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エッセイ)勘違い

私は20年程前に某チェーン店のうどん屋さんで、バイトをしていた。
そこで中学生以来、疎遠になっていた幼馴染みのM子がバイトで来る事になり、久しぶりに再開した。
その再会をきっかけに毎週の様にM子と遊ぶようになっていた。

M子とは、家族ぐるみの付き合いでしょっちゅう彼女の家で夜遅く迄遊んでいた。同い歳だけれど、M子が男みたいだったので、弟か猫みたいな存在だった。距離感が近くて、すぐに人の膝の上に座ってきたりしていたので、お互いに男女としての意識は皆無だった。

小4から中2まではそんな感じだったけど、お互いに思春期なんかも迎えて徐々に疎遠になっていき、再会は6年振りだった。
お互いに見た目は大人になっていたものの、中身は変わらず、あの頃のままの接し方になっていた。

M子は知らない人からみたら、可愛いいらしく浜崎あゆみ似だと言われたり、小柄な容姿から守ってあげたくなる。とかも言われて、とてもモテていた。
私からしたら見た目は水木しげるの猫娘みたいだし、性格も男勝りでガサツ、守ってあげたい要素がない。地球が滅びても生きていけそう、と思っていた。

私とM子のやり取りや、しょっちゅう遊んでいる様子から、いつもカップルと勘違いされた。
バイト仲間が彼女に告白をする前にお伺いを立てられる事も何度かあった。その都度、ただの幼馴染みだと説明して、当時の私の彼女の写真を見せては誤解を解いていた。

ある日、M子から相談したい事があると、真剣な顔で呼び出された。
2人で彼女の車に乗ってドライブをした。
いつも通りの感じで話していたが、急に真剣な顔になりM子が切り出した。

『相談の件なんやけど…』

もしかしたらM子は私の事を好きになってしまったのか?…。
嫌ではないけれど、私には彼女もいるし、恋愛対象としては見れない。かと言ってM子を傷つけたくもない。そう思いM子が続きを話し出す前に私から話した。

『気持ちは嬉しいし、M子の事は好きやけど、異性としての感情じゃなくて人として好きって感じで、それに今は彼女おるしさ…。
もし、30歳位でお互いにいい人がらおらんくて、結婚相手が見つからんかったら、そん時は一緒になるとかって感じでどう?』

M子は半笑いで、
『何言うとんねん。違うわ。
社員のFさんと付き合う事になったんやけど、内緒にしといた方がいいか、公開した方がいいか聞きたかっただけやわ。
仮に30歳で独身でもアンタと結婚とかする位なら一生寂しい方がよっぽどましやわ。あほか』と言われた。

どうやら、何人かのバイト連中からしつこく告白をされて困っていたが、社員のFさんと付き合っている事を知って、そのバイトの数人が辞めると店が回らなくなり、結果としてFの迷惑になるから、どうしたらいいと思う?と言う相談だった…。
私は精一杯に気を使ったのに、この仕打ち…。しかも、付き合ってもいない女性にプロポーズをして断られた様な形になるという一生ものの恥までかく羽目に…。人の話はちゃんと最後まで聞きなさいって…こういう事なんだろうな…。

結局、Fさんからバイト仲間達に事実を伝えて、2人は公認のカップルとなり、そのせいで1人は辞めてしまったけれどもすぐに新しいバイトが来て事なきを得た。

数ヶ月後に私は彼女の誕生日前に振られてしまった。それからまた、数ヶ月後にウチでM子と飲んでいた時に彼女に渡せないままになっていた指輪をM子に発見された。M子は、

『女々しい男やな。こんなん残してるからあかんねん。振られた女の事なんか忘れて、とっとと次の彼女さがしや。捨てるのも次の彼女に使い回しにするのも良くないやろうから、私が貰ったるわ。30歳まで独身やったら結婚するんやもんなぁ』

と笑って指輪を持って帰った。

そして、その指輪はすぐに駅のトイレで紛失されてしまい、結局捨てたのと変わらない感じになってしまった…。

その後、お互いにバイトも辞めて徐々に疎遠となり、かれこれ20年…。
連絡は途絶えてしまっているけど元気でやってるんだろうか?
まぁ、多分、あいつは何があっても大丈夫だろうけど…。

終わり

追伸
この指輪の話を書いた詩が下記です。
未読の方は良かったら読んでください。↓
詩の中では何年もプレゼントが未開封になっていますが、実際には2か月程でした。笑

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