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【family】さんちゃんの自転車特訓

5歳の誕生日に念願の自転車を手に入れたさんちゃんは、しばらく補助輪をがたがた言わせながら公園やスーパーまで漕いでいた。
「補助輪外したいなぁ」と言うようになったのは、乗り始めて1か月もしない頃だった。

夫氏は「外したらまた付けるの大変だよ」と言ってなかなか取り合わないでいたのだが、ちょっと天気がいまいちだった先週の日曜日に私が完全な思い付きでぽろっと「外してみようか」さんちゃんに言ってしまった。
待ってました!!のさんちゃんは「外そう外そう!!」とノリノリだ。
夫氏は「なんでまたこんな天気の日に…。」と呆れていたが、工具箱からスパナとドライバーを出して2人で力を合わせて無事に外すことができた。

そしてここからさんちゃんの自転車特訓が始まるのだった。


大好きなテレビも見ない

日曜日、雨が止んだすきに試し乗りを始めた。夫氏にしっかり後ろを抑えてもらいながら練習をしていたようだ。その間べえさんと私は家の中でのんびりタイムを過ごした。

月曜日、朝いつもより遅めの時間に起きたさんちゃんは「自転車の練習をする!」と言ってきかない。
あっという間に着替えて保育園に行く準備と朝ごはんを済ませ、夫氏を呼んで一目散に外へ飛び出した。
いつもなら朝ごはん後は大好きなテレビタイムなのにそれもなく、最近ハマっている足し算ドリルだけは合間に終わらせていた。

べえさんは目下お兄ちゃんの真似っこブームなので、一緒に外へでて「にいちゃんがんばれ!」と応援していた。その声を遠くに聞きながら家事を片付けて穏やかな気分で仕事を始めたのだった。

帰宅後も少しでも自転車に乗りたいさんちゃんは、15分だけという約束で練習した。夫氏は仕事で不在だったので、私が後ろを抑える係に任命されたのだがなんともうまくいかない。
「お母さん下手だね。」とさんちゃんにがっかりされる始末である。

できることを思い出せ

そこで私はいかにして自分が中腰で抑えなくてもさんちゃんの練習になるかを考えた。思いついたのは「バランス練習作戦」だ。
「ストライダーに乗ってた時を思い出してさ、ととととってつま先で地面をけりながら途中で足を上げる練習してみたら?」とさんちゃんに言ってみた。

始めはよろよろしてしまうことにビビりながら「お母さん抑えてよ~。」と言うさんちゃんだったが、「大丈夫大丈夫!できてきてるよ~」と声をかけて励まし続けた。
すると徐々にコツをつかんだのか、両足を上げて自転車を安定させられるようになってきた。
本人も「今できたよね!!」と喜んで、何度も何度も同じ練習を繰り返しアッという間に15分が過ぎたのだった。

やりたいことはあきらめない

火曜日も朝から登園前に自転車練習が始まった。夫氏に前日のバランス作戦を共有して、「ととととっ、ひゅ~」という声かけも伝えておいた。
どんどんバランスを取れるようになってきて自信がついたのか、練習を終えて玄関に保育園バッグを取りに来たさんちゃんは「一回も転ばなかったよ!」と誇らしげにお茶を飲み干して出かけていった。

帰ってからもすぐに自転車にまたがったさんちゃんは、朝の成果を見せてくれた。昨日よりもペダルに足が乗るようになっていて、その上達スピードに驚いた。
何度も何度も家の前を往復しながら、少しづつペダルを前に押せるようになり、両足が地面から離れる時間も増えてきた。

そしてついに、ペダルをくるくると漕いでよろめきながらも数メートル進むことができたのだ。
「見た!?今漕げたよね??」振り向いたさんちゃんに
「漕げてたよー!!すごいねー!!」と拍手を送った。

漕げるようになっただけでは満足せずに、足をつかずに一周すると目標を決めたさんちゃんはできるまで何度「家に入ろう」と言っても聞かず、へとへとになりながらも目標を無事に達成して練習を終えたのだった。

特訓が成功した理由

お風呂に入る前にさんちゃんが言った。
「お母さんが小さい時に自転車を僕みたいにすぐ漕げるようにならなかった理由はさ、僕がいなかったからだよ。」
「え?どういうこと?」
「だって今日僕が自転車漕げるようになったのはさ、お母さんとお父さんが見てて力をくれたからだもん。」

なんという尊い感性なのか。そんな発想がさんちゃんの中にあったとは知らなかった。
「そうなんだね、ありがとう。あとお母さんが思うのはね、大好きなテレビも見ないで朝も夜も一生懸命さんちゃんがあきらめずに練習したからっていうのもあると思うな。」
と伝えておいた。

その日はとても心が温かくてよく眠れたのだった。

好きなことへのエネルギー

さんちゃんはもともと体を動かすのが好きで運動神経も良い方なのだと思う。それでも補助輪を外してわずか3日で乗れるようになるとは私も夫氏も予想していなかった。

でも決して本人の中では簡単なことではなかったはずで、「できるようになるまでやり続ける」「やりたいことはとこんやる」という期間は短いながらも濃い努力の成果だった。

これには親バカながらも本当に感動して、その姿勢に学ばせてもらった。
まずは今の自分のやりたいことに、とことん向かっていこうと心を新たにしたのだった。

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