旅友と虹 〜アイスランド・前編〜
ここではないどこか、誰もいない大自然で、大の字になって寝たくなる時がある。
今から数年前の話だ。温泉があちこちにあり、再生可能エネルギーで発電し、女性の政治参画が進み、非武装、そんな国が存在することを知った。よし、アイスランドに行こう!
まずは、真夏の猛暑の東京から脱出すべく、経由地のデンマークのコペンハーゲンを目指した。ただその日は、コペンハーゲンでも、30℃を記録し異例の猛暑になっていた。コペンハーゲンの中心部で一泊する段取りで、午後の数時間だけ時間があったので、弾丸でホテルの周辺を散歩した。夕方の時間でも、灼熱の太陽が照りつけ、ジリジリとした予想外の暑さだった。そんな中でも、緑溢れる公園の木陰には、金曜日ということもあってか、ちょっとしたピクニックのような感じで、楽しそうに談笑している若者達が沢山いたのが印象的だった。翌朝、また空港へ戻り、アイスランドの首都レイキャビクに向かった。
あ〜涼し~い。レイキャビクの空港に到着すると、それまでの東京とコペンハーゲンでの猛暑もあってか、とても心地よく感じたのを覚えている。レイキャビクも、私が到着してから3日間程は、一日の最高気温が17から18℃くらいまで上がったが、それ以降は、8月上旬でも、基本的には冷蔵庫の中のような気温で、時間によって13から14℃くらいまで上がるといった具合だった。空港からバスに乗り、滞在先ホテルがあるレイキャビクの中心部を目指した。
この旅では、10日程滞在をする予定の中、アイスランドの物価は高いこと、毎食外食をするとなるとかなりの金額になることを懸念し、キッチン付きで、更には、少しリモートで仕事をする必要性も考え、家のように快適に過ごせそうなアパートメントホテルを選んでいた。そこは、外壁がえんじ色で遠くからでも見つけやすく、内装は北欧らしくシンプルでありながら洗練されていて、ベッドの上は屋根裏のようになっており天窓があった。建物は、おそらく元々は単にタウンハウスだったのだろうという造りだった。チェックインこそ人がいたが、時間によっては無人で、幾つかのアパートメントホテルを専用の電話とメールでつなぎ、効率的にリモートで管理をしているスタイルのようだった。それゆえ、チェックアウトは、電話をかけて鍵を置いておくだけだった。それでも常に清潔感は保たれていて、快適に過ごせるような工夫や心遣いも感じられた。今まで数々の場所に宿泊してきたが、とても過ごしやすかったホテルの一つとなった。最初は、欲を言えば、部屋にシャワーだけではなく、バスタブもあればもっと良かったな~などと感じていたが、直ぐにそれが間違えだと認識した。
温泉でも有名なアイスランドだが、レイキャビクの周辺であっても、温水プールやビーチがあった。そういった場所には、寒さから体を温めるためなのか、地熱や温泉を使った最高のホットタブもあるのだ。どこの設備も比較的綺麗に保たれていて、日本とは違い水着着用で入り、大抵は、受付のようなところで、施設の利用にあたって英語で簡単な説明をしてくれた。観光でやってきた異国の人を歓迎しつつ、きちんとマナーも守ってほしい場合、こういったコミュニケーションは大事なのかもしれない。(言語の問題はもちろんあるが)料金は、当時の為替レートで、日本の公営プールと同じくらいで、銭湯より安いくらいだった。
最高気温が14℃くらいの日、数キロ歩いてビーチまで行ってみると、驚くことにビーチで泳いでいる人が何人もいて、ビーチから出ると、横づけになった大きな露天風呂のようなホットタブで温まるという仕組みになっていた。私も直ぐに着替え、ホットタブで体を温めてから、水風呂的に考えよう、いざ!と勇気を出して海の方へ行ってみた。まるで氷になる直前の水のように冷たく、とてもじゃないが無理!となり、一瞬でホットタブの方へ戻ってしまった。なので、海で長い時間を過ごし、海パンやビキニで楽しそうに泳いでいるファミリーやカップル達を、私は尊敬の眼差しで見守ることにしたのだった。周囲を見回すと、私のようにホットタブでリラックスしているだけの人もいた。温まりながら、アイスランドに来ちゃったよーとしみじみとなり、晴れた空を見上げると、澄んだ水色のグラデーションが美しく、雲がとても低いところにあるように感じた。後に知ったのだが、雲は緯度が高くなるほど低くなっていくという。
そうやって、まずはレイキャビクから歩いて行けるところを主に、自然探索をしたり、美術館、アイスランドのモノづくりスポット、地元のカフェやバーやレストラン、スーパーなどへ足を運んだのだった。更には、バスに乗り、温泉スパとして有名なブルーラグーンへ行ってみたりと、探り探りではあるが、それなりに楽しんでいた。ただ何か違うような気がし始めていた。北海道くらいの面積があるアイスランドで、レイキャビクから離れた大自然の数々を巡るとなると、やはりレンタカーで運転ができればよかったなーと感じ始めていたのだ。更にはいつも通りの一人旅でも、なぜか少し寂しく感じていたのもあったのかもしれない。そこで、元々行きたかった大自然の中の各名所を巡る一日ツアーに参加しようとネット予約をした。いつもの旅ならあまりしないであろう選択をあえてしてみた形だった。
翌朝、指定場所まで来てくれたバスにドキドキしながら乗り込む。バスは、レイキャビクの中心部のいくつかのポイントで参加者をピックアップしていく。すると、車内は満席に近づき、私の隣には、アジア系の若い女性が座った。日本人だろうか、でも違うなたぶん。すると彼女は、一瞬立ち上がり「あっここ座ってもいいですか?」と英語でたずねてきた。私が「もちろん、どうぞ」と伝えると「ありがとうございます!どちらからいらしたんですか?」と話しかけてきたのだった。「日本から、どちらから?」と私がきくと、「出身は中国の深圳で、今はロシアの大学に通っていて、もうすぐ卒業なので旅をしてるんです。なので、ロシアからバスで国境を超えて、フィンランドまで行って、ヘルシンキからは飛行機でアイスランドまで来ました」とのことだった。彼女は、旅や山登りが好きとのことで、風貌はバックパッカーといった感じだったが、よく見ると、色白で肌が透き通っていてチャーミングな女性だった。お付き合いをしている中国人の彼氏がフィンランドにいるようで、遠距離恋愛中で、しばらくはフィンランドで一緒に時間を過ごしていたようだった。私が香港に住んでいた頃に、深圳へは何度も行ったことがあると伝えると、親近感を持ってくれたのか、一通り自己紹介を終えると、彼女は「私たちは、一人旅が好きなところと、インターナショナルなところが一緒だね!」と言いニコっとした。私は、いきなり仲良くしてこようとしてくる人に出会うと、何かのスパイかカルト宗教の勧誘ではないかと妄想し疑ってしまい、心を閉ざすこともあるのだが、この時はそんなこともなく、話が弾んでいった。他に、私たちの後ろの席にいたフランスから来ていた男性とも仲良くなり、私たちトリオは、自然と一日を一緒に過ごす流れとなったのだった。彼は、自身は前日フランスからアイスランドに到着し、パートナーは翌日到着する予定とのことで、その後レンタカーを借りて一緒に各地を巡るつもりと話していた。(ということは、今思えば、彼にとってこの一日ツアーは、何らかの下見だったのかもしれない)
バスは、まずは、レイキャビクから近いシングヴェトリル国立公園へと向かった。ユネスコの世界遺産に登録されていて、歴史、文化、地質学的にも、アイスランドで最も重要と言われている場所とのことだった。世界最古の民主議会とされるアルシングが開かれた場所であり、その中心には、岩がまるでジェンガのように積み重ねられた、ログベルグ(法律の岩)がある。アイスランドでは、元々は、それぞれに異なるバックグラウンドの移民が、それぞれに異なる地域に入植し定住していき、共通の法律や規則がなかったため、各地域の代表が集まり議論をすることで、立法と、初期には司法としての機能も果たしていたとの説明をしてもらった。また、この公園には、アイスランド最大の湖があり、北米とユーラシア大陸の地殻プレートが分裂し、離れていく場所でもあるとのことだった。この地球の割れ目はギャウと言われ、一般的には、海底に現れるため見えないようなのだが、地上で確認できるのは非常に珍しいらしい。加えてこのギャウは、プレートが地球内部から出てくるところで、地球内部に入っていくところは、なんと日本だということで、不思議なつながりみたいなものを感じたのだった。
次はグトルフォスの滝へ。バスから降りて歩いて滝に近づいていくと、大自然の恵みであるミネラルウォーターのミストが顔にかかり、まるで化粧水で潤っていくような感覚がとても気持ちよかった。わお、滝がものすごい勢いで階段状になって流れ、そこから白いミストが立ち上る。とても神秘的で、かなりの迫力だった。私は、その美しさに圧倒され、呆然としてしまうのだった。ただそこで、私以外の二人が、グトルフォスの滝の写真をインスタグラムで見ながら、虹がかかっていることもあるんだ~、虹が見れたらもっとよかったのになあ~と言わないでほしいことを言い出したのだった。
続いて、間欠泉の中でも最も大きいグレート・ゲイシールへ到着すると、硫黄の匂いが立ち込めていた。その近くにあるストロックル間欠泉は、比較的大型かつ最も活動的とのことで、6 から7分ごとに20から30m程の噴出を見ることができるため、撮影スポットとして人気のようだった。私たちもその噴出を撮影しようと、スマホを持ち待ち構えた。その周辺には、同じことをしようとしている観光客が他にも輪になって集まっていた。湯気の上がる温泉を数分程撮影していると、突然ザパーン!と勢いよく力強く噴き出した。おーという声があちらこちらで上がり、私たちも、地球ってすごいね〜と興奮し感動したのだった。
この一日ツアーでは、他にバスの中でも、通りがかりや目に飛び込んできた何気ない一つ一つを取り上げて、アイスランドについて様々な話をしてくれた。特に興味深かったのは、地熱発電について、女性リーダー、非武装になった経緯、移民と一緒にやってきた動物達、犯罪率が低いことなどなどだ。
終盤に近づくと、私たちトリオは、他の参加者からは、元々一緒に旅をしている友だち同士だと勘違いをされるほど仲良くなった。実は、それぞれ一人旅をしていて、その日の朝にバスの中で出会ったと伝えるととても驚かれた。
そして「レイキャビクに美味しいスープ屋があるらしくて行きたいんだけど、一緒にどう? あとアイスランドで編んだセーターを古着で見つけたくて、そういうの好きでしょ、一緒に探そうよ」と誘われたので、中国の深圳出身の彼女とは、翌日も会うことになった。
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いつかこの「地球人のおもてなし」がNetflixでドラマ化されたらいいなと夢みながら😴💫
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