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社長=ブランド。地方中小企業の経営者にこそ勧めたい『ビジネス・フォー・パンクス』
5冊、同じタイトルの本が手元にある。ジェームズ・ワット著『ビジネス・フォー・パンクス』だ。この本は、創業からわずか7年で売上70億円を達成したクラフトビール会社「BrewDog(ブリュードッグ)」の創業者が、マーケティングの考え方を紹介したもの。
ブランド戦略にも役立つヒントが随所に散りばめられており、社員数76名の工務店、株式会社あいホームを経営する僕のブランド形成に大きく影響した一冊だ。
ひょんな縁による『ビジネス・フォー・パンクス』との出会い
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この本と出会ったのは約3年前。ちょうど僕がブランディングに本腰を入れ始めた時期だ。
福島県の老舗畳屋、久保木畳店の久保木史朗さん(以下、久保木くん)の勧めでこの本を手にとった。実は久保木くんは僕の著書の読者で、初対面で「伊藤謙さんですか?」と声をかけてくれた縁でつながっている。
久保木くんと交流するなかで、ふとブランディングの話題になった。
久保木畳店は国内のみならず、アジア、アメリカ、ヨーロッパなどを活躍の舞台とするグローバル企業だ。「畳」に対する一般のイメージを超えた、独自のブランドを形成している。
ブランド戦略について尋ねたところ『ビジネス・フォー・パンクス』を勧められた。結果、この本は僕の愛読書となった。
僕の背中を押してくれた3つのフレーズ
どんな点に惹かれたのか。僕が特に感銘を受けたフレーズを紹介したい。
ブランドの本質を教えてくれたフレーズ
ブランドは自分のものではない
今の時代、ブランドを築く唯一の方法は、自分がブランドを体現することだ。人間は自分より大きなものに参加しているという感覚を求める。
ブランドとは「あなたの会社や、あなたのすることに対して世界が抱く感覚的な理解の集合体」であり、ブランド形成においては一貫性が重要だと強調されている。
この一貫性こそ、経営者としてのブランドの核といえる。特に、社長のブランドが企業活動に色濃く反映されやすい地方中小企業の経営者に役立つ考えではないだろうか。
口コミで戦う覚悟を与えてくれたフレーズ
予算はゼロでも問題ない
予算不足というのはいかにも制約のように見えるが、実は有利ですらある。今は「広告は死んだ。新メディアよ、永遠なれ!」という時代だ。
あいホームは、地元の方の口コミに支えられながら成長を続ける地域密着の企業だ。広告宣伝費をかけなければ売上は伸びないという意見もあるが、僕は、地方の中小企業にとって大衆向けの広告はかえって非効率だと考えている。広告で集まった人が、必ずしも当社に合うお客様とは限らないからだ。
「予算はゼロでも問題ない」という力強い言葉は、口コミをポリシーとする僕に「これでいい」という確信を与えてくれた。
お客様への思いを言語化してくれたフレーズ
顧客ではなく、ファンをつくれ
顧客と関わり合い、つながることで、革命の戦いに加わってもらえる。うまく土台ができれば、仲間となって進んで手を貸し、成功に貢献してくれる。
「顧客に扉の中まで見せること」がファンの獲得につながるという考え方は、もともと僕たちの中にもあったもので、新たな発見というより共感に近い。
あいホームのブランドスローガン「最高のホームをつくろう。」の「ホーム」には、「アットホーム」の意味も込められている。嘘偽りのない接客でお客様との距離を縮め、信頼関係を築くことを大切にしてきた。結果的に、お客様にとって「応援したい」と思える企業となれたら、上述のような口コミにもつながりやすいだろう。
この章を通して、僕の根幹にあるお客様への思いが改めて言葉となったように思えた。
自分の本質とは?自己理解がブランド形成の第一歩
僕は今、「最高のホームをつくろう。」を軸に一貫性のある経営判断ができている感覚がある。だが、以前はよく「一貫性がない」「ぶれている」と言われていた。
なぜ、このような感覚が得られたのか。この本を読んだからといって一朝一夕で新しい自分に生まれ変わったわけではない。
まず、一貫性のあるブランドを研究し、自分との差を知ることから始めた。つまり、「一貫性がない自分」を認識することが出発点だった。
そして、さまざまなことに挑戦し、成功と失敗を繰り返しながら、経営者としての自分の本質を探った。その過程で「自分は何に熱狂するのか」を意識することが、一つの重要な視点になると気付いた。
僕にとって『ビジネス・フォー・パンクス』は、ビジネスのノウハウだけでなく、自己理解のヒントを与え、力強く背中を押してくれる一冊だ。著者の言葉に共感し、自分の根幹にも同じ考えがあったことに気付かされた。
社長としての自己ブランディングに悩む地方の中小企業経営者には、ぜひ読んでほしい。他者の言葉を通して自分の考えを明確にすることが、ブランド形成の第一歩となるはずだ。
編集/三代知香
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