古典を読む意味について〜ダーウィンの“種の起源”を読んでみた〜
以前のnoteで、『進化論はいかに進化したか』を読んで、ダーウィンの『種の起源』を読んでみたいという話を書いた。
時間はかかったが『種の起源』を全て読みきった。
初めて古典を読んでみて、僕なりに感じた古典を読むことのメリット、デメリットについてまとめてみた。
1.読む前の準備
今回読んだ本は、光文社古典新訳文庫の『種の起源』である。
上下巻合わせて850Pを超える。
僕の読書のスタイルは、通勤時間に読むことが大半で、毎日15分ほど読み進めた。また、この本に限らず気分が乗らない時は並行して他の本を読むことが多く、読まない日も結構あった。
そのため、読み終えるのに2ヶ月半もかかってしまった(正直、今回はちょっと時間をかけ過ぎたので反省)。
本書を読む前に参考に読んだ本は、『進化論はいかに進化したか』と『進化論物語』の2冊。
『進化論はいかに進化したか』に加えて『進化論物語』を読んだのは、他の学者達とダーウィンが唱えた進化論の違いから、その時代のダーウィンの進化論の立ち位置を知りたかったからである。
2.読んでる途中の感想
読んでる途中の感想は「正直しんどいな」の一言であった。進化論について、抽象的な話が展開されるのかと予想していたが、その予想に反して、具体的な生物の観察結果とそこから得られる仮説の話がずっと続いていた。
例えば、序盤に育成種のハトの特徴を辿っていくと全て起源はカワラバトに辿り着くという話があるが、ハトに詳しくない身としては、様々な種類のハトの嘴や羽の話をされてもまるで分からない。
ハトに限らずとても多くの生物の品種名が出てくる。せめて生物の挿絵でもあれば想像はしやすいが、仮に1つ1つを丁寧に読み込むなら、動物図鑑を片手に持ちながら読む必要がありそうだった。
3.どのように読み進めたか?
850Pの上下巻を目の前にして、漠然と読んでも確実に挫折すると思った。だから僕は自分の中で2つのテーマを立てて、それを確かめにいくつもりで読むことにした。
【1】以前のnoteで書いた「仮説→観察→検証のサイクルを回した科学的な論の進め方」を確認すること。
【2】本書はキリスト教世界に大きな影響を与えたと言われているが、どのような描かれ方をしているのか?を確認すること。
『進化論はいかに進化したか』を読んで、ダーウィンの進化論も現在の進化論からすれば間違いも多いと知っていたので、ダーウィンの進化論の細部まで理解しながら読むというよりは、『種の起源』が世間に与えた影響を意識しながら読むことにした。
4.『種の起源』の論の進め方
まず、1つ目の「仮説→観察→検証のサイクルを回した科学的な論の進め方」については想像以上で面白かった。
ある生物を観察して、そこから考えた仮説を、他の生物にも当てはまるかを更に観察して検証する。とにかく登場する生物の種類がとても多い。場合によっては自然観察だけでなく、自ら実験し検証もする徹底ぶりだ。
しかし、一人で行える観察には限界はある。そこでダーウィンの仮説を強化する役割を担っているのが他の学者の意見である。本書を読むと多くの学者と手紙で交流しているのがわかる。大量の論文を読み、学者と意見交換した内容を引用したり、反論の材料に使ったりしている。
他にも面白いと思ったのは、『種の起源』を読んだ学者達から予想される反論に対しても、準備をしているところだ。本書の後半は、ダーウィンの仮説(自然淘汰説)への反論に答えることに多くの章を費やしている。このことからダーウィンがとても用意周到で、慎重であることが伺えた。
まとめると、
・仮説→観察→検証のサイクルを回す
・他者の意見を上手く取り入れ、持論を強化する。
・反論に対する準備をする。
この3つの観点から『種の起源』が科学書として広く読まれた理由なのだと思った。個人的には、ダーウィンは、分からないことに対しては、分からないとはっきり示し、変に取り繕うとしていないところにも好感が持てた。
5.キリスト教世界に与えた影響は…?
キリスト教世界に与えた影響について、創造説(全ての種は神が創って進化はない)は、本書でも否定している。とはいえ、ダーウィンの前にも進化論を唱えてきた学者はたくさんいる。時代的にある程度、創造説に限界があることはわかっていたようにも思える。この辺りは時代背景の勉強が足りないせいか、種の起源そんなにインパクト与えたのか?と思ってしまった。
ただ、先程述べたように進化は揺るぎない事実であることを科学的に世に知らしめたことで、創造説に終止符を打ったのは間違いないと思った。
また、慎重的に論を進めていることや生物の起源には触れていないことを踏まえると、本書を出すことで世間に与える影響の大きさや論争が湧くことはダーウィンも予想していたに違いない。その辺りの空気感はひしひしと伝わってきた。
6.古典を読むメリット
今回、古典を初めて読んでみて感じたメリットは2つある。1つ目は、リアルな空気感や筆者の熱量を体感できることだ。百聞は一見に如かずとはまさにこのことで、本書を読むことで、解説本だけでは感じることの出来ない空気感や熱量を味わうことが出来る。
2つ目は、イメージとのズレを認識出来ることだ。本書を読むまでは、ダーウィンが慎重な人であったことも、種の起源がこんなにも具体的な生物がたくさん出てくることも知らなかった。自分が持ってるイメージと実際の差を認識することで、理解を深めることが出来るし、なぜその差が生まれたんだろうと新たな問いも生まれる。
7.古典を読むデメリット
読みづらいし、ページ数が多いので時間がかかる。また、ビジネス書を読むみたいに、わかりやすい知識がすぐ得られるものでもない。
個人的には下調べなしに読むのはおすすめしない。先入観を持たずに読むことも大事だとは思うが、それ以上にその本の位置づけや時代背景を知らないと理解するのが難しい。今回は事前に2冊の本を参考にしたが、正直全然足りないと思った。
8.古典は読んだ方がいいのか?
結論を言えば、「読んだ方がいいとは思うが、労力がかかるのも事実」である。
ただ、労力をかけるだけの価値はあると思うし、労力をかけるからこそ、選書は重要である。闇雲に古典に手を出すのではなく、ある程度興味が持てる分野から手を出すのが良さそうだと思った。
また、その古典の位置づけ(その古典が名著と言われる所以や時代背景)を理解することも、古典をより楽しむためのポイントである。
巷では古典を読んで教養を身につける的な風潮があるが、教養を身につけることだけを目的としては古典の魅力は半減してしまう。古典の醍醐味でもある古典から伝わってくる空気感や熱量を肌で感じながら読んでみることをおすすめしたい。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?