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ワインに深入りしないワインの話(14)~ ワインは読み物じゃないのに

ちょっと前までは、雑誌の記事とか、あるいはムックとか(古い!)で、「ワインをマスターしよう」みたいな特集がよくありました。

そこでは、最初に「ラベルの読み方」みたいなコーナーがあるのがお約束でした。

これが地域名で、ここが畑の名前で、これがビンテージで、原産地呼称はこうやって書いてあります・・・

という教科書というか取説っぽい説明が、図入りで必ず載っていました。
ヒエログラフじゃあるまいし、古代遺跡の解読作業から始めないとワインも飲めないって、どうなんでしょうかね。

いまでは、そのような記載の慣習にはまったく準拠しないラベルが自由奔放に制作されています。

書いてあるのはワイン名だけということも珍しくないですし、なかには、文字は何も書いてないラベルもあります。


アルファボックス&ダイス
グリューナーフェルトリーナー


こちらのラベルは、NFTといいますか現代アート美術館で見かけるような絵が描かれています。

先日バルセロナのMOCO美術館に行って参りましたが、非常に良い経験をしました。

徹頭徹尾現代アートの私設美術館で、動かない絵もありますが、映像だったり工作物だったり時々刻々と変化する造形作品だったりと、普段接していない身にはすべてが新しい発見でした。

小規模な民営美術館で、入館料は16ユーロ、当時のレートで2800円でしたが、ご承知の通り西欧とか北米ではいまや安いほうです。

世界最古の木造建築・法隆寺の拝観料1500円もその稀少性に鑑みて安過ぎるのですが、金閣寺に至っては500円という昼食代どころか昼食のチップにもならない水準で、典型的な後進国価格というほかありません。

ワインの話をしますと、こちらは南オーストラリア州のアデレードヒルズという産地のワインです。

近所にマクラーレンヴェールやヴァロッサヴァレーといった銘醸地があるのですが、こちらのほうが標高が高い分だけグリューナー・フェルトリーナーのような寒冷地品種に適しています。

グリューナー・フェルトリーナーの発祥地はオーストリアですが、その原産地である墺産のワインは厳しめの冷徹な味わいになることが多いのと対照的に、こちらは厚めの骨格に仕上がっています。

グラスに注ぐと、色にまずちょっと面食らいます。まっ黄色です。白い花のねっとりとした粘性の高い香りがします。

1口含みますとなによりもキレイな酒質に驚きます。
柑橘系の酸が現れ、すぐに厚めの奥行きに引き継がれ、かすかに甘みのニュアンス(甘くはありませんのでご安心を)がチラ見したと思いきや、苦味も出てくるというもの凄い複雑さが飛び交うワインです。

こうした多面性が瞬時にパラパラ漫画のように目の前を乱舞して次元の高さを見せつけられます。

白ワインだから魚と決めつけるよりも、かなり濃醇な味わいなので、アンチョビーのピザとかメンチカツに和辛子とマヨネーズ(とウスターソース少々)といった攻め方のほうがワインに負けないでしょう。

ワインなんて、買って来たらパッと開けて、スーっと飲めばいいのです。
ラベルの文字なんかと格闘するなどナンセンス。

こうしたワインが増えて、ヒエログラフ解読おじさんの出番がなくなったのは、大変好ましいことです。

酒言葉=剣舞

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