連載「菌活ボーイがゆく」④黒い魔の手
目覚めると毎朝、台所に直行する。
お湯を沸かす間、流し台の上の育菌ボトルをシェイクするのが日課になっている。
ふと、ただならぬ気配を察知した。
顔を近づけ、思わず悲鳴。
ボトルにかぶせた白いティッシュにごま粒?
…と思ったら黒アリがたかっていた。
こんなのあり?
虫だから無視しちゃう?
なんて、つぶやいている場合ではなかった。
こうじ菌を救出しなくては。
キジトラ流菌道の技を受けてみよ。
ティッシュを裏返して一網打尽。
走って逃げるヤツは秘孔を突き、手の甲を登るヤツは流水で下水送りにした。
混乱の世に再び平和が訪れた時、奇妙なことに気が付いた。
ヤツらは醤油こうじに指一本触れていなかったのだ。
その後もアリ軍団の襲撃は続いたが、狙いはやっぱりティッシュのようだった。
香りが魅力的なのか。
巣の材料にほしいのか。
ならばなぜ、ティッシュの箱本体を狙わないのだろう。
夏休みの自由研究にしたいところだ。
台所には蜂蜜ボトルも置いてある。
キャップをきつく締めているが、らせんの隙間から軍団は攻め入ってくる。
大半は途中で力尽きるが、たまに終着点にたどり着くヤツもいる。
アリすげ~。
ヤツらは獲物に狙いを定めると、極限の地までも分け入るのだ。
なんて、感心している場合ではなかった。
さっちー師匠。
ど根性アリたちは、菌髪ピチピチギャルを見向きもしません。
うれしいことではありますが、説教したい気もします。
(続く)