THE GAZETTEを読む(29)2018年3月号 タイミングの重要性に関する意外な研究結果
本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎(LSP)のファシリテーター・トレーニング修了者向けに書いている。
この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。
今回はDaniel Pink氏の最新著作(2018年当時)を引用して構成された内容になっている。
A Whole New Mindは『ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代』として邦訳が出ている。英語版は2006年、日本語版は2008年であるが、本書で21世紀に活躍する人の能力で指摘していることは、レゴ®︎シリアスプレイ®︎が引き出そうとする人間の能力とかなりの程度重なる。それを簡単に紹介すると以下のようになる。
(1)デザイン:美しさと感動を同居させるものをつくる
(2)物語:意味深く、相手を引き込む話をする
(3)シンフォニー:バラバラなものをひとつにまとめる
(4)共感:相手の気持ちを理解し、思いやりのある人間関係を築く
(5)遊びごころ:ユーモア、笑い、意図的に逸脱する
(6)モノよりも生きがい:物質的な豊かさではなく意味の豊かさ
ひとつひとつがどうレゴ®︎シリアスプレイ®︎の中で展開されているかの詳細の解説は省くが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを体験したことがある人ならば、誰もが「レゴ®︎シリアスプレイ®︎そのものでは?」と感じる6つの要素になっているだろう。
今号の横のコラムのひとつで、このハイ・コンセプトから以下のような言葉が引用されている。
また広範囲でさまざまな知見を収集し編集するのが上手い、Daniel Pink氏は世界の名プレゼンターの集う場であるTEDにも登壇しており、その講演ビデオも人気である。以下のビデオは「やる気」という非常にポピュラーな問題を扱っている。内容構成の素晴らしさに加えて、彼のインテリジェンスとセンスの良さが画面を通じて伝わってくる。ぜひチェックしておきたい。
上記のビデオの内容は、彼の本である Drive: The Surprising Truth About What Motivates Usに基づいている。これについても『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』と日本語訳が出ている。今号の横のコラムにもこの本のポイントを要約した文が紹介されている。
ちなみにこれらの動機付けの内容は、心理学ではかなり古くから研究されているもので少し専門書を読んでいる人であれば内容的な目新しさはそれほどない。しかし、 Daniel Pinkは、情報を整理して現代の諸問題に紐づけて、一つの物語として意味付けていくのが本当に上手い。まさに自らハイ・コンセプト人材の手本となっているともいえる。
そして今回扱う、WHEN, The Scientific Secrets of Perfect Timingについても『When 完璧なタイミングを科学する』という日本語タイトルで訳がでている。
時間帯
ここでは、時間帯のもたらす影響についての、驚きの結果がいくつも挙げられている。この結果から、ワークショップは午前中に実施すべきか、午後に実施すべきかを考えるだけで面白い。
なお、この『When 完璧なタイミングを科学する』をよく読むと、何についても人間にとって午前中が最高かというとそうでもないという点も見えてくる。午後は人間は注意散漫になる傾向にあるのだが、その分、新たな発想や逸脱が生まれやすいともいえる。
中間点
「時間帯」についで、2つ目に取り上げられているトピックは「中間点」である。これはキャリアや仕事上の中長期的な活動という文脈における「中間点」である。ここからは、レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークショップ投入のタイミングを考えたり提案するヒントになるかもしれない。レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークショップは、キックオフとしてプロジェクトや活動の最初に導入することはよくあるが、ある程度、迷走をしたのちの「中間点」で改めてネジを巻き直し、チームの成長をドライブさせるためにも貢献できる。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎の科学
今号では、最後が非常に簡潔な文章で終わっているので、『When 完璧なタイミングを科学する』では、他にどのような内容があるかについて簡単にまとめておく。
・「終わりについて」
何かの終わり(20代最後の一年など「区切り」に近づく感覚も含む)になると人々はやり残したと感じる「何か」を始める傾向がある。「残り」時間を意識させた上で「それを良いものにするために何をしたらいいか?」という問いは、シリアスにかつ行動に結びつくことを考えさせる効果がありそうだ。
また最後がハッピーエンドであることを人は好む。エンディングを目の前にして、情報が多すぎる場合には取捨選択を始めて編集する傾向にある。そしてその編集はハッピーエンドを指向することになる。ワークショップにおいてもクロージングの高揚感は、ファシリテーターが感じている以上に参加者にとって重要かもしれない。ただし、参加者のハッピーエンドに向けた情報の編集が行きすぎて大切な学びが抜け落ちてしまうリスクにも気を配らなければならない。
・「息を合わせる」
息の合ったチーム(タイミングが同調している)について扱っている。チームメンバーが息を合わせることができていることの効果は自明なものに近いので、あまりそれには触れられず、息を合わせる方法論について述べられている。仕事の始業・就業など生活リズムが同調させること「エントレインメント(entrainment)」、服装を合わせること、自分達にしか分からない共通の記号を使うこと、ハイタッチなどのスキンシップなどが紹介されている。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークショップでも、会場全体が同じステップ(作る→話す)を踏んでいくこと、皆が同じ道具を使うこと、など息を合わせるためのポイントと重なる点が見えてきて、ファシリテーションの参考にもなる。
・「時制を意識する」
過去のことを思い起こすのは、くよくよするというネガティブな側面だけで無く、むしろ原点に帰ったり自己理解を深める効果があると研究で明らかになっている。また未来を意識するという人間の能力は(予測は当たらないにもかかわらず)、現在の価値や意味を考えるために重要である。単に「今を生きる」ということよりも、過去や未来を想起して現在に統合させることのほうが価値が高い。
このことは、リアルタイム・ストラテジーをはじめ、時間軸を意識したプログラム、その中核にあるリアルタイム・アイデンティティの重要性を理解することの助けになる。
以上は、筆者によって情報の取捨選択をした上でのまとめである。さらに知りたいと考えた方は、ぜひ書籍を手に取ってみてほしい。