映画「スープとイデオロギー」観ました
ヤン・ヨンヒ監督の、オモニ(母親)にフォーカスしたドキュメンタリー映画です。
ヤン・ヨンヒ監督の映画で観たのは、「ディア・ピョンヤン」「かぞくのくに」。小説「朝鮮大学校物語」も読んでいます。未見の物も含め、ヤン・ヨンヒ監督が表現するのは自分の家族のこと。両親は朝鮮総連の活動家で、亡き父親はその幹部でもありました。3人の兄は帰国事業で北朝鮮に渡っており、北朝鮮には多くの親戚がいます。
この監督の映画を観ると、「個人的なことは政治的なこと」という言葉を思い出します。自分の家族のことを徹底的に見つめれば見つめるほど、人の運命をもてあそぶ残酷な社会の成り立ちや政治のしくみがあぶり出されてくる。
自分の家族を撮ってきた監督の、これは総決算、最終章ともいうべき作品です。
オモニは、壮絶だった済州(チェジュ)4.3事件の体験者と知る監督。
済州4.3事件…なんとなく聞いたことはあったけれど、これほど悲惨だったとは。全貌が明らかになってきたのは、調査が始まった近年のことです。
かつて済州島は、韓国政府に武力弾圧され、武装と無縁の島民も含め約3万人が犠牲となった。死亡人数が不正確なのは、当時を思い出したくない人が届を出していなかったりするから。当時18歳だったオモニの婚約者の兄弟もそうです。だから、慰霊碑や犠牲者の墓地にその名は刻まれていません。多くの村が焼かれてもいるし。
第二次大戦後、朝鮮半島の戦後処理の中で、米ソの対立が激しくなりました。済州島での武装蜂起は、直接的には、アメリカが行う南側だけの単独選挙、つまりは南北分断に反対する島民によるもの。けれど、それは局地的な小さな抗議活動に過ぎなかった。済州島では、それまでにすでに過酷な「アカ狩り」が行われてきていました。
母親は幼い兄弟2人を連れて日本へ密航し今に至るのです。当時、済州島から逃れ日本に渡ってきた人は少なくなかったそう。母親が、韓国政府に対し深い絶望感を抱いて生きてきたことを知り涙するヤン・ヨンヒ監督。こちらも胸が痛くなります。
もし、こうした悲劇がなく平和に暮らしていたら、この家族はどんなに幸せだったろうと思います。映像に残されたアボジ(父親)からは“朝鮮総連”からイメージされる怖い印象はなく表情豊かで温かな人柄が伝わってきます。母親と父親の仲の良さも素敵。3人のお兄さんも含め、きっと温かい家庭だったはず。人は国家に翻弄されながら生き延びるしかないことを、思い知らされる心地がします。
監督の婚約者で夫になるカオルさんも出演します。カオルさんがオモニから教わる参鶏湯美味しそう。パンフにはレシピも掲載されてました…誰かつくってほしい…。