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NZ life|デイジーラバーズのような日々

ニュージーランド30日目。
天気、曇りのち晴れ。気温16度。日向は暑い。

昨日はお休みで一日ゆっくり過ごした。
図書館に行ったり、コーヒーを飲んだり、ソファで本を読んだり、海に行ったり、砂浜に絵を描いてみたり。

ゆっくり過ごすなかで気づいてしまった。
夏が来たのだ、と。


数日前まではそんな予感なんて全くしていなくて、どこに行ってもみんなは暖かそうなスウェットやダウンを着ている。12月は夏と聞いていたけれど、そんなものは嘘で、全然夏なんて感じなかった。

ところが、だ。

手を叩いたように、一瞬で夏が来た。スーパーの前では家族みんなでアイスを食べているし、通りすがる人たちはみんな半袖半ズボン。いつもは砂浜で遊ぶ子供たちも、今日は海の中に入っては波に揉まれている。

みんなが一斉に夏を始めるものだから、私も何かしなければと思い、そうは思っても何をしたら良いのかわからなかったので、お庭に転がっているレモンを収穫して、冷たい水の中に入れて飲んだ。爽やかな、初夏の味がする。

夏を全身で浴びながら過ごすお休みは、いつもより開放的で、どこへでも行けそうな気持ちがした。




今朝はいつも通りに起きて、朝ごはんを食べ、鶏のお世話、その後は畑仕事。タマネギの苗を等間隔に並べて欲しい、と言われた。だいたい15cmくらいに、と。

頭の中で15cmを思い浮かべる。
小学生の時に使っていた、青い定規を思い出した。あの定規と同じ長さの間隔で、これらの小さなタマネギたちを並べていく。

黙々と作業しながら、頭の中に青い定規を思い描いていくうち、その定規が記憶の中よりもっと可愛らしいものであったことを思い出した。

そう、クマがいた。

定規にはクマみたいな愛らしい生き物が描かれていて、周りにはリボンや星が散りばめられ、お姫様がつけるティアラだとか、きらきら輝く宝石だとか、とにかく世の中のファンシーでかわいいを詰め込んだような定規だった。

青い定規を思い出すと、今度は鮮やかなオレンジ色の筆箱を思い出した。きらきらとラメがいっぱいに光るオレンジの筆箱には、キュートなおサルさんが描かれていた。


その筆箱は「デイジーラバーズ」というブランドのものだった。

おめめぱっちりキュートなおサルさんがモチーフの、南国テイストなブランド。ナルミヤ・インターナショナルが出しているブランドで、当時小学生だった私はデイジーラバーズに夢中だった。




5年生の頃、私の学校ではナルミヤ・ファイブというものが結成された。洋服はもちろん文房具や水筒など身の回りのものを、とにかくナルミヤグッズで固めた、スーパーパワフルなガールズチームである。

メンバー構成もいわゆるヒエラルキーのトップに属するような、学校の誰もが知っている、きらきらと華やかな女子たちで構成された。男子が「好きな人いるんだ」と打ち明ける時はいつもナルミヤ・ファイブの誰かである、みたいな、そんな神格化された存在。

私は小学生の頃、わりかし目立つ存在だったので、そのグループにすんなり入れた。というより、気づいたら入っていた。リーダー格の子から「きい太ちゃんは運動神経がいいから、デイジーがぴったりだね」と遠回しに「お前はサルみてえなもんだ」と言われ、デイジーラバーズの担当を任された。

そんな訳でデイジーラバーズのものを親にねだり、コツコツと集めた。

知っている人は知っていると思うけれど、ナルミヤブランドは、子供向けにしてはまあまあな値段がする。頻繁に買い与えられるものではない既成事実が、ナルミヤ・ファイブをより神格化させた。改めて思うけれど、親に感謝でしかありません。本当に。


今思えば、ナルミヤ・ファイブは面白いくらいキャラクター分けされたグループだったので、個性豊かなメンバー紹介をしたい。

ナルミヤブランドを知らない人は「そんなブランドあるんだ」とでも思ってもらえたら。

PR TIMESより。一番右がデイジーラバーズ


メゾピアノ

まずは誰もが憧れるメゾピアノ。ピンク、リボン、ハート、うさぎ、いちご、とにかく女の子が憧れる「かわいい」がぎゅっと詰まった、王道のブランド。

メゾピアノを任されるには当然「女の子らしさ」が必要。近所のママたちから「お人形さんみたい」と評判のTちゃんが担当。実際、彼女はキッズモデルをしていたらしい。


エンジェルブルー

その次、ポップなイメージが人気のエンジェルブルー。その名の通り「青」をモチーフにしており、アメリカンテイストで元気いっぱいなイメージ。

色素の薄い茶髪を刈り上げた、元気でパワフルなYちゃんが担当。スカートは絶対に履かない、という強い信念を持っていて、ドッジボールがめちゃくちゃ強い。個人的にとても好きだった。ちなみに彼女がリーダー。


ポンポネット

そして、おそらくママたちからの支持率第一位であるポンポネット。清楚を売りにした、水色と白がテーマのブランド。お誕生日会に着て行ったら「あら育ちがいいのね」と思われそう。

メゾピアノやエンジェルブルーほどの「ナルミヤです!ドヤ!」感がなく、控えめにチワワとクマが描かれた可愛らしいブランドなのが良い。優しく、おっとりとした性格のSちゃんが担当。


ブルークロス

お次はナルミヤブランドにしては、ちょっと特殊なブルークロス。アメリカの路地にいそうなスケーターやダンサーなど、ストリートなイメージ。バチバチにクールなゴリラ風のサルがモチーフ。

いつもぼんやりしていて、口数も少なく、ミステリアスな雰囲気が漂うHちゃんが担当。彼女は美容師になったと、風の噂で聞いた。


デイジーラバーズ

最後に我らのデイジーラバーズ。ポップでビタミンなイメージ。パーカーやジーンズなど、わんぱくキッズ御用達アイテムでの展開が豊富。

ピアスなんか開けちゃったおサルさんが、サーフィンしたり、ビーチでチルしたり、とにかく南国をエンジョイしている。サルのように運動神経が良かった私の担当。


とまあ、こんな感じで個性豊かに色分けされた5人が、ナルミヤ・インターナショナルの服や文具で身を固め「私たちイカしてるでしょ」と肩で風を切って歩く訳である。小学校の長くて細い廊下を。




タマネギの小さな苗をただひたすら等間隔に、頭の中で青い定規を浮かべながら15cmずつ植えていると「ああそうだ、本当はポンポネットが着たかったんだよね」と思い出した。


ポンポネット。水色と白がテーマで、チワワとクマがモチーフの、控えめなブランド。おっとりと優しく、清楚な感じがする。

私は、本当は、それになりたかった。
ビーチでチルする、ビタミンポップな南国のサルではなく。


だけどナルミヤ・ファイブにおいて担当が被ることは決して許されることではないし、ナルミヤ・ファイブを抜けることも、私のプライドが許さなかった。

クラスメイトから届いた年賀状に「私もナルミヤ・ファイブになりたい」と書かれたメッセージを見て、私は私の立っている場所を譲りたくないと思ってしまった。

だから特に着たい訳でもないデイジーラバーズを着て、学校に通った。みんなから「きい太ちゃん、新しいお洋服すてき!」と言われるたびに、南国のビタミンポップなサルも悪くないのかもしれないと思った。

ちっぽけな自尊心が、私を大きく見せようとした。


でも、本当のところでは、ポンポネットが着たかったのだ。どうしてもその思いを捨てきれず、私はこっそりポンポネットの定規を買った。お小遣いを貯めて、自分のお金で買った。青いクマの、控えめで、清楚な定規を。ティアラやリボンが散りばめられた、ファンシーな青い定規を。

親には「ネームペンで汚れたら嫌だから」とお願いして、イオンの文房具売り場にある、簡素で味気ない、プラスチックのピンクの定規を買ってもらった。

授業中や友達に貸すときはイオンの定規を取り出し、ポンポネットの秘密がバレないようにした。


筆箱の底にあったポンポネットの青い定規を思い出しながら、タマネギを植える。15cmって確か、これくらい。

筆箱を開けたとき、私にだけ見える宝物を思い出しながら、タマネギを植える。15c mって確か、これくらい。


今、ナルミヤ・ファイブのみんなは何をしているんだろう。

キッズモデルだったあの子は、今でも「お人形さんみたい」とチヤホヤされているのだろうか。

スカートは履かないと決めたあの子は、デートに来ていく服を悩むとき、やっぱりスカートは手にしないのだろうか。

美容師になったらしいミステリアスなあの子は、今も誰かを美しく変身させているのだろうか。

そしてポンポネットを着ていたあの子は、ポンポネットを着ることを許されたあの子は今でもやさしく、おっとりと、清楚なままでいるのだろうか。私みたいに、小さなタマネギを15cm間隔で植えるなどしているのだろうか。


南国でチルするビタミンポップなサルの顔を思い出す。

ニュージーランドという自然豊かな大地。各所からサーファーが集い、のんびりとした雰囲気が流れるこの町の片隅で、タマネギを15cm間隔で植え続ける私には、やっぱり、デイジーラバーズがピッタリなのかもしれない。

小さなタマネギたちが、どうか大きく育ちますように。
周りの目を気にせず、自分の生きたいように生きられますように。

15cmの間隔など、なんでもなかったと思えますように。



ちなみに今もナルミヤ・インターナショナルは健在で、相変わらず「私たちのかわいい」がぎゅっと詰まっています。なんなら時代のせいか、ちょっとスタイリッシュでおしゃれ。


追記:不本意でしたがデイジーラバーズは気に入ってました。本当です。

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