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チベットとラダックの文化を知る本、たかのてるこ『ダライ・ラマに恋して』

大失恋をした著者が、それをきっかけにダライ・ラマに会うべくチベットとラダックに向かい、そこでの文化を体当たりで学んでいくという楽しく読める紀行文。
著者の書き方的にも基本的には楽しく読めるが、内容的には仏教のことやチベットやラダックの文化を充分かつわかりやすく学べる本でもあり、読んでいて優しい気持ちになれる。

物資は少ないが楽しく朗らかに生きているラダックの人々と日本の暮らしを比較した文章が印象的だったので、ここに引用する。

ラダックには、肉も魚もなければ、野菜の種類も料理のバリエーションも少ない。おまけに空気も薄くて酸素まで足りないときてる。すべてがナイナイづくしではあるけれど、私はそれが全然嫌じゃなかった。
ふだんの私は、自分で畑を耕さなくても、料理を作らなくても、スーパーとコンビニさえあれば生きていける。極端に言ってしまえば私の生活なんて、コンビニと結婚して、テレビが家族になっているようなものだ。
何もかもが少ないけれど、あるものを大事にして、家族や友だちと過ごす時間がたっぷりある彼らの方が、私よりもはるかに人間らしく生きているように思えてならなかった。(一部中略)

『ダライ・ラマに恋して』たかのてるこ

多くを所有することが幸福だと信じてやまない現代社会に対して、本当に人間として大切なのは「何を持つか」ではなく、「自分がどうあるべきか」なのだと本書は告げている。

「生きとし生けるものが幸福でありますように」と毎日祈っているラダックの人たちの心は、地球上の誰よりも朗らかで穏やかであるだろう。

そういう生き方がある。
忙しない世界で忘れさられてしまった、丁寧で優しい暮らしを、再び取り戻さなければならないと強く思った。

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