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「11時に乱戦で」

「11時に乱戦で」
それが僕らの集合のサインだった。

4年前、カナダのラングレーという、バンクーバーに近いけれども小さい町に留学をしていた。そこでAとBという友人に出会った。彼らは2人とも一つ下だったが、片方は自分よりも大人に見えたし、もう片方はまさに年下というような奴で、留学中本当に同い年かこいつらと思うことが多々あった。
年下ではあったが、同じ時期に留学先で出会ったということで歳の差は特に気にせず普通に友達になってタメ口で話していた。最初こそいろいろと遠慮していたが、帰国する時には寂しすぎて思わず空港で泣いてしまうほど仲良くなった。

特に共通の趣味があったという訳ではないが、仲良くなれば休日や放課後に遊ぶようになるのは自然な流れであり、例に漏れず僕ら3人もよく遊んだ。
自分のホストファミリーの家に呼ぶこともあったし、遠出をしたりショッピングに行ったりいろいろなことをした。
ホストファミリーの家に呼ぶ時は決まって近くのマックに寄ってハンバーガーやポテトをテイクアウトした。最初の頃はデビットカードが中々使えずに困った思い出がある。

そして遊ぶ予定が立った時、前日には決まってAから「11時に乱戦で」という文章がLINEで送られてきた。これ以上何も言わずとも、それだけで僕らは集合できたのである。

「乱戦」というのは「ラングレーセンター」というバス停を略した「ランセン」が変換で漢字になったものだ。
この「ラングレーセンター」は、当時の自分たちにとっての新宿のような場所で、バンクーバーに行くためのバスに乗るにもそこに集まる必要があるし、ラングレーセンターの近く自体にも遊ぶ場所がいくつかあったりと、何かとそこで集まることが多かった。なんなら何をするか特に決めてない場合でもとりあえずラングレーセンターに集まるのがお決まりになっていた。時間は早すぎず遅すぎずの11時で(僕もBもよく遅刻していたが)。
最初は「ラングレーセンター」とずっと呼んでいて、時が経つにつれ「ランセン」と略すようになり、最後の方は予測変換に「乱戦」と出てきたものをそのまま気にせず送るようになり、上記のような文章が送られてくるようになった。初めて「乱戦」と送られてきた時なぜかツボって5分くらいベッドの上で笑い転げていたのを今でも鮮明に思い出せる。

帰国してから3年以上が経ち、当然ラングレーセンターに行く機会など無いため「11時に乱戦で」という文章が送られてくることもなくなった。

それでも今日は自然とその文章が頭に浮かんできた。
なぜなら今日はAとBの成人式の日だから。
当時から大人びていたA
子供っぽさがたくさんあったB
その2人ともがいつの間にか20歳になり、成人式の日を迎えた。時間の流れの早さを感じると共に、自分含め3人ともいろいろと成長したなと感じた。2人とも成人おめでとう。
僕とBは住んでいる地域的に帰国後もよくご飯に行ったりしているのだが、Aに関しては帰国後に顔を合わせていない。3人とも3人で会いたいという気持ちはあるので、ぜひとも会える状況になれば顔を突き合わせたいものだ。当時は飲めなかったお酒なんか片手に持っちゃって、留学中の話に花を咲かせるんだろうなと想像がつく。

もっと高望みをするのであればまた3人でラングレーに訪れたい。そして遊ぶ予定を立てて、Aの「11時に乱戦で」という集合のサインを貰いたい。

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留学が終わる直前に「ランセンともお別れか」と思って撮った写真
当時は「まあ撮れてるでしょ」と思ってそのまま家に帰ったが、何一つピントがあっていないというのにその後気づくのであった。

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