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雑誌『教育と医学』(2021年1・2月号) 「特集にあたって」「編集後記」公開


 雑誌『教育と医学』の最新号、2021年1・2月号が、12月28日に発売されます。今号の特集は、「「新しい生活様式」における子どもの学びと育ち」です。「特集にあたって」と、「編集後記」を公開します。ぜひご一読ください。

特集 「新しい生活様式」における子どもの学びと育ち
 特集にあたって コロナ禍における危機を、子どもの育ちと学びのチャンスに変えられるか | 池田 浩
 「新しい生活様式」における子どもたち | 汐見稔幸
 「新しい生活様式」における学校と学び | 石井英真
 子育て支援と「新しい生活様式」 | 奥山千鶴子
 病気の子どもの支援と「新しい生活様式」 | 藤野陽生
 ウィズコロナと教育格差 | 前馬優策
 「新しい生活様式」と学校保健 | 松永 恵


特集にあたって

コロナ禍における危機を、子どもの育ちと学びのチャンスに変えられるか

池田 浩

 危機は変革する最大のチャンスと言われています。

 我々は基本的に安定や継続を求め、いつか変わる必要があると思うものの、変化を拒む習性があります。変化が徐々に迫っているものの、それに目を背け、気づいたときには変革するチャンスを逸する「茹で蛙現象」は、まさにその心理を如実に物語っています。

 2020年は、我々の生活や常識を劇的に変える一年となりました。海外で端を発した新型コロナウイルス感染症は、2020年当初は対岸の火事とみていましたが、瞬く間に我が国をはじめ、世界中の至る所に拡大しました。感染拡大を防ぐべく、都市によってはロックダウン(都市封鎖)というかつてない対策が施されました。

 我が国でも、3月2日から「学校の一斉休校」に始まり、4月7日には東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」が発令され、子どもたちは長期間、学校で学べない異例の事態となりました。その後、学校は再開されたものの、絶えず感染リスクを考慮した、いわゆる「新しい生活様式」に基づいた学校生活が続いています。

 例えば、学校生活では絶えずマスクを着用し、子どもたち同士の間隔を空けるソーシャル・ディスタンスがとられるようになりました。換気や手洗いなどの基本的な衛生管理はもとより、給食も向かい合わせではなく、正面を向いて食事をとるようになり、会話も最低限に控えるようになりました。さらに、感染リスクを考慮して、運動能力とチームワークを発揮する運動会をはじめ、かけがえのない社会体験の機会となる修学旅行や宿泊体験などの行事も中止となった学校も少なくありません。

 一方で、コロナ禍という危機を機に、新しい取り組みが急速に導入される動きも見られるようになりました。それがオンライン化とデジタル化です。オンライン化については、文部科学省が推進するGIGAスクール構想(生徒用端末と、高速大容量の通信ネットワークを全国の学校現場で一体的に整備すること。GIGAとはGlobal and Innovation Gateway for All の略)が前倒しになり、2020年度内にすべての公立校の児童・生徒に一人一台の端末が配付される予定になりました。すでに、公立学校の一部ではオンライン授業も導入され、その可能性が評価されつつあります。またデジタル化も、プリント教材を中心とした紙媒体からメールやインターネットを介した配布へと今後加速度的に浸透していく可能性を秘めています。

 こうした「新しい生活様式」は、子どもの育ちと学びにどのような影響をもたらすのでしょうか。本特集では、子育て支援や病弱児の療育、さらには学校現場など、子どもの発達段階とそのフィールドごとに、「新しい生活様式」が子どもの育ちと学びにどのような影響をもたらし、そしてどうあるべきかについて多角的に議論いただいています。

 さて、文部科学省は2020年から新しい学習指導要領において、子どもたちが「何ができるようになるのか」という観点から、「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力など」「学びに向かう力、人間性など」の三つの柱からなる〝生きる力〞を掲げています。コロナ禍において、「新しい生活様式」に戸惑い、また想定通りの子育てや教育が進まないことに憤るのではなく、子どもたちの〝生きる力〞を育む機会と方法をどのように実現できるかを常に考えるようにしたいと思います。

池田 浩(いけだ・ひろし)
九州大学大学院人間環境学研究院准教授。博士(心理学)。九州大学大学院人間環境学研究科博士後期課程修了。専門は社会心理学、産業・組織心理学。福岡大学人文学部講師、准教授を経て現職。著書に、『産業と組織の心理学』(編著、サイエンス社、2017年)、『人的資源マネジメント』(共著、白桃書房、2010年)ほか。


編集後記

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全世界に「コロナ禍」という想定外の危機的状況を引き起こし、日本の私たちの社会、暮らしにも大きな影響を与えました。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大について、終息はもちろん未だその収束さえ見通しが立ちません。少なくともこれからしばらく私たちは新型コロナウイルスと共生していかなくてはならないでしょう。語呂合わせというわけではありませんが、「新しい生活様式」は、「コロナ禍」から「コロナ下」へ、私たちの意識が変化していくなかで作られていくと私は考えています。

 そのように考えた時、教育をめぐって方向性が全く正反対の動きがあります。長期間の休校を経験した最近の小学校や中学校は、対話的な話し合いはまだ十分できないものの、「コロナ禍」の前の集団指導をベースにした学校教育のあり方に一気に戻ろうとしているように見えます。その一方で、オンライン教育が市民権を得て広く浸透していくなか、この機に乗じて個々の子どもたちに情報端末を与えて、ICTを活用した「個別最適化」の教育として「コロナ禍」の後の学校教育のあり方を一変してしまおうという動きがあります。ただどちらの動きにおいても、それが招く結果や問題が十分に吟味されることなく、まず形式的なものが先立って進められており、「コロナ禍」の危機的な状況は、形式的なものに受動的に頼ろうとする私たちの姿勢を助長しているのではないかと思います。

 私たちは「コロナ禍」を、「コロナ下」の「新しい生活様式」を能動的に作っていく契機にしなくはなりません。そのために本来の意味で人間として、親も教師も子どもたちとともに、因習を排して地に足をつけた内実を伴う「新しい生活様式」を作っていくという意識、親も子どもも、教師も子どもも、そして子ども同士も互いに一人の人間として認め合い、ともに新しいより良い世界を作るという意識を持つことが必要ではないでしょうか。
(田上 哲)


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