日本人の死生観➐ーその時、生と死が分離したー
こんにちは。橘吉次です。
戦後高度成長に生まれ育った私たちは、全く「死」を考えてこなかった。
それが「生きている実感」を希薄にさせているのではないか?
そんな仮説から始まった「日本人の死生観」シリーズ。
前回に続き「生と死の接点」を古事記から考えてみようと思う。
いや今回は、接点というか「生と死」が分離した時をご紹介しよう。
観念の「死」から目覚めた瞬間
前回、日本最初の死者である伊邪那美命をご紹介し、生成の女神が死んで黄泉の国に往き、死者の国の神となった話を取り上げた。
前回の話の続きなので未読の方は、以下よりお読みいただきたい。
さて伊邪那美命と伊弉諾命の二柱の夫婦神
愛する妻に先立たれた伊弉諾命は、妻を連れ戻そうと黄泉の国を訪れ、そこで腐りはてた醜い妻の姿を見てしまう…
その時!
伊弉諾命は踵を返して黄泉の国からの脱出を図る。
「死」が観念から実感に変換された劇的瞬間である。
ウジが湧く妻の身体を目でみて
恐らく腐敗したタンパク質の臭いをかいで
死体に発生した雷のゴロゴロという音を聞いて
伊弉諾命は観念から目覚めた。
伊邪那美命が「見ないでね」と封印したのは、生者の肉体に宿る五感だ。
己の身体の五感で「死」を実感した夫は一目散に逃げだす。
「さっき会った美しい妻は幻影か?この腐った肉体が実物か?」なんて考えない。
まさに「生きるとは身体反応だ!」という生物学者の主張そのままの物語である。
脳ミソなんてなくても生物は生きるのである。
妻は怒る。
そりゃそうだ。
迎えに来てくれと頼んだ覚えはない。
自分の哀しみを処理できなかった夫が勝手にやってきて、「見ない」と約束したのに約束破って、死者の世界に生者の身体感覚を持ち込んだ。
だから、黄泉津醜女を遣わして夫を捕まえようとした。
捕まえてどうするつもりだったのか?
それは古事記には書いていない。
生と死が分離した現場
追いかけてくる黄泉津醜女に、伊弉諾命は頭に巻いていた冠や櫛や投げつける。
するとアーラ不思議
冠や櫛は、山ブドウやタケノコになって、黄泉津醜女がそれらを食べているスキに逃げるのだ。
伊弉諾命はやっとのことで、生の世界と死の世界の境界である黄泉平坂にたどり着く。
黄泉平坂
ここが、この夫婦神物語のクライマックスを迎える現場
「平坂」と書かれると、なだらかな坂道を連想しちゃうけど、
平=ヒラとは崖のこと
坂=サカとは境のこと
つまり、断崖絶壁
ここに桃の木が生えていた。
桃の実は霊力を宿し魔をはらう
これは大陸由来、中国の神仙思想から来ているらしいが、伊弉諾命が桃の実を投げつけると、追っ手は怖れて逃げ帰ってしまった。
そこでラスボス登場
伊邪那美命、御自ら追いかけてきた。
余りにも哀しく壮絶な夫婦別離のドラマが始まる。
伊弉諾命は、妻との間に大きな岩を置いて離別を告げるのだ。
古事記には書いていないが、日本書紀には「絶妻之誓」とある。
妻、伊弉諾命は怒りに震えて宣言する。
「愛しいあなた。こんな酷い仕打ちをするならば、あなたの国の人間を一日に千人殺しますよ」
夫、伊弉諾命はそれに答えて宣言する。
「愛しい妻よ。ならば私は一日に千五百の産屋を建てよう」
愛し合い支え合い、一つであった男女の別れだ。
この場面でさえ「愛しい」と呼び合う夫婦が離別する。
哀しい…
哀しすぎる…
そうなのだ
その瞬間まで一つであった「生と死」は、ここで分離する。
生者の世界と死者の世界は、この黄泉平坂の大岩を境界として、往来のできない分離した世界となったのだ。
この生と死が分離した現場、黄泉平坂は出雲にある。
現場状況を確認したい人は訪れてみるとよい。
「多産多死」これが生命の真実
さて、二人の離別宣言
妻「一日に千人殺します」
夫「一日に千五百人産みます」
(産屋を建てるということは「産む」ということ)
これはヒジョーに意味深い離別宣言である。
「だから日本国の人口は増えるのです」なんて、つまらん古事記解説書もあるが、そんな軽い宣言ではないのだ。
日々、千人産まれ
日々、千五百人が死ぬ
ドンドン産まれてドンドン死んで、1/3だけ増殖する。
ここに生命の大河の真実が語られている。
命は多産多死で、生死は循環する。
連日コロナ罹患者の人数とその死者が報道され、
「昨日の交通事故死亡者数」が交番に掲示され、
そして、生きることを自ら止める人が、日本では一日60人もいる。
私は、
今日も殺された豚や鳥を食べ、
死んでしまった腸内細菌たちを排泄し、
新しく生まれた皮下細胞に押されて、死に追いやられた細胞をお風呂で洗い流す。
生者の世界は「死」に溢れている
ひとつの「生」は、膨大な「死」に支えられている
これが真実だ。
この真実から目を逸らさないこと
これが「生きること」だと、神話は教えてくれるのです。
黄泉の国から戻った伊弉諾命は、最も輝かしい「生」を産みだします
次回は、そのお話をする予定です。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。
次回第8話はこちら
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