![060419_0738_0001雨にぬれた花](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/210054/rectangle_large_99daabe934953611a338f871e3566a9d.jpg?width=1200)
月が綺麗ですね。
舗装の行き届かない田舎道、あちらこちらと轍で穿たれた跡に夜来の雨で水たまりができる。月は、その水鏡のどれ一つにも欠けることなく姿を映していた。
「天にはひとつ、地にはたくさん、なーんだ」
ひとり言をつぶやくには明るすぎる夜だから、努めてお道化て言う。
「なんだろう、お風呂? じゃないな、なんだろう」
思いつきで言った謎かけに、同じくらい軽い答えを返す。水たまりをひょいと跳んだつもりが、足先が浸かって私のほうへとふらついてきた。懲りもせず離れては寄り添い、「濡れたよ」と不満を言っては離れ、譲ろうと空けた道は歩かない。愛すべき千鳥足。
顔をあげればたったひとつの、俯けば幾つもの月。飽くほど土を穿ち水を張って映せば、いつか「欲しい」と泣かずにこの水たまりの月で心が治まることがあるだろうか。治まるのなら掘り、穿ち続けよう。新月には雨乞いをしよう。
行く先にこれからも月光が降るよう、そう願った次に、私は私の命がずっと続くことを祈った。
月もきみも気づかずにいていい。もしも命が尽きてこの地に水鏡が少なくなり、月の美しさを讃えることが少なくなったら、許してくれ。
ひとり言をつぶやくには明るすぎる夜なのに、どうして告げてしまいたくなったのだろう。
「月が綺麗ですね」