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『立ち会い出産』


夜勤終わりに急いで病院に向かうとさおちゃんから電話が。病室から俺の車が見えたとの事。病院に向かい歩きながら病室を確認すると、こちらに手を振っているさおちゃんが見えた!


久々に見れて嬉しかった。と同時に、遂に始まるのかと更に責任を感じながら病院に向かう。


病院に到着し、自分の診察券を作り、PCRを受け、1時間程で陰性と分かりホッとしたが、さおちゃんのいる目の前の所まで来たのにまだ部屋にも入れない。


部屋の中から覗くさおちゃんが見れてまたホッとしたけど、悔しくて、悲しかった。


助産師から説明を受け、昼頃の出産になるとの事。連絡が入るまで待機と言われ病院内1階で待つ事に。


コロナ感染対策の為、分娩直前でないと入れないと言われたが、ただでさえ出産に立ち会う事が初めてなのに直前でと言われてもどうすれば良いかの想像がつかなかった。とにかく待つしかない。


すぐにさおちゃんのいる5階に行けるように1階エレベーターの前でしばらく待っていた。



5階に上がったり、下がってきた赤ちゃんを連れたお母さんらしき方々を何人も目にしながら。心の中で「おめでとう」と言いながらも、胸が締め付けられる思いでいた。



昼になっても助産師からの連絡はない為、さおちゃんと連絡をとりながら状況を確認し、落ち着きなくひたすらに待った。ひたすら深呼吸をしていた。


「破水した」


さおちゃんからの連絡があり、じっとしていられず5階までエレベーターにて向かい、受付の前で待った。ひそひそと何か受付でこちらの事を言っていたがそんな事はどうでも良かった。


痛がるさおちゃんがそこにいるのに部屋の中には入れない。腰をさすってあげることもできない。連絡をとにかくとる事だけだった。さおちゃんの事が心配だった。



しばらくすると助産師から待合室までの入室の許可が出た。
待合室に向かうと不思議と落ち着いていた。


一緒にいた別のお父さんが赤ちゃんの説明を受けていた。
元気に産まれたらしい。おめでとうと言いかけたが、伝える気持ち的余裕は無く、近くの自動販売機をずっと見つめていた。


そうしているうちに、助産師が走ってきた。
その頃には気持ちはなぜかとても落ち着いていた。


「やっと、さおちゃんの所に会える。小嫮ちゃんに会える。」



そんな事を考えながら分娩室に向かった。



分娩室に入ると、泣き崩れているさおちゃんと、「すいません。すいません。」と謝り続ける助産師がいた。まだ小嫮ちゃんの姿は無かった。


真っ直ぐにさおちゃんのもとに向かい、手を握った。



こんなに小さな手をしたさおちゃんが、1人でずっと耐えて、頑張っていたのかと胸が熱くなった。



「頑張ったね。ありがとうさおちゃん。大丈夫。」


手を握りながら、頭を撫でながら伝え続けた。



そうこうしているうちに先生が来て、分娩の進み具合の確認を始めた。



直後に、小嫮ちゃんが産まれた。
とても可愛い女の子。


とても小さく、思ったより大きかった。


頭、目、鼻、耳、口、顎、肩、腕、手、お腹、お尻、脚、足、指、毛の全てがはっきりしていた。



頭はぷよぷよで、目は開いておらず、タナトフォリック骨位形成症の意味も理解できたが、ここまではっきりしていると思わなかったから驚いた。


確かに両腕、脚はやや短い様に感じたが全体的なバランスが良かった為、後もう少し待てばしっかり育ってくれるのでは?とも感じた。


小さな、とても小さな心臓は一生懸命に動いていた。


小嫮ちゃんを見ると、胸が熱くなりながらも自然と笑顔が出た。



「産まれてきてくれて、ありがとう。」



人生初めての立ち会い。



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