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ビジョニングで描く未来:家族のうつ病と共に歩む道

家族がうつ病を患ったとき、支える側のケアラーは現実と未来と自分の感情が三つ巴状態になって何から手を付けていいのか分からなくなります。
しかし、現状を変えて行くためには「自分がどうしたいと思っているか」が明確である必要があります。
そのための方法として今回は「ビジョニング」をご紹介します。


1.ビジョニングとは

①定義

「ビジョニング(Visioning)」とは、将来の理想的な状態や目標を具体的に描き、それを達成するためのビジョンを明確にする手法です。
ビジョニングは、個人や組織がどのような未来を目指すかを想像し、そのビジョンを具体化することで、何を行うか、や、モチベーションを高めるために用いられます。

②ビジョニングのステップ

ビジョニングのステップは以下の通りです。

  1. 理想の未来像を描く: 自分や組織が達成したい未来の状態を想像し、具体的なイメージを持つ。

  2. ビジョンを言語化する: 理想の未来像を言葉にして表現し、明確にする。

  3. ビジョンを共有する: 関係者とビジョンを共有し、共通の目標を持つようにする。

  4. 行動計画を立てる: ビジョンを実現するために必要なステップや行動計画を作成する。

  5. 定期的に見直す: ビジョンが現実に近づいているかを定期的に確認し、必要に応じて修正する。

目標達成、計画実行、または現状を改善するためにビジョン=視覚を活用することでより自分の思考や問題をクリアにすることが出来ます。

2.ビジョニングの特長

①視覚化

ステップとして一度言語化しますが、それをさらに視覚化します。
それによってより感覚的に自分の思考とマッチした表現にすることが出来ます。
自分が思い描いている理想や目標達成の状態を目で見てイメージすることで、言語化よりも強く自分の感情に訴えかけてきます。
感情が刺激されることで、モチベーションが高まりやすくなります。

②全体像の把握

ビジョニングは1つの絵の中に自分の人生や未来の全体を表現します。
仕事・家庭・自己成長・趣味などは、取り組むときには個別ですが、実際には全て自分の人生の中で起こっていることですから、相関関係があります。
ビジョニングにより全体像を把握しやすくなるのです。

③感情面との結びつき

論理的に思考することと同じく、目標や理想へ向かって実行するときには感情面の維持も重要です。要するに「やる気」をどうキープするか、です。
ビジョンに感情を乗せることで、目標に対する強い情熱や欲求が生まれ、それが持続的なモチベーションにつながります。

④クリエイティブなアプローチ

ビジョニングは、直感や創造力を積極的に活用します。
画像やシンボル、色彩など、感覚に訴える要素を使用するため、言語では表現しきれないような部分も追求することができます。
画像や絵、図を使うことで右脳が活性化されるため、創造的な解決策や新しいアイデアを引き出されることも期待できます。

3.ビジョニングの方法

STEP1:環境と心の準備

静かでリラックスできる場所・環境へ移動します。
自分の思考と向き合うため、30分~1時間ほどは他者に邪魔されない時間を使いましょう。
出来ればノートやペンなど、デジタルツールを使用しないことをお勧めします(スマホなどが手元にあると誰かから連絡が入って中断される可能性があるため)。

そして深呼吸して心と体をリラックスさせます。
ビジョニングではこれからの未来を創造します。今目の前で起きている問題に縛られ過ぎないようにしましょう。

STEP2:理想の未来を自由に想像する

目を閉じて、自分が理想とする未来を自由に想像しましょう。
きっと考え始めるとすぐに「でも○○が解決しない限り無理だから……」のように目の前の問題が自由な想像を阻害するかもしれません。が、一旦その問題は横へ置いておきましょう。

想像する未来は5年後、10年後、もっと先でも構いません。
自分や家族がどうなっていたら最高だと感じるか、細かい部分まで思い描きます。
例えば、

  • 家族の健康や生活はどうなっているか

  • 自分の仕事やキャリアはどう成長しているか

  • 毎日の生活でどんなふうに充実感を感じているか

  • どこに住んで、どんな人たちと関わっているか

  • 自分のメンタルや思考を占めているのはどんな内容か

これらを具体的にイメージして、頭の中でその情景を思い描きます。

STEP3:イメージを言葉で書き出す

次に用意しておいたノートに、思い浮かんだイメージを言葉で書き出してみましょう。

  • 私は○○な生活を送っている

  • 家族は○○で幸せに暮らしている

  • 仕事では○○に取り組んでいる

など、出来るだけ具体的に書くことがポイントです。
文章にするのが面倒なら、キーワードや単語、形容詞でもいいです。

「新居」「健康」「やる気」「旅行」「貯金」「転職」など、STEP2で思い描いた未来から連想する言葉をどんどん書き出していきましょう。

STEP4:現状と未来のギャップを分析する

次に、現在の状況と理想の未来との間にあるギャップを考えます。このギャップを埋めることが、明日から自分が取り組む行動計画になります。
このギャップを埋めるために

  • 何を始めればいいか

  • 何かを学ぶ必要があるとしたら、それは何か

  • どんな習慣を身に着けると良いか

  • どんなサポートが必要か

これを具体的に書き出してみましょう。
「ちょっと違うかな?」と思っても書いておきましょう。計画段階で取捨選択すればよいのですから。

STEP5:行動計画を作成する

目指したい未来が見えて、現実とのギャップが明確になったら、具体的にどうしていくか、のTODOを考えましょう。
ポイントは「小さいステップで計画する」です。
例えば1年後がゴールだとしたら、いきなり1年後を目指すのではなく、その間を細かく分けていきます。

現在→→→1ヶ月後→→→3ヶ月後→→→半年後→→→1年後

1年後の状態から逆算して計画を立てます。
この時大事なのは「実行可能な計画」とすることです。
ステップ分けしたときに1年後の実現が難しいなら、それを後ろ倒しにしましょう。
それでは目標が達成できない、と思うかもしれませんが、明日から実行出来ないことのほうが問題です。
目標計画は、自分が実践できることが絶対条件です。

STEP6:定期的に見直す

ビジョニングは一度きりの作業ではありません。
定期的に自分のビジョンや行動計画を見直し、進捗を確認します。
必要に応じてビジョンを修正したり、新しい目標を追加したりしましょう。
これにより、変化する状況に柔軟に対応しながら、目標に向かって進み続けることができます。

4.ビジョニング事例:うつの夫と一緒に暮らす未来へのビジョニング

≪事例≫
夫がうつ病で苦しんでおり、妻は夫を支えながら家庭を維持しています。家事、仕事、夫のサポートなど、多くの責任が妻の肩にかかっています。
不安や心配、時折感じる孤独感を自覚しています。同時に、夫を愛し支えたいという強い思いも持っています。

STEP1:未来のビジョンの視覚化

5年後の未来を思い描きます。夫の病状が安定し、二人が笑顔で過ごす日々を想像します。夫が少しずつ外出できるようになり、一緒に公園で散歩を楽しむ姿が目に浮かびます。

朝、二人でコーヒーを飲みながら「今日はどうしようか」と話し合っています。家庭内には穏やかな音楽が流れ、リラックスした雰囲気が漂っています。
週末には家庭菜園を楽しみながら、共通の趣味に取り組む時間を大切にしています。

STEP2:具体的な目標設定

【短期目標】夫の健康管理を支援しつつ、自分の時間も確保することを目指します。例えば、毎週1回は友人とランチを楽しむ時間を設けたり、趣味の活動に参加したりします。

【中期目標】夫の治療に関する知識を深め、必要なサポートを提供できるようにします。また、カウンセリングやセルフケアを通じて、自分のメンタル安定を維持します。

【長期目標】夫の病状が安定した後、二人で一緒に旅行に出かけることを目標にします。そのための計画を立て、少しずつ準備を進めます。

STEP3:行動計画の立案と実行

健康的なライフスタイルの構築
夫と一緒に、食事や運動に気を配り、健康的な生活習慣を取り入れます。例えば、毎日散歩に出かけたり、栄養バランスの取れた食事を準備するなど、小さなステップから始めます。

ソーシャルサポートの活用
家族や友人、専門家からのサポートを受けることに積極的になります。
孤独感を減らし、支援を受けながら、夫と共に歩む未来に向けた準備を進めます。

5.≪ワーク≫ビジョンボードを作ってみよう

ビジョンボードとは、ビジョニングした内容を写真やイラスト、絵、図、色などを使って表現したものです。
「コラージュ法」という芸術療法があります。コラージュは今の心の内を表現するものですが、ビジョンボードは未来像を表現します。
やり方は以下の通りです。

①ビジョンの明確化

これまで見て来たビジョニングのSTEP1~3までを実施します。

②必要な素材を集める

次に、ビジョンボードを作成するための素材を集めます。例えば以下のようなものを準備してください。

ボード:コルクボード、画用紙、または段ボールや厚紙など、コラージュ(絵・図)を張り付けるための土台を用意します。大きさは自由ですが、ご自身が作業しやすい大きさが良いでしょう。

雑誌やカタログ:理想の未来や目標に関連する画像や言葉を見つけるための素材です。新聞やチラシ、古い写真などでもOKです。

ハサミとノリ:画像や言葉を切り抜いてボードに貼り付ける為に使います。

ペン、マジック、マーカー:自分で書き込むメッセージやキーワードを追加するときに使います。

③画像や言葉を選ぶ

自分のビジョンや目標に合った画像や言葉を雑誌やカタログから探し、切り抜きます。
例えば、「健康」を目標にしている場合は、健康的な食事や運動のシーンを表現した画像を探します。
「豊かな人間関係」を目指しているなら、笑顔の家族や友人たちが集まっている写真を選びます。

完全に自分の好みの世界なので、好きな画像やイメージを探しましょう。

④コラージュを作成する

選んだ画像、写真、言葉をボードに貼り付けます。方法は自由ですが、以下のポイントを意識してみてください。

中心に大きな目標を配置
最も重要な目標やビジョンをボードの中央に配置し、それを取り巻くように他の要素を配置します。

カテゴリー別に分ける
健康、キャリア、家族など、異なるカテゴリーごとにエリアを作り、関連する要素をグループ化します。

色やレイアウトを工夫する
見た目にも楽しいものにするため、色や配置を工夫して、自分が心地よいと感じるデザインに仕上げます。

⑤完成したビジョンボードを飾る

完成したビジョンボードは、日常的に目にする場所に飾ります。
例えば、デスクの上や寝室の壁など、毎日見てモチベーションを感じられる場所が良いでしょう。写真にとってスマホの待ち受け画面にする、という方もいらっしゃいます。

ビジョンボードを見ることで、日々の行動が目標に向かっていることを確認し、モチベーションを保つことができます。

6.まとめ

①ビジョニングとは、理想の状態や目標を視覚で表現する手法である
②ビジョニングの特徴は視覚化と、それにより発想力が高まること、感情に訴えることである
③ビジョニングの方法 6ステップのご紹介
④事例:うつの夫と一緒に暮らす未来へのビジョニング
⑤ワーク:ビジョンボードを作ってみよう

自分の未来を思い描く作業は、悩みに囚われている時には取り組みづらいかもしれません。
しかし実際に「どうなりたいか」が明確になると、今立ちふさがっているように見える悩みや問題へのとっかかりが見え、離れて観察することが出来るようになります。
それが「メンタルが安定した状態」です。

未来を、どうなるか分からない、と不安視するよりも、「どうなりたいか」を明確にしてそれを作り上げていく毎日をスタートしましょう。

\西岡、うつ家族向けの本出しました/


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