カスハラ対策の前にクレーム対策を
先日タルイタケシ@読書セラピストさまの記事を読んでいて、ある言葉が目に飛び込んできました。
その記事がこちら。
これを読んだときにはショックでしたが、タルイさんご自身のクライアントのお店が被害に遭っているとなればタルイさんも心穏やかではいられないでしょう。私は知りませんでしたがカスタマーハラスメント対策法案は去年提出されたもので、既にUAセンセンなど個人を超えた動きが起こっています。ここは私もnoterのはしくれとして、考えを整理して文章にしたいと思います。
※私はコールセンター出身なので、コールセンターについて書いていきますが、接客業なら基本はどこも同じかと思います。
笑顔だろうが怒鳴ろうが貴重なご意見であることに変わりはない
コールセンターでは、業務内容にもよりますが、毎日のようにクレームがあります。特にSVともなれば、電話は二次対応しかありません。つまり電話応対≒クレーム対応です。電話口で「土下座しろ!」「給料泥棒!」「詐欺会社!」などと怒鳴られることもあります。(電話で「ブス!」と怒鳴られたこともありますW)
別センターから電話がかってきて、「朝からこっちのSVがクレームに捕まっていて、まだお昼にも行けていない。この対応をそっちで代わってくれ」と言われて引き継いだこともあります。もちろん、私では手に余り、クライアントに引き継いでもらったこともあります。
それでも、クレームが好きというと語弊があるかもしれませんが、クレームを言ってくるお客さまは、人を求めているお客さまです。(コールセンターから生身のオペレーターがいなくなって、AIが自動対応するようになってもクレーム対応だけはAIには無理ではないでしょうか)
お客さまは、こんなことを言ったらクレーマーと思われるに違いないと思いつつ、それでもどうしても言わざるを得ないところまで追い込まれて勇気を振り絞って電話をくださいます。そこには、きっと分かってもらえるという一縷の望みを、いやそんなもの無いのかもしれないけれどもきっとあると信じたい、そんな思いがあるからです。
そんなお客さまのお話を伺い、できることは行い、またご要望には応じられないことを納得してもらったとき、お客さまは心からの「ありがとう」をくださいます。中には、涙を流して感謝してくれた人もいました。
「ありがとう、あなたに聞いてもらえてよかった」「今回のことは許せない。でもあなたみたいな人がいる会社だったら、もう一回信じてみる」このように言われたとき、長時間の疲れが一気に吹き飛びます。それどころか、お客さまからもらったこれらの言葉が、コールセンターを離れた今もなお私の人生を支えてくれているかもしれません。
クレームはどちらかが勝ってどちらかが負けるゲームではない
タルイさんの記事には、こんなことも書かれていました。
私のクレーム対応講座では、クレームにどっちかが勝ってどっちかが負けるということはないと教えています。終話時には、両方とも勝つか、両方とも負けるか、どちらかの状態になっています。
この文面から察するに、電話をかけた客は満足することもなく、オペレーターは傷つき、企業側は大切な客を一人逃した状態で終わったのでしょう。これでは、誰も得をしません。なぜこのようなことが起こっているかといえば、カスハラが激化しているからと客のせいにするのもありですが、応対品質が低いという側面はないでしょうか。
タルイさんは、調査結果の「45%」という数字から、「誰でもカスハラをする可能性がある」とまとめています。
普通の人が、状況によっては泣き叫んだり、怒鳴り散らしたりすることがある。それは、普通のことです。あなたにも、私にも起こりうることです。
今日は私がクレームを受けるかもしれませんが、逆の立場になれば、私のクレームをあなたに受けてもらうかもしれません。普通のことを取り締まるなら、「45%」という数字からすれば、3人家族なら誰か1人は取り締まられます。取り締まるよりは、お互い様の精神で対応できないでしょうか。
クレームは早ければ早いほどいい
おそらく、規制法案を作りたい人々は、規制があることによって自制が働き、「45%」という数字が小さくなることを期待しているのでしょう。
しかし、クレーム対応の原則として、我慢することなく早く電話をもらったほうがよいのです。商品を発注した人が、本当に発送されたか心配になったそのときの電話はただの質問ですが、3日たっても届かなかったときは不満を抱えています。1週間たったときには怒鳴りまくっているかもしれません。だから電話の最後には「また何かあればお気軽にお電話ください」と言うのです。
何を言いたいかというと、規制によってクレームを入れることを我慢する人たちが出たとき、そのエネルギーはきっと社会をもっと悪くする方向へ働きます。電話をくれれば済んだことがその手順を飛ばしてSNSへの拡散になるかもしれません。それでなくとも、貴重なお客さまからのご意見を自らの手で潰してしまうことになります。自分が客だったとき、クレームを言うことを我慢したんだから、お前(客)だって我慢しろよと考える従業員が出てくるかもしれません。そうしたら今度は、オペレーターがカスタマーにハラスメントを行う「オペハラ」なんて言葉が生まれるかもしれません。
また、駅には駅員に暴力を振るわないよう啓発するポスターが貼ってありますが、これはカスハラなどと言わずとも暴行罪という立派な犯罪です。ほかにも脅迫罪や威力業務妨害罪など、行き過ぎたクレームには対応できる法律が既にあるにも関わらず、客に限定した規制法案を作りたいのはなぜでしょうか。
ストレスから従業員を守るのは企業
企業には安全配慮義務があります。クレームで心身に傷を負うことのないように従業員を守らなければなりません。これは、客が負うべき義務ではなく、企業が負うべきことです。
企業が負うとは、クレームに一人で対応させないことや、必要に応じて上長が対応を代わること、他部署とも連携をとって問題を大きくさせないことや、そもそもクレームに対する対応を決めておいて誰が代わっても同じことを答えるようにするなど、組織で対応することです。クレームが発生する前に、応対クレームを生まないような教育も必要です。(この教育も、人件費削減でろくに行わないまま電話に出しているところも増えてきたようです。また、客を怒らせるような対応をしてもパワハラと言われることを恐れて何ら指導せずなぐさめることかしないところもあるようです。委託業者に対応を任せっきりでスキルの蓄積を行わないクライアントもあります)
ハラスメントを行うカスタマーを規制することとは方向性が真逆です。
普段から、もしクレームがあったらどうするかということを決めておき、クレームが発生する前提で業務を構築しておけば、個人に対して組織で対応するのですから、企業側が圧倒的な強者です。タルイさんの記事でも、カスハラ対策が紹介されていましたが、組織的な対応は可能です。
そして、タルイさんがおっしゃているように『日本では長年「お客様は神様」を曲解した商習慣が続いてきました」。
以前にもどこかで書きましたが、たいがい新人は会社としてやらないことやできないことを「でも、お客さまがご希望なんですよ。どうしましょう」と言ってきます。その度に私は、「じゃ、あなたはお客さまから脱げって言われたら脱ぐの?自分は脱がないのに会社には脱がせるの?」と言って突き返しました。それでクレームになったら、対応を代わり、本人にも聞かせました。会社のサービスにないことを曲げるのはサービスではなく、怠慢でありクレーマーを育てる行為です。このように、自分たちこそがクレーマーを作っている可能性だってあるのです。
一方できちんと育てればクレーム対応ができるオペレーターになり、クレーム対応ができるオペレーターは普段の入電でもお客さまの満足度を高められます。普段からお客さまにありがとうと言われれば、おのずと仕事へのモチベーションも上がります。
だから、タルイさん、お客さまを正しく神様扱いするために、タルイさんのクライアントに、私の講座をご紹介ください!
よろしくお願いします!
あ、リアル店舗なら電話応対だけじゃダメか(笑)
世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。