伝説のエッセイ『ヨーロッパ退屈日記』伊丹十三
伊丹十三の『ヨーロッパ退屈日記』(新潮文庫)を読んだ。
この本の存在を知ったのは、以前noteで感想を書いた『日本エッセイ小史』(酒井順子 著)の中で紹介されていたことがきっかけだった。
同書から引用すると、
この本の登場はエポックメイキングな出来事(『日本エッセイ小史』p.24 )
伊丹十三の作品が「随筆」ではなく「エッセイ」だとされたのは、その「カッコよさ」と、国際的な感覚によるものではないか、という気がするのです。(『日本エッセイ小史』p.25)
日本の随筆がエッセイと呼ばれるようになった記念碑的作品といえる。(らしい)
1965年刊行なので、流石に古臭さは否めないだろうと、期待半分に読み始めたのですが、
感想をひとことでいうと、
粋でオシャレで都会的、
知性と教養と、豊富な海外経験に裏打ちされた、ウンチク、ひけらかし、キザっぽさが満載。
1960年代に、ヨーロッパを退屈といってのけるとは、何と不遜な。
どう考えても鼻につくはず…なのですが、独特のものの見方と表現力、
スマートさとユーモア、
媚びずに、嫌いなものは嫌いと堂々といえる潔さ。
好奇心と探究心。
語学力と絵の才能。
世界の名優や監督と共に仕事をし、場数を踏んだ自信。
伊丹十三という人と、
このエッセイの魅力をひとことで表現することは出来ません。
著者の強い個性が反映されているのに、不思議と物静かで気品のある語り口。
べた褒めになってしまいましたが、ないものねだりなのか、このような才能に強く惹かれます。
何とイヤミな男、と思われる向きもあるかと思います。
間違いなく、好き嫌いが分かれるでしょう。
しかし、毒にも薬にもならない文章ほどつまらないものはありません。
この本の表紙の下の方に、
「この本を読んでニヤッと笑ったら、あなたは本格派で、しかもちょっと変なヒトです」
という文言があります。
山口瞳さんが考案されたキャッチフレーズだそうです。
早期の英語教育や家庭環境、1961 年より、俳優としてヨーロッパに長期滞在した経験がこのような個性を育んだのでしょうか。
後に、監督として『お葬式』『マルサの女』などの作品を生み出したり、
『家族ゲーム』(森田芳光監督)では、父親役を怪演したり。
突然このような才能が花開いたわけではないのだなと、このエッセイを読んで、今にして納得したのでした。