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Kelly: イタリアで自信喪失

イタリア人の男性はナンパ上手という情報を聞きつけ、勝手な妄想と共に初めての一人旅。
30になったばかりの勘違いKellyの悲しい実体験の反省会。


かれこれ10年以上も前のこと。
実は私、30過ぎまで日本とアメリカ(大陸)以外の国を旅したことがなかった。

一人旅は全くの初めてだったので、踊る心を押さえつつ、入念に調べ準備した。美味しいイタリア料理を堪能し、石畳の美しい街並みを歩き、キャンティ片手にイケメンのイタリア人を眺めることを夢見ながら。

しかし出発前に、母親同然の茶道の師匠から腕を掴まれ、
「Kellyちゃん、イタリアって国の男たちは誰でも彼でも声をかけてくるから、そんなの本気にしたらダメよ!」
と、眉毛を顔の中心に寄せて言われた。

イタリア人男性はナンパをすることが「男性の嗜み」、もしくは「女性に対しての礼儀のようなもの」、と聞いたことがある。乾いた心を潤してもらえるなら、ありがたい話だと少し期待していた。

まずはフィレンツェ。まさに絵に描いたような美しい街並み。ルネッサンス!さすが芸術の都。わぉ、ダビデ像!イケメンも多いわ!

………。

え…、独身女性、ここにいますよ!

さらにフィレンツェの郊外にある美容に良いという温泉地に行ってみた。そこでは蛇口から出る温泉水をがぶ飲みし、気分的には心も身体も潤っていた。しかし、帰りのバスがストで動かなかった。

近くにあった露天の人に英語で尋ねると理解できなかったのか、逆にキレ出した。一緒になって叫んでいると、目の下のクマがひどいおいちゃんがオドオドしながらよってきて、拙い英語とジェスチャーで、ホテルまで乗せてってやると言ってくれた。

私も頭に血が昇っていたので、普段なら警戒するところなのだが、イライラも絶叫期に達していたのもあって、「早よ連れて行け」と言わんばかりに、そのおいちゃんの小さなFIATの助手席にドスンと座った。

今考えると、とんでもなく危険な行為だったのだが、幸運にもそのおいちゃんはとても良い人で、訛りの強い英語で色々とイタリアのことを教えてくれた。

ローマに着き、憧れのスペイン階段まで小走りで行ってみた。こんなロマンチックな所でイケメンイタリア人男性に出会えるはず!と、勝手に妄想し、頭の中ではトゥーランドットが流れていた。

しかし私の妄想とは全くの別世界、そこには観光客でごった返し、挙げ句の果てに偽ブランドを風呂敷の上に広げて売り捌く人たち、花束を押し付けてくる若者、日傘まで打ってる人もいた。そんな彼らですら、私の近くには寄って来ない。

もう誰でもいいから、誰か声をかけてくれ!

ご想像通りローマでも、誰も声をかけてくれなかった(泣)。

考えてみれば、タクシーの運転手だって最初は気軽にイタリア語で話しかけてくるけど、ひとたび私が英語で切り返すと、顔色が変わる。

レストランの呼び込みのにいちゃんたちだってそうだ。軽い感じで話しかけてきても、英語で質問すると、少し後退りする。

私の鼻をへし折るかのように、イタリアでは誰一人と私に見向きもしてくれなかった(泣)。話が違うではないか!
ずっと独りぼっちなんだけど!

私はわざわざイタリアまで行って女として魅力がないことを知らされた。わぁ〜ん(泣)

芸術と美食を楽しむはずだったが、それどころではなく、女性として自信を失いながら帰路についた。

ローマの空港のバーで最後の晩餐を1人楽しんでいると、隣で聞き慣れた発音の英語が聞こえた。振り向くと、ジーンズにジャケットといういかにもアメリカ人という出立の中年男性がすぐ隣でワインを注文していた。その男性は仕事が終わって、これからサンフランシスコに帰るらしい。

やっと話の通じる相手が現れた!ほろ酔い加減もあり、これまでのイタリアの不満をぶちまけると、その男性は笑いながら言った。
「ヨーロッパ人は、アメリカ人が苦手なのさ」

ちょっと待って、私はれっきとした日本人だ。しかし、私のアメリカ訛りの英語が、彼らにはアメリカ人だと認識させてしまったのだろう。現に、そのアメリカ人の男性は、私のことをカリフォルニア人はだと思っていた。

その男性曰く、英語(彼らにとっては母国語)でグイグイ攻めていく堂々としたアメリカ人の態度が、ヨーロッパ人には居心地の悪さを与えているらしい。

観光地では英語は通じたが、観光客の少ない郊外に行くと、ほとんど通じなかった。知らず知らずのうちに、英語の苦手なイタリア人に不安と緊張を与えてしまったのだろう。

さらに、「イタリア人男性はナンパ上手」なんて、ただの偏見らしい。イタリアにはカトリック教徒が多く、慈悲深い人たちで溢れている。困っている人を見ると助けてあげたくなるのだ。フィレンツェで会った「FIATのおいちゃん」のように。私は喧嘩になるまで助けが必要と認識されなかったのだろう…ということにしておこう。

さらにイタリア人女性は美人が多い。イタリアでは女の子は生まれた時からお姫様のように育てられる。家族全員で、「可愛いねぇ、可愛いねぇ」と言って育てるらしい。言霊とも言えるが、「可愛い」と言われても育った子は笑顔も増え、本当に可愛くなる。イタリア人女性からしてみれば、街中で「可愛いねぇ」と言われても、そんなもん、聞き慣れた言葉であり挨拶程度にしかならないのだ。

問題は自分自身にあったのだ。私より大して可愛くない子でも、イタリアでは歩けば、簡単に「君、かわウィぃねぇ〜」と言われると思っていたのだから、私の美貌ならホイホイレベルだなと本気で思っていた(そう思う時点で、中身に問題があるのだが)。

そのくせ私は、慣れない外国できっと笑顔すら無かっただろう。ワインが飲みたくて、イライラしていただろう。英語がすんなり通じなくて、爆発寸前の顔が陽気なイタリア人を怖がらせただろう。自分の顔は鏡に写らない限り見えないから、モニカ・ベルッチと同じくらいイケてると思い込んでいたのだろう。勘違いも甚だしい。

アメリカにいた時、堂々としていれば、輪の中に入るチャンスが回ってきた。だから、日本から出て外国に行くと必然的にそうなってしまう。私はアメリカ女性の平均身長&足のサイズ。英語圏外で、アジア人の見た目で大きめの私がグイグイ行くと、相手がびっくりしてしまうのだ。

私がプライベートで堂々とし過ぎると、利益がない。さらに増して可愛くなくなる(らしい…以前、ある男性に言われたことがある)。

イタリア男性たち、すいませんでした。あなた方に非はありません。あなたたちが私をスルーしたのには、私自身に問題があったのね。

でも、次の休暇は生まれ故郷カリフォルニアと決定した。

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