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2025共テ国語『繭の遊戯』のおじさんはなぜ「アルハンブラの思い出」を弾こうとするのか

1月18日は「共テ国語」がXのトレンドに上がっていた。

試験終わりの高校生たちがSNSに小説のおもしろポイントをポストしている。歴代の問題には必ずおもしろポイントが含まれているらしいが、今年は「ヒス構文」がそのターゲットだった。

お金にならない趣味に興じて、フリーター的な生活をしている「おじさん」。本人はその趣味を「仕事」と呼んでいる。そのおじさんの姉が「いつまで親のスネをかじって」とキレている。他人事と思えない読者の私にもダメージがある。

そして、姉の怒りの矛先は弟だけでなく、母にも向かう。「お母さんが甘いからよ」というように。おそらく何度も言っているのだろう。

蓄積したストレスのせいか母は着火しやすくなっている。自分のせいと言われた返しが「もうわかった、あたしが死ねばいいんでしょ、じゃあ、死ぬよ。」だ。

この一連の流れがヒス構文である。これがトレンドに上がったのはラランドの『お母さんヒス構文』を高校生たちも見ている証拠だ。ただ、ラランドのYouTube講座、ラジオに寄せられたメッセージの方がエグみが強い。

共通テスト国語の第2問として抜粋された『繭の遊戯』(著:蜂飼耳)は2005年発表。そして、ラランドのヒス構文解説動画は今から2年前の2023年にアップされている。

ちょっとした不満や意見が「死ねばいいんでしょ」という極論に結ばれるコミュニケーション(?)は昔からあったらしい。そのコミュニケーションが実体験のあるサーヤさんによって「ヒス構文」とキャッチーにラベリングされた。

私にはサーヤさんのような実体験がないので、ヒス構文について語ることはない。ヒス構文よりも、小説の「おじさん」と「アルハンブラの思い出」に心がざわついた。

問題の注釈は「アルハンブラの思い出」について、「ギターの曲名。アルハンブラはスペインにある宮殿の名前」とだけ書いている。試験問題として読む高校生にとっては十分な情報である。

本文の1行目は「壁に、ギターが掛けられていた。」と始まる。このギターを何で想像するか。エレキギター、アコースティックギター、クラシックギターか。もちろん曲名を知っている人は一択だろう。

おそらくエレキギターを想像した高校生は少ない気がする。小説の「おじさん」のイメージと合わないからである。きっとアコースティックギターの想像が多い。フォークを演奏するヒゲのおじさんを思い浮かべたのではないだろうか。なんとなく村上隆っぽい風貌だ。

クラシックギターで想像した高校生はギターマンドリン部の経験者、もしくはギター教室で鍛練を積んでいる人だろう。「アルハンブラの思い出」を自分のレパートリーにしている高校生ギタリストもいるかもしれない。

小説では「わたし」が「おじさん」に演奏のリクエストをしたときに、いつも弾いてくれる曲として登場する。ただ、いつも途中で止まるために、最後まで聞いたことはない。

私もアルハンブラを弾いたことがあるが、最後に客前で弾いたのは6年も前になる。それ以降、練習の機会すら失っていたが、去年の夏頃に練習を再開した。教室をスタートするにあたって、演奏の必要性を感じたからである。

数年のブランクを経た後に弾いてみると、「おじさん」の気持ちや行動はよく分かる。「あれ?」と首を傾げて、「わからなくなった」と止まる。

おそらく「おじさん」は曲の3小節目までは弾けているはず。哀愁漂うAmを忘れるはずがない。最短で、4小節目から怪しくなる。3拍目で、メロディーの「ファ」は頭で鳴っているが、親指で奏でる内声が迷子になる。

迷子になったとしても、手探りのうちに、切れた糸の繋ぎ目が見つかる。2弦6フレットの「ファ」近くの音をあれこれ弾いていると、「そうそう、これ」と思い出す瞬間が訪れる。ただ、そんな喜びは一瞬で失われる。なぜなら、11~14小節目は頭の中の楽譜がのり弁になりやすいからだ。

9小節目の8フレット・セーハは思い出せるものの、11小節目の9フレット・半セーハが出てこない。つまり、この辺りでベース音を見失っている。「おじさん」の演奏は最長で10小節までだろう。

なぜ「おじさん」はいつも「アルハンブラの思い出」を弾こうとするのだろうか。

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