THE GAZETTEを読む(2) 2012年9月号 レゴブロックの心理学上の影響力
本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンであるTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎のファシリテーター・トレーニング修了者向けとして書いている。
この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。
前号が社会神経科学からの知見だったのに対して、今回は心理学領域の知見とレゴ®︎シリアスプレイ®︎との関係を紹介している。Jon Sutton氏の論文「心理学者がレゴ・ビルダーになるとき」は、本記事の執筆時点で、以下から読むことができる。
https://thepsychologist.bps.org.uk/volume-25/edition-8/when-psychologists-become-builders
この論文からは、2012年時点で、すでに多くの心理学者がレゴと心理学研究(臨床も含めて)との相性の良さに気づいており、試みが始まっていることが窺える。かなりのボリュームがあってさまざまな示唆に富む論文なので、機を改めて取り上げてみたい(この号でも、この論文の内容が取り扱われている)。
もうひとり、Mark Changiziという研究者が紹介されている。日本語訳では、以下の本が出ている。視覚と言語、聴覚と言語などの関係を脳科学の知見を活用しながら解き明かそうとしている。彼の『ヒトの目、驚異の進化』では、人間が「もの」を積極的に見出し、それをシンボルとして扱う能力に秀でていることが指摘されている。そのため、文化圏や言語圏の異なる者同士では、音声よりも「もの」による表現の方が通じやすくなるのだという彼の指摘は、レゴ®︎シリアスプレイ®︎が単なる会話よりもコミュニケーションの手段として優れているということを後押ししてくれている。
そうなると、レゴのピースの数や多様性が高まることは、シンボルをより多く用いることができる環境がつくられることを意味することになり、結果として私たちの想像力も引き出されるということも、ワークショップの設計や実施の際に、ファシリテーターが意識しておくべき、非常に有益な指摘だといえる。
心理学研究とレゴ®︎シリアスプレイ®︎との交差点
「集団的な構築プロセスが参加者間の心拍同調を強くし、脳の社会領域の活動を大きくする」はかなり大胆な仮説といえる。少し検索してみたが、十分に実証できなかったのか、この実験に関する論文は見つからなかった。
この研究とならんで紹介されているのが、David Gauntlett氏のアイデンティティとの関連の研究である。ここでは、「モノを作って物語を語る=知識と感情の構築」という側面のみのコメントに留まっているが、彼の書いた別の論文ではもう少しその論を、アイデンティティと文化との関係、そしてそこにおいてレゴ®︎ブロックが果たす役割まで、広げている。
この論文についても、ボリュームがあるので、機を改めて紹介したい。
また、この文章の横に「見えないものを見る」というタイトルのもとで以下の写真とコメントが載っている。
「信頼」は見えないが、チームやマネジメントにとって、とても重要な概念だけに、チーム・ビルディングのワークにおいては、ぜひ導入を検討したい問いの一つといえる。
今後の展開
ここで名前が出てくるDavid Whitebread氏は2021年に逝去された。LEGO社との関わりも深く、教育における子どもたちの遊びと発達との研究に尽力されたという。晩年は、子どもたちが自分達の学び方をどう学んで成長につなげるかを問う、自己調整学習(self-regulated learning)の分野で研究を重ねている。この自己調整学習は学習論の中でも注目が集まっている分野である。
レゴ®︎シリアスプレイ®︎のサイエンスとの関係性についても、今後、考察していきたい。
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