「はたらく」について考える前に【第4回】HRMとはなにか

こんにちは。けんけんです。

初回の自己紹介記事でも書いた通り、これから『「はたらく」について考える前に、知っておいた方がよいこと』というテーマで記事をいくつか書いていきます。

知っておいた方がよいこと、とは、みんなが分かっているようでよく分かっていないことを対象にしています。具体的な項目については、初回の記事でも書きましたが、

・目的とはなにか
・戦略とはなにか
・企業とはなにか
・言葉とはなにか
・強みとはなにか
・決めるとはなにか
・好きとはなにか
・らしさとはなにか

等々...

こんな感じのテーマで進めていきます。

さて、4回目は「HRM」について話をしたいと思います。「HRM」はご存知の通り「ヒューマンリソースマネジメント」の略語ですが、これってつまり何をすることなのか、を理解することは「はたらく」にもつながる話になってきます。

「HRM」の教科書的な説明やノウハウは世の中にもあふれていますが、その本質的なところは意外と置きざりにされている印象をうけます。この「はたらく」ということについて描き始めたきっかけも、実はここに対する問題意識があります。

「HRM」は企業の経営・事業戦略、そしてビジョンやミッション、バリュー、そして人材観に規定されます。そしてこれまでみてきた通り、これらの言葉はそもそも「目的」や「戦略」と言う言葉を正しく理解していないと理解がむずかしいです。

ということは、「HRM」自体も、なんとなく使っていたり、意味もわからずにやろうとしていることが多いのではないか。そして実際に人事経験の長い皆様であれば、「HRM」とは結局はその会社としての思想・哲学の体現であり、形だけ他所から借りてきてもうまくいかないことはよくご存知のことかと思います。 

その自社の思想・哲学と、HRMを繋げていくためのヒントを、この記事を通じてお伝えできればと思っています。


「HRM」とはなにか

さて、前置きが長くなりましたが、それではいつも通り

HRMとはなにか
HRMはなんのためにやるのか

まずはここから始めていきたいと思います。

HRM=ヒューマンリソースマネジメントは日本語に訳すと以下のようになります。

人的資源管理
→人材を経営資源として捉え、有効活用するための仕組みを体系的に構築・運用することを意味する

これだと実はよく分からないですよね。管理、というと、学校のようにやってよい、やってはいけないを校則みたいなもので縛る印象を持つ人もいます。

それでは、なんのためにやるのか、から考えてみましょう。これはずばり、競争戦略、つまり事業戦略のために存在しています。競争戦略とは2回目の記事でもありましたが勝つために存在しており、人をどのように扱えば競争に勝てるのか、という問いの答え(手段)がヒューマンリソースマネジメントです。

これに対する答えはおそらく古代から地域、年齢問わず普遍的で、特にヒューマンリソースマネジメントに新しい概念はありません。まとめてしまえば、以下2つになると思います。

1. 競争に勝つために必要なやつをたくさんあつめること
2. その人たちがみんな元気でやる気に満ちあふれていること

勝つためにに必要な人の量と質を揃える、またその人たちにモチベーション高くやってもらうこと、HRMとはこのやり方を考えて実行すること全体を指しています。

ちなみに余談ですが、歴史的な背景や変遷の詳細については専門書に預けるとして、時代の潮流としては 1→2へとHRMの目的が変遷してきていることはみなさまよくご存知のことかと思います。

大きな変化を捉えると、ざっくりと以下の2つになると思います。

A 情報化社会に突入して個人が賢くなり、組織、および社会に対してより強い力を持つようになった
B いわゆるVUCAと呼ばれる時代を迎え、組織の意思決定が現場の実態に追いつかない時代になった

結果、現場の1人1人が目の前で起きている現実に対して意欲的に向き合い、個人として意思決定をしていく重要性がより増すこととなり、そのために必要な環境をHRMにおいて提供することが大事になってきた、という流れとしてざっくりとご理解ください。

この中で、個人がより意味を感じたい、と強く思うようになってきている時代の変化もあわさり、これまでは管理の意味合いが強かったHRMが、人のやる気や力を引き出すための手段として注目を浴びるようになってきています。

この時代の変化もあって、有史以来大事な考え方であるにもかかわらず、特に2の項目にフォーカスする様な形で近年大事な考え方としてピックアップされることが増えてきた印象があります。

「HRM」とは思想の体現である

さて、HRMとは勝つために必要なやつを集めることと、その人たちがご機嫌にやっている状態を作ることとおきました。それでは、どうしたらそれは実現できるのでしょうか。

これに対する答えは簡単です。集めるためには思想を伝えて共感してもらうこと、そしてご機嫌になってもらうには思想に根ざしたやる気が出る仕組みを作ること、以上です。そしてこれは、恐ろしく実践が難しいことでもあります。

少し解説を加えていきましょう。前回もお伝えした通り、事業戦略自体は企業戦略、およびその上位の企業目的や思想に影響を受けます。つまり、ヒューマンリソースマネジメントのやり方自体も企業目的や思想に根ざしたものになります。

この中に入ってもらう人はどのような人が望ましいか。これは企業とはつまりなにか、という前回の質問とも少し関わってきますが、企業とは目的をもって事業をしている集団であり、その目的はとある思想に基づいています。

それを踏まえるとどのような人に入ってもらうかは一目瞭然ですよね。その目的や思想に共感し、意味を感じる人に入ってもらうことです。ただ、抱えることができる人材は有限なので、力を基準に合否をつけていくことになりますし、同じ力を持っている人よりも別の力を持っている人の方が欲しい、と選ぶことにもなります。

それでは、どのようにその人たちにご機嫌になってもらうのか。第1回まで遡ることになりますが、人のモチベーションがあがるのは意味を感じるときだけです。意味の感じ方はその人が持つ思想によっても異なりますが、構造としては一緒です。

同じ思想で異なる力をもった人たちを集団としてあつめて、その人たちが意味を感じる仕組みを、その思想に根ざしてつくる。これが一番シンプルな、ヒューマンリソースマネジメントの原型です。

思想とはなにか

さて、この思想、ときに人生観・好き嫌いと呼んでいますが、結局これってなんなの・・・?という疑問が、みなさんの中でもあるのではないでしょうか。一番大事、と言われても、これの正体が分からないと結局何を言っているのかよく分からない、というところもあると思います。

これをもっとも的確に、簡単に表現している言葉が、くしくもキングダムにも出てきます笑 主人公の元敵対勢力で牢屋に繋がれている、法の番人とも呼ばれている李斯が、昌文君とやり取りをする中で出てきます。

全中華を法によって治める、という政の構想に具体的な策が思い浮かばず、ヒントを見出すためにそれを李斯に尋ねた際、そもそも法とは何か、という質問を返されます。

法とは、刑罰を持って人を律し、治めるものである

という、上司の立場からすると、もっともありがたい(FBしやすい)昌文君の回答を受けて

馬鹿な!刑罰とは手段であって、法の正体ではない!

と一蹴した上で、以下の様に続けます。

法とは願い!
国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ。
統一後、この全中華の人間にどうあって欲しいのか、どう生きて欲しいのか、どこに向かって欲しいのか、それをしっかりと思い描け!

気概をもってやれ、愚かな法は国民に不幸を撒き散らす、、、

ここでは法という話で出てきますが、ほぼ≒思想と思ってもらって問題ありません。企業が持つ思想とは、

その企業が、社会や人に対して望む願い

のことになります。

思想がある・強い、とよく言われる会社を独断と偏見でピックアップしてみると戦略やヒューマンリソースマネジメントが雑誌の特集や書籍で扱われることが多い企業が並びます。

Google
Apple
Disney
ヤマト
リクルート
等々

ビジョナリーカンパニーや、ストーリーとしての競争戦略といった書籍で扱われている企業もこれらに類する企業でしょうか。

これらの会社の思想を、ここですべて連ねる様なことはしません。そもそも思想や人生観は一義的な言葉による表現がしづらいものであること(数学の答えとは違う)、それを本当に正しく理解するためにはその会社の歴史を深く知ること(思想には文脈、時間観が含まれる)、ユーザー、メンバーとしてこの思想に触れた濃度が意味をより明確にすること(シーンを通じた意味喚起) 、という観点で、多くの企業に対して私が客観的に述べる事はおそらく当事者からすると間違っているからです。

また、それらを解説する書籍の多くがそうなっているように、いろいろなエピソードやシーンをきちんと並べていかないとその本質は理解できないという点で、そのために書かれている書籍を読んだ方が確実にお分かりいただけると思います。

ただ、リクルートだけは、ある程度の確からしさを持ってお伝えできることもあるので、ここだけ少し触れさせてください。

リクルートの思想とは、

人間とは
・自分で感じ、考え、決めて行動し手応えを感じたい
・周囲に見せたい、見られたい、認められたい、一緒にやりたい
・自分の力はこんなものではない、いろいろな自分を楽しみたい
生き物であると信じている

→人間にそのように生きてほしい、そう生きることができる社会を創りたい

これは前回紹介した理念やビジョンに要素としては含まれているのですが、
対外的には言語化して語られていないことの方が多いように思っています。

Follow Your Heart
一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生。本当に大切なことに夢中になれるとき、人や組織は、より良い未来を生み出せると信じています。

この人間観をもとに、社会に提供するサービス、および社内のヒューマンリソースマネジメントを一貫させています。人生における選択機会の提供と尊重をするリクルートの各種サービスや、WillCanMust、数多の表彰制度や仕組、おまえはどうしたい、という言葉はご存知の方も多いと思います。

 これは無理やり一貫させている、というよりも、元に思想があり、その先が社会であり、社内であるというだけなので必然的に揃うことになります。これらも詳細はリクルートOBによる書籍がたくさんありますので、ぜひそちらを読んでいただければと思います。

ちなみにこの思想だけを言葉にしても、リクルートOBが周りにたくさんいない限りはピンとこないこと人も多いと思います。この文化圏にいた人は、これらの言葉が実際に社内で投げかけられた言葉、その時の感情や文脈、現実と照らし合わされて頭の中に意味が立ち上がってくるので、これらの言葉が何を指しているのか意味がわかるけど、そうではない人には難しいです。

その点において、思想とは言葉ではなく、その言葉が特定の人の中に呼び起こす意味のことを指しているとも言えます。先ほど他社の思想を言葉にすることをしない、とお伝えしたのは、この意味の喚起ができない中において言葉にしても、まさに意味がない、という点です。

今回、キングダムの思想、人が人を殺さなくてすむ世界をつくるというのも取り上げませんでしたが、いまの時代の日本に生きる私たちには当時の中国におけるこの言葉の意味を理解する事は不可能だから、ということもあります。

そうなると、みなさんの中で気になるのは、

自社の思想ってなんだろう・・・?
うちの会社には思想がない
そんなことよりも、どうすれば社員のやる気が出るか知りたい

こんな感じの感想、疑問でしょうか。

最後の質問だけ先にお答えをすると、このプロセスを経ずに社員のやる気を引き出したい、ということであればやり方は非常にシンプルです。社員全員の思想、および意味を感じる機会を全部把握して、それを個別に全部提供してあげる事です。

コミュニケーションの数、背反する思想や意味を感じる機会の統合の難易度が恐ろしく高まることにはなりますが、たとえば従業員数が数えられるくらいしかいないところですとそういうやり方も出てくると思います。

また、もっというと会社全体ではなく、自分が所管しているグループやチームの中においてやる、ということであればこちらでも十分なところもあると思います。ただ、いずれにせよ本人の思想は把握しないとダメですが。

さて、次に2つ目の質問に対する回答ですが、会社に思想がない、ということはほぼ確実にないと思っています。あるのは、思想が弱いか、見えづらいか、のいずれかです。

目的の行き着く先は、必ず思想です。その点において、存在自体に目的を有している企業に思想は必ずあるのですが、それがいろいろなことをいったりきたりする中で思想として色が薄くなったり、わかりづらくなっていることは往々にしてあると思います。この後の話でも出てきますが、時間軸と共にくっきりとしたりぼんやりとしたりするものでもあります。

裏を返すと、特定のタイミングから思想を濃くしていく、ということもできるものです。これまでぼんやりとしていたり、ひょっとしたら薄れてしまったものを改めて濃く、はっきりとしたものとして、みんなで再認識する。そういうプロセスが必要な状態、と捉えていただく方が近いと思います。

好きとはなにか

さて、一番最初の質問に戻ります。自社の思想ってなんだろう・・・?これにはまた、ややこしい話をちょっとする必要があります。

先に、人間が思想を持つまでの話をしたいと思います。そのために、快・不快、好き・嫌いという言葉に触れたいと思います。

人間は、生きていく中で試行錯誤をしながら必ず何かを選択しますが、その選択をしていく中で、脳が快と不快を感じ分けます。そして快いものには近づいたり繰り返したり、不快なものは遠ざけたり回避したりします。

この快いと不快を積み上げていくと、徐々に快いものと不快なものを分けるものさしみたいなものが自分の中でできます。このものさしみたいなものを言葉にしておいたものが好き、嫌いになります。

つまり、快、不快はまだ言葉になる前の、限りなく動物的な、電気信号としての感情、それを繰り返す中で、なんらかそこに共通項を括って意味を割り振ったものが好き嫌いになります。その好き嫌いを繰り返す中でできた、よりくっきりとしたものさし、それが思想になります。

それが最終的には、自分はこのために生きているんだ、とか、人生とはこのようなものなのである、とか、結局こういう生き方をしている人が好きなんだ、とか。

このようにしていだくようになったものが思想、別の言葉では人生観や人間観、好き嫌いです。個人単位で言うと、これらを自覚したり、人に伝えられる様になる手段として、就活における人生曲線やモチベーショングラフと呼ばれているものがあると思います。

さて、これを企業で考えるとどのようになるのでしょうか。

まず、企業は生まれたその瞬間に、思想はあまりないことが多いです。これは、生まれたての赤ちゃんをイメージしてもらえれば、なんとなくわかると思います。思想を持って生まれてきたのはお釈迦様くらいでしょうか。

創業時から、創業者が強烈な思想を頑なに持ち、そのまま維持し続けることもありますが、大半の企業にとって創業の時の思いはその後、いろいろな企業としての試行錯誤にもまれる中でさまざまな快と不快を感じながら磨かれていくことになります。

その時に感じた快、不快や、それが積み重なった結果としての好き嫌いが、
そのあとの意思決定に反映されていくことによって企業としてのものさしも形成されていくことになります。逆にこの過程では、まだ好き嫌いが不明確だったり、意思決定が揺れる瞬間も出てくるはずです。

それを繰り返す中で、会社としての快・不快や好き嫌いが徐々にはっきりとしてきますが、一方でこれを当の本人たちは明確に意識して分からずに、自社の当たり前、または社会人としての当たり前と認識している人が多いと思います。

どういう仕事をかっこいいと感じるのか、どういうことをするとこっぴどく怒られる経験をしてきたのか、自分の身体、あるいは脳の電気信号としては覚えているのですが、言葉として意味を持たせていないことが多いです。

一方で、これらが起きている状況をシーンやストーリーとして具体的に説明すると、「それ、いい!」とか「それ、やばい」とか、たいていの人が共通の感情、快・不快を感じます。言葉よりも強く、シーンやストーリーの方が意味を立ち上げる効果を持っています。

このシーンやストーリーを積み重ねて並べた時に、それが幅広く社内で共有されている快・不快の感情と一致した時、それをみんなが共通して納得できる言葉として意味をおいたものが思想である、と言えると思います。

自分の人生曲線やモチベーショングラフを書いてみることと同様に、企業として、あるいは事業としての人生曲線、モチベーショングラフを見てみたり、その中においてどのような快・不快、好き・嫌いとそれに伴う意思決定を経てきたのか、これを追体験してみることがまずはスタートになるのではないかと思います。

この時に大事なポイントは、言葉としての正しさよりも、みんなが同じ感情や意味を感じる言葉になっているか、ということです。企業の理念やビジョン、ブランドワードみたいなものをワークショップ形式で作るのは、こういうことによる影響もあります。

つまり、その言葉に、より多くの人、できれば全員に同じ意味が立ち上がっていないと意味がない、ということです。

またもう一つ大事な要素、それは現在は過去の積み重ねの結果ですが、未来はどうなるか分からない、ということです。過去、および現在をみる中で出てきたものが、この先の未来に願うものなのかどうか。

この時には、あらためてその全員で同じ未来をみる、というステップを踏まないと、描いている未来が違う場合に、そこに対しての願いは人によって異なる意味を持ってくることになります。ここまでを踏まえて、改めて再認識するもの、または自覚するものとして、捉えて頂ければと思います。

おわりに 「HRM」とはなにか

さて、ヒューマンリソースマネジメントとは会社の思想の体現である、というお話をしてきましたが、ここまでの内容を整理してみます。

HRMとは
1. 競争に勝つために必要なやつをたくさんあつめること
2. その人たちがみんな元気でやる気に満ちあふれていること

HRMの原型
企業の目的や思想と同じ思想で異なる力をもった人たちを集団としてあつめて、その人たちが意味を感じる仕組みを、その思想に根ざしてつくる

思想とは
その企業が、社会や人に対して望む願い

快・不快
まだ言葉になる前の、限りなく動物的な、電気信号としての感情
好き・嫌い
快・不快を繰り返す中で、そこに共通項を括って意味を割り振ったもの
思想
その好き・嫌いを繰り返す中でできた、よりくっきりとしたものさし

生きていく中で試行錯誤をしながら何かを選択し続けた結果が思想

さて次回は、このヒューマンリソースマネジメントのリソースフローと呼ばれている箇所、採用について進めていきたいと思います。「はたらく」の入口となる採用についても考えを深めることで、「はたらく」についてのヒントとなればと思っています。          

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