家の周りの風景
子ども時代の風景
お天気の良い日、のんびりまったりと、日なたぼっこをしていると、蘇ってくる風景があります。
広い神社の境内で遊んだこと、木材が浮かんだ運河沿いの道や、工場の脇の道を歩いたこと。
公設市場や商店の並ぶ道を通り、友達の家へ遊びに行ったこと。
夏の港祭り、町内でお揃いの浴衣を作って、子供も大人もそれを着て、皆で港までの道を、盆踊りを踊りながら、練り歩いたこと。
夜になると、港に泊まっている船から、遠く汽笛の音が聞こえてきたこと。
二階の物干し台から屋根へ上がり、瓦の上を歩いて、天窓から中へ入ると、階段をはさんで、物干し台とは反対側にある、部屋の中へ出られたこと。
お休みの日には、祖母に連れられて、繁華街の中心にあるデパートへ行き、洋菓子店が経営している喫茶室で、四角くて小さなサンドイッチを食べたこと。
それらは皆、子供時代を過ごした港の家での思い出で、年齢は、幼稚園から小学校の頃まででした。
故郷の家
今はもう、家はありません。
兄が家業を継がないことがはっきりしたので、店舗を兼ねた家は不要になり、売りに出したのです。
懐かしい家でしたが、いつまでも残っていて欲しい、とは思いませんでした。
父の故郷(父は、一人っ子の母と結婚した、婿養子でした)である東京に、家を建てて移ることになってからは、今度は東京の家が、我が家になったからです。
ただ、家がなくなっても、特に感慨はありませんが(実際、病気がちな両親に代わって、家の土地の売買のために、故郷の銀行に出向いて、手続きをしてきたのは、私でした)、当時の風景のことは、たびたび心に浮かんで来るのです。
家が懐かしいのではなく、思い出と結びついている風景が懐かしいのでした。
今、故郷に残っているのは、祖父が建てたお墓だけです。
東京の家
東京の家は、もともとは祖母の姉(私の大伯母)が住んでいた家でした。
大伯母と大伯父が、熱海にあるマンション(今で言う、高級老人ホームのはしりでした)に移ることになった時に、大伯母に頼まれて、姪である母が買い取ったのです。
大伯母には、一人息子もいたのですが、なぜ息子に土地家屋を遺さず、姪に売ったのか。
どなたにでも想像の付くような理由です。
母は、伯母さんのためだから、相場よりも高く買い取った、と言っていました。
そのために、持っていた土地をひとつ手放したようです。
暫く、その東京の家は放ってありました。
兄は長男ですが、家業は継がず、私も東京の大学に進学したため、祖母と両親はやむなく廃業を決意しました。
そして、この際、一家で東京に移ろう、ということになって、東京の土地に建っていた、古い家屋を取り壊して、家を新築したのです。
その際にも、新築費用として、母は、土地の一つを売りました。
その後、兄が開業する時にも、別の土地を手放したので、今はもう、私の故郷には、家も土地もなく、お墓だけが残っているのです。
土地にまつわる風景の思い出とともに。
東京の家で過ごしたのは、大学在学中から、結婚するまでの6~7年でした。
結婚後、現在の住まいへ
結婚してからは、数回引っ越しをしたのち、今住んでいる場所に移って来ました。
ここに家を建てようと思ったのは、何より、便利だったからです。
JRのターミナル駅から、歩いて13,4分です。
小学校は遠かったのですが、買い物をするには申し分のない土地でした。
大きなスーパーマーケットも何軒かあるし、何でも安く買える商店街もあります。
病院も銀行も揃っていますし、図書館も本屋もあります。
ただ、何というか、情緒に乏しい土地ではありました。
駅から近く便利なのは有り難いのですが、町並みが、正直美しくないのです。
準工業地域と言うのでしょうか、住宅街でもなく、何でもありの、雑漠とした光景が広がっています。
家の周りの風景を見ていると、ちょっと何かがのどにつかえるようなのです。
ただ、子供の頃、住んでいた場所だって、決して美しい土地ではありませんでした。
でも、なぜか懐かしい。
思い出が風景まで美しく作り変えるのなら、今住んでいるこの場所を、いずれ懐かしく思うことができるように、何か良いところを探してみよう。
一生懸命、町内を歩いて、考えて、二つ見つけました。
①猫が多い
②近くに川がある。
犬も見かけますが、散歩していると、塀の上や、道路脇の隅に、猫がいます。
猫好きの身としては、猫がいるというだけで、何だか住みやすそうな気がしてきます。
また、育ったのが、港のそばだったので、川が近くを流れているのは、水が近くにあるということで、それだけでも、嬉しいのでした。
これからも、住み続けていくうちに 、この町の良いところを見つけ、いつかはここが故郷になればいいな、と願っています。
まとめます。
子供の頃を過ごした家の周りの風景は、思い出と結びついていて、今でも懐かしく感じるものです。
今住んでいるこの家、この土地にも、愛着を持ち、懐かしい思い出ができるように、目の前の塀の上を歩く猫や、えさを食べに来る鳩たちを眺めています。
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