読書の記録#3 こころを動かすマーケティング
こころを動かすマーケティング(ダイヤモンド社) 魚谷雅彦(著)
コカ・コーラのブランド価値の形成についての本
上記リンクご覧いただければお分かりいただける通り、本にサブタイトルがあり、『コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』というものだ。その名の通り、発行当初日本コカ・コーラ会長であった魚谷雅彦氏の半生を辿りつつ、同氏のビジネスマンとして骨格を成したマーケティングについて書かれているものだ。
ちなみに魚谷氏は2011年に日本コカ・コーラ会長を退任しており、2020年現在資生堂の社長を務めている凄腕実業家だ。(尚、資生堂が外部出身者を社長にするのは魚谷氏が初めてである。)
同氏の携わった商品のマーケティングで考えたことや目指したこと、経緯といったことが書かれているのが主たる内容。自伝とマーケティングの秘訣、ヒットの裏側といったところか。
取り扱われているのはジョージア、爽健美茶、紅茶花伝、コカ・コーラと泣く子も黙るような面々の商品が並ぶ。マーケティングの名からも想像つくように、これらの商品を『どう売るか』ということにフォーカスが置かれた内容で、日々変わる顧客のニーズをどのように捉えていくか、潜在ニーズを引き出すにはどうすれば良いか、方針は決まったがどうCMを打つか、といった具合である。
ターゲッティングの重要性を感じさせる1冊
全ての商品の話題で、誰をターゲットにするのか?ということを最も大事にしているように感じた。『誰を』というのは、男なのか女なのか、20~30代なのか50~60代なのか、属性(サラリーマン等)は何か、目的(仕事の合間の気分転換に飲むのか、小腹を満たすために飲むのか等)は何か、を明確に決めるということだ。ターゲットが決まれば自ずとどういう広告を打つか、どこで商品を手に取ってもらうかといったことが決まってくるという主旨である。
ターゲットがありきたりだと競合が多く苦戦を強いられるというのは非常に納得感があり、爽健美茶や紅茶花伝はたしかに現在に至るまで類似品が比較的少ない印象がある。爆発的なヒットは過去に例が無いものの方が起こしやすい一方、一見奇抜なアイデアは採用しづらいものだが、ターゲッティングをしっかりとすることで理屈がつき、説得力を持たせられるというところに重要性を感じているのであろうと思わされた。そのくらいターゲットをどうするか、ではそのターゲットにどう訴求するのか、という2つに全240頁の大半が割かれている本だ。
現場主義だからこその目線
魚谷氏が元々は歯磨き粉等でおなじみのライオンの営業出身であることもあり、非常に現場主義な実業家だという印象を持った。
顧客と直接接点を持っているのは現場であり、現場を見ずしてニーズを把握することは不可能との考え方は現場のモチベーション形成にも大きく役立つであろう。自伝の色も強いことから、リーダーとはかくあるべしという内容もにじみ出ている。
「お客さまを第一に考えます」なんて綺麗事を言う会社は星の数ほどあるが、実践できているところがそんなに多くあるだろうか?大体は利益主義、売上主義となってしまうのではないだろうか。所謂ノルマはその最たるものだろう。
決して、利益主義が悪いとは思わない。(売上主義はコストの目線が欠けているので個人的にはナンセンスだと思っている。製造業等、損益分岐点が分かりやすいケースでは売上主義の方が伝わりやすいという側面はあるのだろうが…)
株式会社のステークホルダーには株主がいて、特に上場企業なら不特定多数の株主がいるのだ。そこを無視するわけにはいかない。ただ、「お客さまを第一に考え」た結果、爆発的なヒット(=大きな売上・利益)を生み出し、結果として利益を上げてこそというのが魚谷氏の考え方のようだ。そこを徹底できるのは非常に気持ちの強い実業家であると思う。
最近であればかんぽ生命の事件のように、利益ありきで動いているケースは多々あるだろう。(かんぽ生命はやりすぎた結果社会から叩かれる結果となったが、程度の違いはあれ似たような話は多くの企業であるのではないだろうか)
そしてノルマに追われている社員も大半は「お客さまを第一に考え」られていないだろう。どのようにノルマを達成するか、あるいは達成できない言い訳をするか、というのが実情ではないだろうか。
この本を読んでいて、『表向きは「お客さまを第一に考えます」といった綺麗事を言いながら、実態が伴わない』ケースがそういえばつい最近国レベルで起こっていたなと気付いた。
有言不実行が多い世の中
2020年9月16日、体調不良を理由に安倍晋三氏が首相を退任、菅義偉首相が誕生した。記憶に新しい、というか昨日の話である。
この一連の話の中で、麻生太郎副総裁の「あなたも147日間休まず働いてみたことありますか、無いだろうね」の発言を覚えている方も多いだろう。
ただ、これってどうなんだと思わされる。
時世は「働き方改革」である。働き方改革関連法は安倍政権下で公布・施行されている。つまり、国を挙げて「働き方改革をしましょう」と大々的に打って出たわけである。そして、前項で記載の『実態が伴わないケース』が想起される。
つまり、147日休まず働くのは働き方改革なのか…?ということだ。
働き方改革を打ち出しながら、働き方改革していないのである。
これは特段、政治的な自分の立場を述べる話ではなく、批判をする気もない。国を引っ張る立場なので忙しいのは当然なのだ。上のニュースを見た際も「やっぱり国のトップってのは大変なんだなあ」という感想しか抱かなかった。
ただ、有言不実行だ。人にやれと言いつつ、自分がやっていないという状況なのだ。非難とかではなく、純然たる事実としてあるという話だ。
これは「お客さまを第一に考えます」を言いつつノルマを追いかける、と同じ構図である。
企業でも全く同じ話はよくあるだろう。「働き方改革です!早帰りしましょう!!」と言うのはおそらく人事部であるケースが多いだろうが、肝心の人事部の退社時間はめちゃめちゃ遅い、という話だ。
おそらく、多い。非常に多いのではないだろうか。
有言実行はかくも難しい。自分に厳しくしないと出来ない。企業であれば、個人の努力ではどうにもならない部分も出てくるだろう。企業に限らず、首相だって147日好き好んで休んでいなかったわけでは無いだろう。政府という枠組みの中で1人の判断ではどうしようもない部分も多々あったのだろう。
要は、改革には自律も多くの人の協力も必要なのだ。表面上で「お客さまを~」「働き方改革を~」というのは簡単だが、実現するのは難しい。
だからこそ、魚谷氏の現場主義、お客さま第一主義の凄みを感じる。
マーケティングの本だけど、自分のあり方を考えた
マーケティングに関しては、正直商品によるところも大いにあるだろうし、本著でも記載があるが「正解が無い」のだろうなと感じた。都度、最も効果的な方法を模索するしかないというのが実情だろう。商品も違えばターゲットも違う。今時ならテレビよりもネットの広告の方が効果があるケースも多々あるだろう。
「ターゲッティングが重要」「現場を見てニーズを把握すべし」の2点はいかなる場合にも活かせる話だろう。往々にして、「また本部が現場よくわかってない施策出してきたよ~」と現場でブーブー言うケースが多い。現場の目線を失わない意識は高く持っていたい。
そして、有言不実行の話。
自分の属性はサラリーマンであり、企業による制約を大いに受けるだろう。しかしながら、自分の影響が及ぶ範囲で、例えば自分の部下に対する指導に際し、有言不実行とならないよう自分を律していきたい、律していかなければならないと思わされた。
マーケティングの書籍だが、リーダー論や1社会人のモデルケースとして読むにも面白い1冊であった。
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