缶詰姫

あなたがいない
お夕餉は
なんでも好きなものを
召し上がれ

と言う訳で
スイートコーン缶
晩ごはん
すると
缶詰姫が現れて
スイートコーンの缶詰
パッカーン
ねぇお姫さん
最初はそうっと蓋開けて
水切りしてから
パッカンよ？
ならんならん
わらわは姫じゃ
なぜそのような物言いを
わらわのやること
抜かりはありゃせん
ほれこのザル使って見りゃれ
グイグイと
押し付けられたザルで水切りし
いつもは缶から食べるけど
仕方ない
とお皿を使うことにする
もぐもぐと
スイートコーンを食べながら
お姫様の半生を聞く

月の層の隙間にある
小国の末の姫
小さな国のローンは膨大で
やってきたアルバイトは様々で
田植え
蓮池さらい
パニエのサイズ直し

返済額が足りなかったとある月
月の真上の大国から
姫を一人返済の肩代わりに
三男の妻として迎えたいと申し入れがあった
姫には上に五人の姉がいた

あいしてる人がいるの
いいえ考えられないわ
うそつきは嫌いなの
えんそう会が忙しくて
おっとならもう居ますわ

とそれぞれが拒否をしたので
結婚させられそうになった
いい人ならいいんじゃないの
なんて軽口を叩くと
とんでもないと怒り出した
カップ麺ばかり食べていて
脂っこくてまん丸で
ツケで飲み歩くし
しょっちゅう行方知れずになるし
ご両親もお付きの者も手を焼いているそうだ

スイート号という宇宙船で家出をし
缶詰の妖精のアルバイトをしているらしい
一晩眠るごとに色んな缶詰に取り付くのじゃ
一人で缶詰を開けてる人の所へ出るそうだ
その方が驚かれないらしい
贈り物をあげたり
話を聞いたり聞いてもらったり

家にはもう戻らないのかと聞くと
四女があきらめが良い性格らしく
あの姉さまが嫁ぐじゃろうの
そうしたら帰っても構わぬ
なんてのんきに言う

帰りに手土産が欲しいとねだられた
次の人の贈り物にするのかもしれない
冷蔵庫にプリマハムの4連パックがあった
こんなのでいいのかと思ったが
手渡すと
四つもあるのう四回使えるのう
と喜ばれた

缶詰を一人で開ける時
あなたのところにも缶詰姫