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花なきもののつける実
スパコンみたいな大きな装置がぎちぎちゴンゴン音をさせ、やがてしずしずと運び出してくる部品は無花果のように小さく、ピカリと光る。
「小さなものほど手間がかかる」と、今秋、早期退職を選んだ職人は静かに笑った。
カラクリを覚えるのにどれくらいかかるのだろう。わたしは無花果を作れるだろうか。
ひとの作るものは無花果。私はここよと名乗る花を咲かすことは滅多とない。職人以外の世界は、残す実のほんとう
終末テレビ ~carpe diem~
「地球はもう終わりです」とアナウンサーが叫ぶと、カメラは走り去る彼を映したあと、報道スタジオを彩る水槽を映したまま静止しました。ネットには秩序を失った言葉がひたすら正しく下へ下へとその数を伸ばし、スクロールを止めたPCの向こうでまだ増殖を続けています。
突然太陽の影から飛び出してきた彗星は、イギリスの国土ほどの大きさがあって、まるでSF映画のように確実に地球へ向かって飛んできていました。
ほたる、来い(シ・ラ・ラ・シ)
空に幾すじもの飛行機雲がある日、巨大な五線譜のようでその音の在りかを探していた。まだ五線譜が読めない頃。
たとえば父であったら風をなぞるように滑らかに歌うのだろうか。
たとえば大人になったら五線譜の中に音楽は浮かぶのだろうか。
たとえば、と何度繰り返しても歌は音符に読み返せなかったし、音階は私にとって歌ではない。私は直立し虚空を見上げたまま歌を歌わない子だった。
先生が歌う。
「ほ、ほ