質問に対処し、パフォーマンスを飛躍的に向上させる機会が見えてきます: 統合的な制御と自律的な自由をどのように組み合わせれば、我々の目的を達成できるのか?グローバルな忠実性と一貫性を求めるニーズと、ローカルなカスタマイズや創造的な適応性を求めるニーズはどこで出会うのだろうか?これにより、多くの組織が頻繁に経験する、戦略の二極化を回避することができます。

”LS Menu 29. Integrated~Autonomy”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 全体が掲げる原則に従うのか、個別の判断にまかせるのかということは、組織にとって永遠の課題といっていいものである。この「統合〜自律」はその課題に向き合うLSであるといえる。それはこのLSで使う次のワークシートに表れている。

自律〜統合ワークシート
”LS Menu 29. Integrated~Autonomy”より。筆者による翻訳。

 このワークシートのうち、「B.もっと両方とも進める」の実現を狙っていくのである。

5つの構造要素

1.始め方
・次のように問いを投げかける。「私たちの目的は、編成単位/現場間の自治、カスタマイズ、競争、自由を高めることによって最もよく達成されるのでしょうか?それとも、編成単位/現場間の統合、標準化、管理を強化することで、我々の目的は最もよく達成されるのでしょうか?あるいは、その両方でしょうか?」
2.空間の作り方と必要な道具
・4人1組で座るための椅子(小さなテーブルの有無は問いません)。
・参加者一人一人に「統合自律ワークシート」を、壁には大きなものを。
・活動と行動ステップを記録するための紙。
3.参加の仕方
・目の前の課題に関わる中央のリーダーと各部のリーダーを全て含む。
・誰もが平等に貢献できる機会を持つ。
4.グループ編成の方法
・話すことをまとめるために個々に。
・4人の小グループで。
・グループ全体で。
5.ステップと時間配分
・「どうすれば、より統合され、同時により自律的になれるのか?」と問いかけ、今回のテーマである「統合~自律」の考えを導入する。過去の経験からの事例を共有できるように準備しておく。5分
・「1-2-4-All」を使って、「標準化したい気持ちと、カスタマイズや自律性を求める気持ちの間に緊張があるのはどこですか?」と問いかけ、注意を要する活動のリストを作成する。10分
・参加者に4人1組になってもらい、リストから1つの活動を選び次の問いを考える。「標準化する根拠は何か?個別化する根拠は何か?」10分
・「1-2-4」を使って、標準化を実現するための行動ステップを作り出す。「1-2-4」を使って、個別化を実現するための行動ステップを作り出す。10分
・「標準化(Aグループ)と個別化(Cグループ)の両方を促進する行動(Bグループ)は何か」と問う。5分
・ 「AグループからBグループへ、またはCグループからBグループへ、いくつかの行動を移すために、どのような修正または創造的なアイデアを採用することができるでしょうか?」と問う。15分
・「1-2-4-All」を使って、統合と自律の両方を促進する最も有望なアクションに優先順位をつける。10分
・ 効果的なリベレーティング・ストラクチャーのつなぎをいくつか開発することで、行動ステップを洗練させる。

”LS Menu 29. Integrated~Autonomy”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 個を全体に従わせる「標準化」とそれぞれの個に合わせる「個別化」の両方について検討し、その両立状態を探っていくという流れはわかりやすい。
 文中に繰り返し出てくる「1-2-4-All」はLSの一つである。それについては以下のNoteにまとめている。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・前進するための革新的な戦略を開発する。
・政策、プログラム、構造において、乱暴な、あるいは「二極」的な揺れを避ける。
・補完的でありながら逆説的な重要なペアを特定し、逆説的な意思決定を生産的に管理する。
・「私たちは両者を高め合っているのか、あるいは両者に配慮しているのか 」と問いかけることで決定を評価する。
・新しい戦略を評価し、立ち上げる。

”LS Menu 29. Integrated~Autonomy”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 革新的な「戦略」の開発に関わるという点に目がいく。「標準化」と「個別化」の両方を追求する先に、新しい行動や有力なアイデアがあるということだ。

コツとワナ
・生産的な質問とは、バランスが取れており、好奇心を刺激し、何がうまくいっているのかを探るものです。例えば、「統合された1つの組織であろうとする我々の努力は、各部署の自治をどのように圧迫するのか?」のように、「意地悪な質問」の片方の側面を悪くみたり、上手くいっている方の価値を下げるような言い方は避けなければなりません。その代わりに「現在の事業において、統合と自律の両方を実現しているのはなぜか?」というように、両者を同じように評価するような質問をする。
・現場での経験と想像力を駆使して、「どうすればもっと両方を実現できるのか?」といった質問をする。
・目標は、いくつかの中核にある全体的な属性に忠実であることと、それぞれの部署の環境で差別化することです。
・笑いやうめき声(arrghなど)で進捗を確認することができる。
・同時に多くの実験を試みるよう、グループに促す必要があるかもしれません。
・すぐに解決できないことも多いので、定期的に「統合〜自律」の追加ラウンドを行い、課題に戻る必要があるかもしれません。
・開始当初は、中央と部署の間の創造的な緊張は比較的見えません。グループが行き詰まったり、議論し始めたら、それぞれの側に、相手側の帽子をかぶって、反対の視点を主張するように言う。

”LS Menu 29. Integrated~Autonomy”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「標準化」と「個別化」の両方を同時に満たすというシンプルな着地点であるが、そこに辿り着くように気持ちを集中させるのが難しい。そこで重要になるのが「問いかけの言葉」である。最初の例にあるような言葉を紡げるように、進行役にも熟練が必要そうだ。

繰り返し方とバリエーション
・「統合~自律」を進めることで、特定の課題への取り組みを成功させるために役立つことが、組織全体にも適用されることを人々が理解し始めて、組織全体でできることの理解が変化することがあります。このような場合はいつでも、「最小スペック」を使用して、やらなければならないこととやってはならないことを深く掘り下げてください。
・共同と競争を統合と自律に置き換える。

”LS Menu 29. Integrated~Autonomy”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 最初の項目で扱われている「最小スペック」もLSのひとつである。その進め方については以下のNoteにまとめているので参考にしてほしい。

事例
・病院システムのリーダーが、同じ地域の小規模病院の新しい経営契約の内容を策定する場合。
・連邦レベルで立法されるべきものと、地方で決定されるべきものを策定しようとする政治指導者のグループに対して。
・ユニット単位のイノベーションを阻害しないような病院全体のポリシーを作ろうとする感染制御の専門家のために。

”LS Menu 29. Integrated~Autonomy”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 全体の力と個の力の両方を活かすことが求められる職場、例えば医療のように専門性がある人々が集まってチームで成果を出さねばならないような環境下では特に力を発揮しそうである。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 全体と個を両者を尊重し、良いところが出るように結びつけることは、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークショップをするときにもしばしば目標になる。

 そのためのワークのシナリオの雛形としては、主に2つのアプローチが考えられる。

(A)組織や集団全体のもっている「強み」や「特質」を含む組織のアイデンティティを表現したモデルを作る。続けて、個々人の持っている「強み」や「特質」を含む個人のアイデンティティ・モデルを作る。2つのモデルの間に「両者を同時に発揮させる取り組み」のモデルを作って配置する(関係性を明確化するためにつながりの表現も加えるとなお良いだろう)。

 このアプローチはこの「統合〜自律」のステップに近い。

(B)組織や集団全体の持っている「強み」や「特質」を含む組織のアイデンティティモデルを作る。周囲に影響要因のモデルを置き、その関係性をモデルで表現する。その上で、組織や集団が影響を受ける大きな出来事を想定し、そのときに個人がどう反応し行動するかをシミュレートする。その後に「個を活かしながら全体の良さを発揮するための原則」のモデルを作る。

 このアプローチは、リアルタイム・ストラテジーと呼ばれるシナリオに沿っていくものであり、「個を活かしながら全体の良さを発揮するための原則」のモデルは「シンプルな行動原則(simple guiding principle)」とも呼ばれる。
 この場合には、さまざまな局面を想定した上で、個と全体を同時に活かす方法を見つけるので結論とする原則がより頑強なものになっている。さまざまな局面を考えていくのでそれだけ時間はかかるが、結論をどれだけ良いものにしたいかによって採用するかどうかの判断は変わるだろう。

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