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リアル上のリアリティ!『星を継ぐもの』を読みました。
出だしから圧倒的におもしろい小説を読みました。ジェームス・P・ポーガン著『星を継ぐもの』です。謎が謎を呼び、きれいにまとまるため、推理小説としても読めて、グイグイ引き込まれました。感想を綴ります。
あらすじ
月面調査隊が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。すぐさま地球の研究室で綿密な調査が行われた結果、驚くべき事実が明らかになった。死体はどの月面基地の所属ではなく、世界のいかなる人間でもない。ほとんど現代人と同じ生物であるにかかわらず、5万年以上前に死んでいたのだ。謎が謎を呼び、一つの疑問が解決すると、何倍もの疑問が生まれてくる。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見されたが……
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「人類のものとみられる死体が月で発見された」
この出だしが圧倒的におもしろい。おもしろいのは、常識から根本的に疑う必要に迫られるからです。このアイディアがすごい。疑問はまず3つあがります。①誰の死体か(身元は誰か)②死の原因は何か③どこからやってきたのか
この疑問に言及した箇所があります。
「これがその死体です。そちらからのお尋ねがある前に、当然予想されるいくつかの質問にお答えしておきましょう。第一に…答はノウです。死体の身元は不明です。それで、わたしたちは仮にこの人物をチャーリーと呼ぶことにしています。第二に…これも答はノウです。何がこの男を死に追いやったか、はっきりしたことは何も言えません。第三に…これもノウ。この男がどこからやって来たのか、わたしたちにはわかっていません。」(p46)
さらに、この後、年代測定の結果、5万年前に死んでいることがわかります。ので、
「人類のものとみられる死体が月で発見されたが、その人物は5万年に死んでいた」
となります。事実がさらに謎を呼びました。
このように通説をひっくり返す事実が次々に判明します。「仮説が生れ、検証される」このサイクルが繰り返され、物語が進行していきます。チャーリー一族は地球で進化し優れた科学文明を持っていた説、優れた科学文明をもった別の惑星で生まれ進化した説などが次々にうまれます。
しかし、調査の結果矛盾点・疑問点が明らかになります。
地球で進化したなら、地球にチャーリーの文明の痕跡がないのはなぜか
別の惑星で進化したなら、なぜ地球の現代人と同じ体をしているのか
仮説検証のスピード感がはやいのも魅力ですね。上の疑問はちゃんと本書の中で解決されるので、ご安心を。
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スケールが大きいことも本書の魅力です。
次で発見されたチャーリーを含む人類を「ルナリアン」と呼ぶようになりますが、新たに「ルナリアンは、火星と木星の間にかつて存在した惑星ミネルヴァの住人だった」という事実が発見されます。さらに、木星の衛星で、謎の宇宙船が発見されます。
月、木星の衛星、惑星間移動、、、一つの死体から別惑星の歴史が少しずつ明らかになっていきます。どうやって月に来たのか、どうして月に来たのか、なぜ死んだのか、主軸の疑問は変わらず、スケールを大きく書く作者の力に脱帽です!
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「この事実(創作でうまれたもの、小説の中での事実)が本当だとすれば、~であるはずである」という理論でほとんどの仮説が成り立っています。前半(この事実~本当だとすれば、)が創作(うそ)で、後半(~であるはず)が現実(ほんとう)という構成です。
「リアルの上にリアリティがある」
この展開が物語をおもしろくしています。物語は全てを語れません。物理法則や宇宙の誕生からの歴史や仕組みをすべて記述できないという意味です。ので、物語はリアル(現実)の一部を借り、当然のものとして扱います。もし違う歴史や仕組みがある場合は、別途説明するという体裁をとっています。
本書『星を継ぐもの』のおもしろさを考えると、SFはリアルを正しく書くとおもしろくなるということでしょうか。
リアルとリアリティは違います。リアルは現実世界で実際に起きることです。リアリティは起こりそうなことです。リアルとリアリティの組み合わせが物語をおもしろくするといえそうです。
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ミステリーとして読める作品なので、ミステリー好きの人にも読んでほしい作品でした。SFとしても面白かった!
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。