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ネパール7日目:社会課題、絨毯、占星術

11月13(水)
今日も大体6時ごろには目が覚めました。少しずつ日課になり始めているいつものお店で朝食を食べに行きます。今日は20代半ばのカップルも朝食を食べている最中でした。その部屋に入るや否や男性の方が私に興味を持ってくれて、ネパールの社会問題や課題について色々と話してくれました。女性は朝食後に仕事に行き、男性は休職中だとのことでした。
彼からは「この前の洪水の時もそうだったけど、ネパールの政治は崩壊していて市民の要望をしっかり聞いてくれない。本来やらなければいけないことの10%くらいだけしかやらない割に、多額の報酬を自分の懐に入れている。そんな政治家たちを選ぶような投票には行く気も起こらないし、自分が変えられるような希望も持ってないから、海外で仕事をしたい。IT系の勉強をしたし、日本は私にとって夢の国だから、日本で仕事に就けたら良いなあ」と話してくれましたが、「どこの国でも政府と個人の話になるとなかなかそんなにいいものではないよ…」という感じで、しばらく会話を交わしました。

朝からこんな会話ができて、ネパール人の政治に関する視線が知れたことは収穫でした。

今日の予定はというと、日本語の堪能なSujan Tangol先生とランチをし、ネパールの社会課題などのお話をお伺いし、その後は授業の一環でアート・ギャラリーに伺うという予定です。

カトマンズのカフェテリアでランチということなのですが、実は大学のメインのランチ時間は午前10時。なかなか早い時間なのですが、最初の授業は8時から10時までになるので、ちょうど良いのはちょうどいい感じです。この時間のランチは基本的にはみんな同じご飯で、ネパールの典型的な料理で平たくつぶした乾燥した米といくつかのサイド・ディッシュで構成されたダルバートという料理です。乾燥したコメだけだと食べにくいですが、豆、野菜、スパイスが入ったスープにつけて食べれば、食べやすく美味しいです。

さて、Sujanさんとは私がどんな目的で来たのか、どんな活動をしているのかをお話ししつつ、Sujanさんのこれまでの活動や生活を教えてもらいました。4年くらい前まではフリーランスのアーティストとして地元のアーティストたちとゆっくりとコミュニティーを作り、社会課題に取り組むようなプロジェクトをされてきたとの話でした。その頃からカトマンズ大学とはコラボレーションをしていたとのことで、今ではカトマンズ大学でフルタイムではないですが授業を受け持っているそうです。

お昼ご飯を食べ終え、少し一服するとのことで、学外に歩いて行く最中に10月の洪水の話になりました。洪水が起こった当日の午前1時ごろ、近くに住むSujanさんは大学の物品などをレスキューするために腰ほどまで水位が上がっている洪水の中大学に向かい、他2名の同僚と作業を続けたそうです。今だに至る所で洪水の痕跡が色濃く残っていますが、その頃の過酷な状況がよく分かります。と同時に歩きながら、高層ビルを指差し、「このビルのせいで洪水が起こったんだよ。このビルの建設計画が出た時に、多くの人達がその立地のせいで洪水を引き起こす可能性が高いのを知っていたから抗議活動を行なったけど覆すことができず、こんな状況になってしまったんだよ。」と教えてくれました。これも学生達が話していた社会課題に繋がりました。私利私欲のための自分勝手で無責任な建設。Sujanさんの人柄が伝わってくるひとときでした。

さて、11時からは授業が始まりますので、足早に教室へ行き、今後の課題提出に向けての確認と、追加の情報をお伝えしました。アート・ギャラリー訪問に関しても、他のクラスの課題にもなっているようで、大学が所有する車でグループで向かうことができました。

Jan Kath Rug + Art Space Kathmanduの外観

到着した場所はJan Kath Rug + Art Space Kathmanduというところでした、先日からRugという言葉を何度か聞いていましたが、ここへ来てようやく理解できました。絨毯を扱う会社が運営しているスペースで、現代美術を取り入れ展覧会や地元大学の卒業生を受け入れアート支援をしているところでした。到着するSanjeep教授から今回の展覧会のキュレーターを紹介していただき、キュレーター直々にスペースを案内してくれました。ウール、シルク、リンネルと素材のディスプレイや顔料と鮮やかに染められた糸、商品サンプル、写真などのディスプレイがギャラリー空間に展示されていました。普通にとても高品質なものであるのと同時にデザインがとても洗練されていました。ディスプレイされている写真パネルをよ~く見てみると、FendiとかLouis Vittonのショールームみたいなところも写っていました。なるほど、納品先のお客様だ!!!ネパールの絨毯の産業があることを理解せず、ここまで現代風なデザインを展開する会社があるとは思いもしていなかったので、とても感銘を受けました。

カラフルな糸

このスペースの名前でお気づきだと思いますが、Jan Kathさんというドイツの方がデザインを担当されているとのことでした。

と同時に、10数年前に東南アジアを巡り、バンコクで知ったJim Thompson Galleryのことを思い出しました。伝統的な素材や手法を受け継ぎ、現代のデザインに仕上げていく。そんなことを考えながら、館内の階段ですれ違って紹介していただいた方が、ディレクターとのことでさらっと挨拶を交わしましたが、あとで聞いたらこの会社の社長さんでした。。。なるほど、しっかり挨拶しなければいけない方だったじゃんと、その後の会話の機会を気にかけながら、鑑賞を続けました。Sanjeep教授の作品もSujan教授の作品もあり、7名ほどのネパールのアーティストの作品を見ることができました。どれも丁寧に時間をかけて、反復作業を通して制作された瞑想体験から生まれたような作品で、ネパールの地域社会をテーマにしたり、伝統的な素材や手法で制作されたりした作品の数々で、ネパールのアート・シーンの一旦を知ることができました。

これらの現代美術の作品は実は普段はカーペットを展示している空間で、構成としては絨毯と現代美術の並置がされていて、上の階では伝統的な絨毯製作の技術を持った女性達がいくつもの織り機にカラフルな糸を結び織り進めていました。この部屋には色染めされた多くの糸も保管され、伝統的な織り機や道具、デザイン図面なども展示され、製造工程がとても分かりやすく紹介されていました。複数の人達が作業をしているので、織りを引き締める道具で叩く音が心地よい音楽のように館内に響き渡っていました。

絨毯を織っている様子

この日は学生によるキュラトリアル・プログラムの一環でトークが企画されていました。在学生がレジデンス中の卒業生に対して、インタビューをするという構成です。また、このレジデンスでは絨毯に使われる素材は提供してもらえているようでした。

カトマンズ大学の学生によるキュラトリアル・トークの様子

伝統的な絨毯産業、女性達の手仕事、現代的なデザイン、国際的なデザイン・チーム、ネパールの芸大、展覧会とキュラトリアル・プラクティス、若手支援のレジデンス。

私の目には全てがWinwinの状況で、この事業を手掛けられた社長さんは素晴らしいビジョンをお持ちだなとしみじみと感銘していました。

残念ながらアーティスト・トークはネパールの言語も交えながらでしたので、その場からは退席させていただき、敷地内のカフェで休憩がてらコーヒーをいただいていると、先ほどの社長さんが入ってこられました。やっぱり大きな事業の社長さんってなんか違いますね。頭がキリッとしてる。

自己紹介がてら私がカトマンズ大学の客員アーティストとして滞在していることを伝え、社長さんから絨毯事業の歴史やビジョンなどを教えていただきました。同じくらいの世代で3代目とのこと、ヨーロッパでも仕事をこなし、2016年頃に帰国後、この複合施設の計画を立て2019年頃に建物が完成し、内装などを整えていったそうです。カトマンズ大学とのコラボレーションは今年の春頃からでまだ半年ほどの付き合いとのことでしたが、今後の展開も検討しているようでした。

これまでに手掛けてきた商品の数々を収録したカタログ

また、日本の東京のストリートやデニムのボロからインスパイヤされた作品についても、試行錯誤を繰り返し、10年かけて少しずつ技術改良してできた作品のカタログなども見せてくれました。とにかくかっこいい絨毯の数々。会話の最中に、私の絨毯に関する知識の乏しさや日本家屋における畳の存在があるので、絨毯はあまり馴染みがないと伝えると、「実際のところ90%くらいの人にとっては絨毯は後回しに考えられているので、絨毯を1番に思いついてもらえるような努力や確信をしたい」という情熱を冷静な表情で話してくれました。こちらの社長さんの存在やお話は本当に学生達にとっても大きな刺激になるものだと思いました。

その後は、先日伺ったTaragaon Nextが近いということもあり、徒歩で伺って展覧会を鑑賞して、今日の授業はおしまい。

夕方にホテルに戻り、昨晩、伺ったネパールの占星術のお店に行ってみました。お店の一階はパシュミナの販売をされていますが、本業の占星術は2階でされています。実は到着した翌日にすでに目に止まっていたお店です。生年月日、生まれた場所や時間をお伝えして、インドやネパールの占星術を計算するアプリやwebsiteを両方参考にしつつ、20年ほど研究されてきた知識に基づき、1時間ちょっと私の星の配置から読み取れる本質や運気のようなものを淡々と教えていただきました。詳しくは言えませんが、めっちゃ参考になりました。全て英語でしたが、理路整然と全てものすごく分かりやすく説明してくれました。終わりがけに聞きたい質問があれば、なんでも聞いてください。聞きたいだけお伝えしますし、料金は寄付で受け付けていますので、決まった料金はありません。と本当に良心的。質問をと言われても、本当に聞きたいことをスラスラとお話ししてくださって、1時間ちょっと聞き終えた頃には聞きたいことはほぼ全て的確に教えてくれました!

20年ほど占星術を学び10年ほど前から本業にしているSujalさん

今回のネパール訪問で見つけたいことが見つかった気がしました!

ということで今日はここでおしまい~!

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