見出し画像

公約ゼロでも共感主義から汚職を覆す、大衆派選挙運動の予見【映画「ザメイヤー特別市民」】

民主主義国家はどこもこうなっているのかと思わせる。

正直後半の展開はやりすぎで現実味が薄れてダレたが、隣国のポリティカルサスペンスとしては他人事とも思いにくい作品だった。都知事選から某県知事選から見える共感主義を逆手にとって動こうとしている裏側は自然と彷彿させる部分はある。

8年前の映画ではあるが現代の選挙運動の予見的なものも見えるので、世界的にこうした民主主義の弱点をつく人が出てくる物語が増えていた時点でこうした分岐点が来るのも遅かれ早かれ普遍的な流れだったのだろう。

あらすじ・ストーリー

ソウル市長のビョン・ジョング(チェ・ミンシク)は、次期大統領選を見据え、史上初となる3期連続の市長当選を目指します。彼の選挙戦は、百戦錬磨の選対本部長シム・ヒョクス(クァク・ドウォン)や、新しく採用された若手広報担当パク・キョン(シム・ウンギョン)と共に進められます。しかし、選挙戦が過熱する中で、ジョングは取り返しのつかない事故を起こしてしまい、選挙と自己保身のためにさらに汚れた手段を取ることに……。この映画は、権力欲にまみれた政治の現実と、それに翻弄される人々を描いています。

主な登場人物

  1. ビョン・ジョング(演: チェ・ミンシク)
    ソウル市長で、3期目の当選を目指す。政治的野心が強く、手段を選ばない。

  2. シム・ヒョクス(演: クァク・ドウォン)
    市長を支える選対本部長で、数々の選挙戦を経験してきたタフな人物。

  3. パク・キョン(演: シム・ウンギョン)
    市長直々にスカウトされ、選挙チームに加わった若手の広報担当。理想と現実の狭間で葛藤する。

  4. その他の人物
    チョン・ジェイ(ムン・ソリ)やヤン・ジンジュ(ラ・ミラン)といったキャラクターが物語をさらに深くします​

韓国の選挙法違反描写

映画では、選挙戦における違法行為や倫理観の欠如がリアルに描かれています。脅迫や賄賂のやり取り、不正行為が暗に描かれ、現実の韓国政治にも通じるテーマとなっています。選挙戦の過激さと、それに伴う破滅的な結果が見どころです​

魅力

『ザ・メイヤー 特別市民』は、実力派俳優たちの緊迫感ある演技と、政治の裏側を赤裸々に描いたストーリーが魅力です。特にチェ・ミンシクの存在感あふれる演技は必見で、観客に強烈な印象を与えます。また、権力争いに潜む倫理的問題や人間関係の複雑さが深く掘り下げられており、考えさせられる内容となっています

感想

序盤から韓国の選挙運動の風景で見える独特なパフォーマンスから裏側の戦略も描かれる。

与党と野党側も共通して公約は必要ないというスタンスを既に取っており、野党の女性立候補者は胸の谷間をちらつかせることでネットの検索率と注目度を上げていく。

この辺りの現代では既に常習化してきたネットの共感主義を取り入れていく攻防を描いていく話は映画としても新鮮でよかった。韓国の選挙法もよくわからないが、堂々と応援組織に広告会社の人間と提携し広告を委託しているところを描いているのも面白い。

今の日本の選挙騒動から見れば色々先見の明は感じられる。

後半から市長が起こした交通事故を裏組織を使って隠蔽し始めるところから話が大きくなりすぎてややこしくなる。

この辺りからサスペンスやスキャンダルの方が詰め込まれすぎだったが、ポピュリズム的な政治家を極端に描いたら裏社会組織と変わらなくなるというように描きたかったのだろうか。韓国の政治界にはそういうモデルもいたのかもしれない。

終盤は内部の裏切りやミスから組織もボロボロの状態になるが世論の共感を逆手に取れば印象操作だけで当選していく様も最後に見える。感情的に煽ることはないが、巨大な嘘から彼らは真実に見せていくやり方は共通する。

サブタイトルの特別市民は暗躍していた女性記者や広告会社の女性のことなのだろう。最後に二人の選択で民主主義観がどう見えるかはっきりするように練られていた。

後半からサスペンスとして見せすぎてありきたりにはなるが、現代観も予見した政治運動をテーマにする作品としては攻めていてよかった。人間くさい市長を序盤は誠実に見せて裏ではどんどん離れていく過程にもモデルがいたのだろうかと感じさせる。

全体的に裏側の話が多すぎて外の状況がイマイチ見えなかったのも途中胃もたれするところだったが、韓国なら向こうの世相も踏まえてまた風刺的ないい映画は作るのだろう。エンタメ文化の役割の広さと質にはつくづく驚かされる。






いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集