駒大苫小牧の思い出。
私にとっての夏の甲子園は、KKコンビのPL学園ではないし、松坂の横浜高校でもない。当然、やまびこでも、がばいでも、秋田の農業高校でもない。
駒大苫小牧だ。
夏の甲子園のこの季節、北海道民として駒大苫小牧について書かないわけにはいかない。みんなご存知、駒大苫小牧。
駒大苫小牧高校は2004年、北海道勢として初の全国制覇を成し遂げ、翌2005年も2年連続で夏の甲子園を制覇。
三連覇を目指した2006年、きちんと決勝に進出して、きちんと早稲田実業に負けて準優勝。
ついでに書くと、駒大苫小牧はその翌年の2007年も夏の甲子園に出場したのだが、1回戦で広島代表の広陵高校に負けている。
ありえない。
夏の甲子園で3大会連続で決勝進出。
ありえない。考えられない。夏の甲子園を連覇して? 三連覇を目指してきちんと地区予選を勝ち上がって? それで甲子園に行って、ちゃんと勝ち上がって? ほんで3回連続決勝進出?
いや、すごい。
中学受験の確率の問題にありそうだ。
絶対王者という言葉がよく似合う。3回目のあの夏は、全国の高校のどこもかしこもが駒大苫小牧対策をしていたとかしていないとか。
駒大苫小牧が3大会連続で決勝に進出したのは、2004年、2005年、2006年の3年間なんだけど、この時期の私は14歳、15歳、16歳だった。つまり中2、中3、高1である。
我が家はサッカー党だったから、北海道といえど2004年はそれほど駒大苫小牧フィーバーに熱狂していなかった。なんなら2004年の試合は1試合も見ていない。
が、2005年大会は最初から見た。
2006年大会も、もちろん全て見た。
2006年の東洋大姫路戦だったか、智弁和歌山戦か、はたまた決勝の早稲田実業戦か失念したが、あの試合中は、なんなら高校の古典の授業中だった。
スマホなんてないので前日にラジオを買って、胸ポケットに入れ、袖からイヤフォンを通し、授業を聞くふりしながらほおづえをつき、耳にイヤフォンを入れた。
バレバレな気もするんだけど、意外とバレない。
クラスの男子は3割が同じようにほおづえをついていて、女子は特に何も言わなかった。
駒大苫小牧はシーソーゲームが多かったので、私は授業中でも打たれるたび、得点が入るたびに後ろを振り返った。そして友だちと視線を合わせて声も出さずに、
と、やったもので、
そんなことをしていると友だちは私に、
と、ジェスチャーをしていた。
その様子を怪しんだ古典の松井先生が、
とスネイプ先生のように当ててくるもんだから、バレないようにそっと、ほおづえとイヤフォンを外して、
と答えると、松井先生は「その通り」と言って、友だちはニヤニヤしていた。
それほどに駒大苫小牧に熱中していた。
なぜ甲子園は楽しいのかな。
最近はすっかりみる機会が減ってしまったけれど、見てると楽しい。あれはなぜだろう。
青春の投影、元気ハツラツ、全力プレー、ヘッドスライディング、金属と硬球が弾ける音、アルプスの大歓声。
どれもがきっと見てて楽しい理由の一因な気はするけど、何かが違う。どれもそうなんだろうけど、ちょっと違う。
なぜ甲子園は楽しいのか。
唯一の都道府県バトルだから、じゃね?
全国放送される都道府県対抗のバトルって、もう甲子園しかない気がする。高校サッカーとか花園ラグビーとかもあるけど、季語にはなりえない。
たしか「甲子園」は夏の季語だ。
それくらいの市民権。それくらいの知名度。
それほどのスケールのものが、基本的構造として、都道府県対抗の野球バトルだから、おもしろいんじゃないかしら。
地方でもどこでも、実力があれば関係ない的な。戦国時代と似ているね。
さらに儚さもある。
1回戦で13点差でボコボコにしてきた高校が、続く2回戦で10点取られてボコボコにされる。上には上がいて、さらにその上には上がいる、みたいなパターン。
出場している全員が、その世代、その地域を代表する一流のベースボール少年なんだ。それがひとつの場所に集まって、競い合う。
そんなん、普通に考えて優勝は無理じゃん。とは思わないけれども、可能性としては優勝確率は限りなく低い。
すごいなぁ。
駒大苫小牧が三連覇に王手をかけたとき、北海道民としては鼻高々、とても誇りに思ったものだ。こんなにすばらしい高校が北海道にあるんだぞ、と誰に言うでもなく感じたものだが、これの愉快なところは、
視聴者は何もしていない。
という点だ。
ただ見ていただけ。どうして自分にゆかりのある団体や人物がすばらしいことを成し遂げると、応援している自分まで鼻高々になってしまうのだろう。
投影してるからか。
そういうことにしておく。
夏もそろそろ終わるみたいだ。
野球、スポーツ、勉強、仕事と、あらゆる努力をする子どもや大人たちにとって、この夏がより、実りのあるものであったならいい。
私も、もうすこしがんばる。
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