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だれだ、びっくりドンキーに営業した奴は。
ほぼすべての仕事には営業活動が必要である。
数年前から、テスラ社は営業マンを雇用せず、ネットだけで車の購入を完結させる、という形で自動車業界に旋風を起こしているわけだが、このネット販売ですらも営業活動である。
ほぼすべての仕事には、
それを売り込む営業マンが必要だ。
たとえば、よくいく居酒屋。
ビールを頼もうと思えば、居酒屋ごとに扱っているビール会社が異なる。あそこはアサヒ、あそこはサッポロ、ふーんキリンかぁ、と思えばあそこはサントリー。
私はもう一生お酒を飲むことは叶わないが、でも居酒屋に行くたびに「ここはサントリーか。営業マンはどんな人なんだろう」とか思ったものだ。
…
営業活動には難易度が存在する。
限られた予算内で完結させることだったり、社長決裁を仰ぐためのプレゼンだったり、一見必要ないもののニーズを喚起させて売り込んだり。
生命保険の難易度はどうだと思う?
わからない。
難易度によって、仕事の優劣はない。
繰り返すが、世の中のあらゆるサービスは、表に出てこない誰かの営業活動で成り立っている。
…
ここ数年で、私が最も驚いたのは、びっくりドンキーの電子注文タブレットの導入である。
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ここまで読んでくださった方に、
ちょっと質問したい。
みなさんのお住まいの近隣には、
びっくりドンキーはあるだろうか。
ほとんどが「ある」とお答えになるだろう。
では、休憩がてら豆知識を授けよう。
びっくりドンキーは、札幌に本社を構えている。
へぇ~。
びっくりドンキーでよく見る木のお皿、あるでしょう。あの茶色いやつ。
うんうん。
あれは、一部が刑務所で作られている。
全てではないが刑務作業で作っているのだ。
へぇ~。
試しにびっくりドンキーに行って、木のお皿の底を覗いてみて。そこには製造年月日と、どの刑務所で作られたかを識別するためのアルファベットが書いてある。
これはびっくりドンキー本社、
社長秘書の方に直接聞いた。
私が「へぇ~!」と驚くと、彼は、
「イトーさんもこれでドンキーマニアですね」
とニヤリとしていたものだ。
(休憩おわり)
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電子タブレットの導入に話を戻す。
当時、びっくりドンキーの社員から聞いた。
「こだわりなんです。注文のときのあのでっかいメニュー表が。あれは先代のこだわりで、来てくださったお客様をびっくりさせたいと思って、変えていないんです」
あのでっかいメニュー表。
わかるでしょう。
席に座ってスタッフさんがやってくる。
でっかいメニュー表を持って。
たしかに子どものころはワクワクした。
あのでっかいメニュー表は扉のようになっていて、グイッと開く。
そこにはたくさんのメニューが書かれていて、私たちは「チーズバーグディッシュにしようかな、でも普通のハンバーグディッシュでいいや」とか思うわけでしょう。
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先代の社長からのこだわり。
お客さんをびっくりさせたい、
というサービス精神。
これをひっくり返して、
電子タブレットを導入させる、という
営業活動の難易度は、どうだろう?
高い? 低い?
高いね。
なぜなら、あのでっかいメニュー表は、
びっくりドンキーのアイデンティティだからだ。
だからこそ、驚いた。
だれだ、びっくりドンキーに
電子タブレットを導入させた人間は。
どうやって説得したんだ。あのメニュー表を持っていくコストと、電子タブレットを導入したあとのコストを、ロジカルに力説したに違いない。
たしか、あの電子タブレットは、札幌を皮切りに試験的に導入したと聞いた。全国津々浦々まで広まっているのかは知らない。
どんな会議が開かれたんだろう。
(ほわんほわんほわ〜〜ん)
……
…
..
.
経営企画の人
「社長! たしかにタブレットを導入すれば、アルバイトたちの労力を減らして、業務効率を上げることができますよ! そこにいる営業さんの言う通りですよ!」
社長
「うーん、しかし、あのメニュー表は、わが社のアイデンティティだからなぁ」
経営企画の人
「私たちだって先代の哲学は分かっています! しかし、社長! もう四の五の言ってられない時代なんです!」
社長
「しかしだなぁ…。分かってはいるんだ、効率化させなければならないことは。だがなぁ…先代からのこだわりが失われるのは…」
イトーダーキ
「ん~社長。なら、試験的に1店舗だけでスタートして、定量的にデータを取ってみるなんていかがでしょう。広げるか広げないかは、また一緒に判断しましょうよ」
社長
「そ、そうか! イトーダーキ君!
キミがそう言うなら、そうしてみようか!」
経営企画の人
「さすがイトーダーキさん! エッセイ毎日おつかれさまです! 私たちも読んでます!」
イトーダーキ
「いえいえ、礼には及びませんよ。あはははは」
全員
「すっげぇや!」
私が登場した。
こんなこと言ってない。
言ってないけど、私ならそう言う。
だからこそ、思うのである。
だれなんだ、
びっくりドンキーに営業したやつは。
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<あとがき>
びっくりドンキーの社員のみなさんは、びっくりドンキーが大好きです。先代へのリスペクト、時代への対応、日々学び吸収してチャレンジしていく姿勢を、彼らから学びました。妻と外食することは少ないのですが、びっくりドンキーにはよく行きます。そのたびにお皿の底を見ちゃいます。これでみなさんもドンキーマニアです。最後までありがとうございました。
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