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星野道夫の講演集『魔法のことば』

星野道夫さんの作品が好きだ。写真も好きだが彼の言葉も好きで、色々と読み漁っては大切に胸にしまっている。

本書は、星野道夫さんの10の講演をまとめた一冊で、他の星野道夫さんの本が「書き言葉(文章)」としての言葉である一方で、本書におさめられているのは言わば「語り(口承)」としての言葉である。

いろんな場所で行われた10の講演をまとめた一冊であるために、同じ話が何度も登場する。

通常であれば、同じ話を何回も読むのははっきり言って億劫なことだが、本書に至ってはそのように思うことは一切なかった。

なぜなら、それは星野道夫さんがアラスカという場所で生きた時間のなかで、何度も語るに足るぐらいに大切なことだからだ。

本書のあとがきの言葉を引用する。

彼は本当に大事なことしか言わなかった。そして本当に大事なことは何度でも言った。

本書、あとがきより

自分にとって大切な本を何度でも読むように、自分にとって大切なことは何度だって語るのだ。

1回目にはわからないことが、2回目に聞いた時にはわかるかもしれない。3回目に聞いた時は、2回目にわかったこと以上のことがハッとわかるかもしれない……。というように、本当に大事なことは回数を重ねてもくどくなることはなく、むしろ深みを与えてくれるものなのだ。

人生は一度過ぎ去ってしまえば決して還らないけれども、言葉は何度だって蘇って還ってくるものなのだろう。読めば読むほど、聞けば聞くほどに積み重なっていく言葉の不思議を、『魔法のことば』と題したのではないかと一人で想像してみる。

星野道夫さんと語らうように、少しずつ読んでいってほしい、そんな一冊である。

こちらもお勧めです。星野道夫さんの代表作品です。


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