札幌のタリーズコーヒーで、トイレを待っていたら。
ある平日の暑い昼下がり、札幌ファクトリーという商業施設内に入っているタリーズで、仲の良い知人と打ち合わせをしていた。テラス席だ。よく晴れた日だった。
水出しアイスコーヒーを頼んで席に座る。仕事の話や人生の話など、知人の悩みを聞いていると、ふと尿意をもよおした。
(おしっこしたいなぁ…)
たとえばビール、あるいはコーヒーを飲むと、きちんと利尿作用が働いて、私はすぐにおしっこがしたくなる。この日も例にもれずそうなったので、相手に言った。
「ちょっと、お手洗いに行ってきてもいい?」
「あ、もちろん」
このタリーズには男女兼用のお手洗いがひとつだけあって、私がお手洗いの前に着いた時、扉の鍵は閉まっていた。すでに人が入っている様子だ。中からは音姫だろうか、あの「チョロチョロ〜」という音が聞こえてくる。
直感的に「これは結構待つぞ?」と思った。中の人を急かすやり方として、「鍵がかかっていると知りませんでしたよ」という体裁で、ドアノブをガチャガチャするやり方あるでしょう。私はそれをやろうと思ったのだけど、さすがにそれは違うな、と思ってやらなかった。
施設内の他のお手洗いを使おうかなぁ、とも思った。けど、移動するよりは待ったほうがいいなと判断して、ドアの前で突っ立って待つことにした。
待つ。
1分、2分、待つ。
待つ。
しかし、待てど暮らせど出てこない。
中では音姫が鳴っている。中にいるのは男性だろうか女性だろうか、分からない。私は尿意を我慢する。突っ立って待つ。
あの数分って長いですよね。
要するに結構待った。
お手洗いの前で。タリーズの。
音姫の音が途切れて、お手洗いの中からはガサゴソとする音が聞こえてきた。早く、早く。私は漏れそうなんだ!何を中で悠長にしてるんだ!ガサゴソの音がやけに長いので、中にはきっと女性が入っているんだろう、と目星を立てる。
女性なら仕方がない。
お化粧直しとか、やること沢山ある。
にしたって長い。
ガソゴソという音が途切れて、次はドアノブが動いた。ガチャっと。
(おお、やっと出てきてくださるか!)
と思ったが、鍵がかかったままでドアノブをガチャっとやっていたので、当然ドアは開かない。だから、まだ出てこない。まだか?いや、落ち着け。とにかく落ち着いて。冷静に。
またしばらく中でガサゴソと音がしてから、とうとうドアが開いた。やっと開いた!どんな人だ?男性?それとも予想通り女性?
見ると、
黒髪のポニーテールの女性。身長は150cmくらいで、こう書くとあれだが、体格はとても大きな方だった。
少し日に焼けた健康的な肌で、歳の頃は20代前半。服装はフリフリした白のワンピースで、スカートがとてもヒラヒラしててピンク色が入ってる。
友人といると控えめにお話をしそうな印象の、
大きめなフリフリの女の子。
私は何分も待ったが「急いでませんよ、全然気にしてませんよ」という態度でいようと努めた。この女性は私に対して何か言うのかな、と思っていたら、可愛らしい声でこう言われた。
「どうぞ」
いや、どうぞじゃないから!
なんやねん「どうぞ」って!
言われなくても入るし、なんなら何分も前からどうぞしたくて、僕は突っ立ってたよ!
どうぞってなんだ、どうぞって!
だいぶ待ったよ!待ってたんだよ!
「どうぞ」じゃないから!
とは当然言わず、
「あ、ありがとうございます」
と言って会釈した。
お手洗いに入って、
用を足している時、ふと思った。
「あ、これはnoteのネタにしよう」