青山フラワーマーケットでバイトしてたときに気づいた富裕層の特徴。
大学生のとき、青山フラワーマーケットでアルバイトをしたことがある。
札幌市の中心街にある、三越伊勢丹系列のデパート「丸井今井」本店の地下に今でも青山フラワーマーケットがあるのだが、20代前半の私はそこでアルバイトをしていた。
いまから10年以上前の私は花屋系男子だったということになる。なんともしゃらくさく香ばしい匂いがする。
本題に入る前に、つまり「富裕層の特徴」に言及する前に、なぜ私が青山フラワーマーケットでアルバイトをしていたのかを長大に説明してみたい。
今でこそ花屋で働く男性というのは珍しいものではなくなった気がするのだが、当時の青山フラワーマーケットにおいては男性スタッフを見ることはなかった。
なぜ私がそこにいたかというと「花農家」になりたかったからである。
きっかけは当時お付き合いをしていた女性に花をプレゼントしたことだった。何の日でもないある日、私は「あ」と思い立ち、彼女に花束をプレゼントした。彼女は目を仰天させて驚いており、すべての歯茎がむきだしになって裏返り、顔全体が口になるほどに大きく喜んでいた。
その様子を見た私は、はたと気づいたのである。
花には人を喜ばせる不思議な魔力がある。
当時20代前半の私というのは、やることもなく、将来に対するさしたるビジョンもなく、かといって他人と同じことはやりたくない、という尊大な男だった。そこで花である。舐めている。
彼女がこれだけ喜んでくれるということは、まだ見ぬ日本人1億2000万人全員が喜んでくれるのではないか、じゃあ花屋でもやろうか? いや花屋だと届けられる範囲が限られる。
じゃあどうすればいい?
あぁ、そうだ。花農家になろう。という単純な論理である。当時の私は頭の中にもお花が咲いていたにちがいない。
そうなると、花について知る必要がある。花屋とはどんなビジネスモデルなのか、どこで収益をあげているのか、花農家と花屋の関係性はどうなっているのか、そういうことを知りたくなった。思い立ったらなんとやらで、まず私は家の近くにある花屋で働くことにした。
地元に2軒の店舗、スーパーの中に入っている花屋を複数運営しているような花屋。さぞかしキラキラした世界にちがいない。そう思っていた。
が、ちがうのだった。
キラキラというよりサムザムだった。
その花屋は、贈答用の花みたいなものではなく、仏花つまり葬祭業とパイプを持つ花屋であった。葬儀のときのあのでかい花。あれを作り、運び、斎場に設置する。なんなら花で覆われた巨大な祭壇を作る作業もあった。
これは完全にミスマッチなのだが、私はてっきり花屋に勤めるものだと思っていた。しかし蓋を開けてみると私が担当していたのは斎場に花を運ぶドライバー。これはおかしいぞ。
もう顔も名前も覚えていない先輩社員はとても暗い顔で「イトーくん、これが現実なんだよ」と教えてもらった。重い花を持ち上げ、車に運び、慣れないハイエースで運ぶ。寒々とした斎場に入り、また花を運ぶ。体力仕事である。
この仕事がいったい何時に終わるのかも教えてもらえぬままに働く日々が続き、私は数ヶ月ののちにその花屋を辞めた。
失意のうちだったがまだ花業界全体を知れたわけではない。なので花市場にも行き話を聞いてもみた。花農家に話を聞きに行ったこともあった。
が、現実はなんだかちがった。なにがちがったのかというと、すべてがちがった。想像の世界よりもはるかに厳しく、泥くさく、寒く、どえらい作業の連続だったのである。あれは大変だ。花業界の人はすごいと思う。マジで尊敬している。
とはいえまだ諦められないので、じゃあということで、日本一の花屋はどこなのだろうと調べてみる。日比谷花壇とか。その中でイメージが最もわきやすく、カジュアルだったのである。青山フラワーマーケットが。
デパートの地下にある青山フラワーマーケット。
ここには日々たくさんのお客さんがやってきた。
丸井今井はデパートであるから、お客さんの層としては富裕層が多い。私はそこで他の女性社員ができないような、重い花を倉庫から運んでくる仕事を率先してやった。
「イトーちゃん、マジで助かるわぁ」とみんなに言われた。花のいい香りがするスタッフから。
いつしか花に関する知識もついてきて、花束を作ったりするようにもなった。しかし、なんて言うんだろうな。端的に言えば「私には合わなかった」ということだろうと思う。何事も合う人には合うし、合わない人には合わない。
しかし、花に関する知識はついたし、花農家と花市場の関係性、花屋のビジネスモデルみたいなものは、かじっただけだがなんとなく理解することができた気がする。お花に携わっている方には「うるせぇな」と思われそうで申し訳ないけども。
さて本題。富裕層の特徴だった。
デパート内の青山フラワーマーケットに来るお客さんを見ていて気づくことがあった。デパートで花を買うくらいだから、客層はある程度の所得水準だと容易にわかる。お客さんを見ていると肌に沁みてよくわかる。富裕層の特徴。
彼ら彼女らには不思議な余裕がある。落ち着いたオーラをまとっている。多少車をぶつけられても「あちゃー」と笑っているようなそういう余裕。
日常的に花を買うという行為が当たり前になっている。だから花屋にくる。それが自分用か贈り物用かはどちらでもよく、日常に色味と香りを加えるアクセントたる花を生活の一部にしている。そこにお金を払っている人種。
レジ打ちをしていてよく思った。
ほぼ全員、「お財布」にこだわっている。
なるほど、お金に愛される人は、お金を愛しているのだろうな、大切にしているのだろうな、と思いながらレジを打っていた。お財布はお金が住む家である。お金はあくまで手段ではあるが、ときどき願いを叶えてくれるもの。
富裕層はお金を大切にしているのだ、ということが財布をみてよく理解できたのである。おもしろいもので、だれも例外がいなかった。全員、お財布がしっかりしたものだったのである。
私は田舎の出自で家も貧乏で、都会の生活に縁もなく、家族に大卒の人間がいるわけでもない。そういう環境で育った人間である。
だから、20代前半のころに、ほんの少しでも、そういう自分とは遠い世界にいる人種の「何か」を知る機会が得られてよかった。
あのころからかな、お財布を大切にしようと思えたのは。要するに、どこかで憧れてるんだよね。富裕層に。
花農家には、なれませんでした。
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