命令形と依頼形
「命令は上から目線なので、依頼形を用いましょう」
よくコールセンターで言われる言葉です。
電話応対研修でもこのように教えているものが多いのではないでしょうか。
私はこの表現は正確ではないと思います。
形の違いではなく、大切なのは確認すること
正しくは
「お客さまの意思を、確認しながら話を進めましょう。
そのためには命令形ではなく、質問形を用いましょう」
ということになろうかと思うのです。
どう違うのか具体例を見てみましょう。
例えば、「明日、お電話差し上げますので、お待ちいただけますか。」という言葉を発したとします。
お客さまは「分かりました」と言ってくださる場合もあれば、「嫌です」とおっしゃる場合もあります。
当然、問題になるのは「嫌です」と言われたときの反応です。
依頼形≒へりくだったつもりの命令になっていないか
「命令は上から目線なので、依頼形を用いましょう。」という指導に従った人は「こんなにへりくだって案内しているのにどうして言うことを聞いてくれないんだろう」とショックを受けるかもしれません。
しかし、お客さまにしてみれば嫌なものを「嫌です」と言っているだけですから、ショックを受けてもらう謂れもないことです。
もうお分かりのようにこの場合の依頼形とは、単にへりくだったつもりの命令なのです。
あるコールセンターでは、「断られても困るんだから『お待ちいただけますか』なんて聞かず、『お待ちください』と言い切りなさい」と指導しているところもあると聞きます。
困るから、面倒だからという理由で命令するというのもどうかと思いますが、本当に他に選択肢が無い場合には、このほうが正直だと思います。
命令のほうがよいケース
例えば「ポイントは10日以内にご使用いただけますか?10日たちますと失効しますので、“ご承知おきくださいませ”。」という案内をする場面で、“ご承知おきいただけますか?”はどう考えてもおかしいのです。
“10日で失効する”ことが厳然としたルールであり、お客さまに合わせて変えられるものではないとすれば、お客さまの意思がどうであろうと関係ないからです。
他に、命令形を使った方がよいパターンとしては、
“既にお客さまの意思を確認している場合”
と
“お客さまの意思を私達が知る必要がない場合”
があります。
前者の例としては「お調べするにはお時間がかかりますがよろしいですか?」と質問し「はい」と意思を確認しているのに「では、お調べしますので少しお待ちいただけますか?」と再度確認している場合です。
恐らく、普段から「保留前には“お待ちいただけますか”と言いなさい」と言われているので、つい言ってしまった、という状態ですが、これではお客さまは「え?今、待つって言ったばかりだよね」と思ってしまいます。
後者の例としては、「何かございましたらお電話くださいませ」というような内容です。
これを偉そうだからと「お電話いただけますか」と言うとお客さまはそんなどうでもいいことに返事をしなければいけなくなります。何かあった時に電話するかどうかを、今、一瞬で決めなければならなくなるのです。
ここは「私はお客さまからお電話を頂きたいと思っていますよ」ということがこちらから相手に伝わればよいだけで、お客さまの意思を確認する必要はありません。
命令と質問の比較
ちょっとこれが分かりづらいという人は、以下の2つの文章を読み比べてください。(もし可能なら、どなたかに口頭で言って、どう感じたか聞いてみてください)
A「良かったらおいでください」
B「良かったらおいでになりませんか?」
A「タバコやめなよ」
B「タバコやめたほうがいいと思うんだけど、そう思わない?」
A「◯◯すっごく面白かった。お前も観なよ」
B「◯◯すっごく面白かった。お前も観に行くだろう?」
どれも、Bのほうが親切だったりBの方が親しみを込めたりしているのかもしれませんが、Bのほうが重く感じるはずです。
命令は傲慢、とは限りません。命令のほうが、相手の回答を期待しないという点で優しいときもあるのです。
質問には責任が伴う
では質問形を用いるとはどういうことかというと、お客さまの意思を確認したなら、それを受け入れ、お客さまに合ったサービスの提供ができるよう努力するということです。
「あぁ、このお客さまは嫌なんだ。では、どのように“嫌”で、どのようなサービスをお望みなんだろう」と考え、それを行動に移していくということです。
「明日、お電話差し上げますので、お待ちいただけますか。」と質問したら「嫌だ」と言われた場合の例に添って、思いつくものを挙げてみましょう。
別に難しいことではありません。
家族や友人であれば常日頃行っていることです。
接客は普段と同じことを、ただ敬語や改まり語を用いて行うだけです。
では、また。
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世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。