花筵
研究室の仲間と花見に来ていた。新歓も兼ねた、お酒も飲めるやつ。
桜は既にもう散り始めていて。ピンクの地面に敷いたシート。僕の隣には二つ下のあの子が座っていた。
初めて配属されてきた時から、可愛いなと思っていたあの子。
どうやら彼女はあまりお酒が強くないらしい。ほろよいの缶酎ハイも空け切らないまま、頬は赤みを帯び、心なしかいつもよりにこにこと笑っていた。僕の方も、久しぶりの楽しいお酒の席に、かなり気分が浮ついているのが分かる。酔いのせいにした人恋しさに、自然と距離が近くなる。ひらひらと咲き乱れる桜の頭上には、煌々と満月が輝いていた。
二人きりで自販機へお茶を買いに立つ彼女の足取りはふわついていて。隣を並んで歩くと肩がぶつかっては離れた。
わっ、と微かな声と一際大きな衝撃に隣を向くと、
ああ、顔、近い。
そう思ったのも束の間、唇は既に重なっていた。
互いの唾液が混じり合う。
アルコールでとくとくと早鐘を打つ鼓動に、
ずしりと血が下がるのを感じた。
まずい。
酒に、桜に、月に、当てられる。
軽く乱れた息を吐く彼女の髪には桜の花びらが乗っていて。ふとそれに手を伸ばす瞬間、彼女の小さく身構えた気配に我に返る。
なんだか、いつから、こんなに曖昧になったんだっけ。
そっと、花びらを払い除ける。
「あの、今度、ちゃんとデートしませんか。」
僕の言葉に、彼女のまあるい瞳と目が合った。
こくりと頷く彼女に、
大事にしよう。そう誓った。
花筵(はなむしろ)