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「ちゃあちゃん」と孫ズ

「ばあば」「おばあちゃん」「おばあ」  

世のお婆ちゃんは、孫から色々な呼び名で呼ばれている。最近では、「おばあちゃんなんて呼ばれたくないわ!」てな感じで、名前に〝ちゃん〟を付けて呼ばせているところもある。

で。

私達、私のお婆ちゃんの孫達はお婆ちゃんのことを
〝ちゃあちゃん〟
と呼んでいた。

お婆ちゃんの名前は
ちかこでもないし、ちあきでもないし、ちはるでもない。

でも、〝ちゃあちゃん〟。

一番初めに生まれた孫が何故だかそう呼び始めたからちゃあちゃんは〝ちゃあちゃん〟になった。

ちゃあちゃんはお婆ちゃんと呼ぶにはあまりにも逞しかった。愛車のママチャリで近所のスーパーを網羅し、戦利品を持ち帰っては私達にとびきり美味しい夕飯を振舞ってくれたし、代わる代わるに家を訪ねてくる孫達の相手を欠かさずにしてくれた。

私達の成長の傍には、いつもちゃあちゃんが居てくれた。  

初めて歩いたのはいつだっけ。
初めて言葉を話したのはいつだっけ。
初めて弟を抱いたのはいつだっけ。  

思い出せないけれど、それはきっと、全てちゃあちゃんの家で過ごした時間の中で経験したはずだ。  

そんなちゃあちゃん。今思うとかなりの破天荒。  

「喧嘩に負けたら承知しないよ」  

幼稚園で突き飛ばされて泣かされた私にちゃあちゃんがかけた言葉。幼児にガチギレ。私被害者じゃなかったっけ?

鬼の形相のちゃあちゃんが怖過ぎてちびるかと思った。これのおかげでその後マジで喧嘩に負けた事はなかった。男の子相手でも泣かすまで追いかけた。だってバックに鬼がいるんだもん。負けたらやばい。

生傷だらけの泥だらけ。
そんな私と弟を見て、ちゃあちゃんは満足そうに笑い、母さんは青ざめた。

そんなこんなでちゃあちゃんに逞しく育てられた私達孫ズ。なんと10人。

齢70を超えてその数の子供を相手にしていたと思うと、ほんとちゃあちゃんすげーって思う。感服。

でもそんな逞しいちゃあちゃんも老いるわけで。

「出されたもんはちゃんと食べなさい。食べ物に失礼なことしたら許さないよ。」

そんなこと言ってた次の日に、ちゃあちゃんはぶっ倒れた。くも膜下出血という、聞いたことのない病名だった。

そんでそのまま、
歩けなくなってしまって。
言葉を失ってしまって。
自分で呼吸ができなくなってしまった。

そして
孫ズのこともわからなくなってしまった。

優しい鬼は、いなくなってしまった。


そこから先は、すぐだった。
棺の中に眠るちゃあちゃんを見て驚いた。

あれ、こんなに小さかったっけ。細かったっけ。

ちゃあちゃんに大事に大事に大切に、愛情込めて育てられた孫ズは、あっという間にちゃあちゃんよりも大きく成長していた。

これからこの体で、ちゃあちゃんを支えるはずだったのに。手をひいて、歩いていくはずだったのに。


孫ズはちゃあちゃんの棺が運ばれていく時に、誰も言葉を発せなかった。人間ほんとに悲しい時は、体が動かなくなるもんだと知った。息の仕方を意識しないと、脳に酸素が回らなくなって苦しくなった。

煙になって空に溶けるちゃあちゃんを見た時に、脳みそにやっと信号がいった。ちゃあちゃん死んじゃったぞって。

そしたらもう、
奥歯を噛んでも噛んでも我慢出来なくて涙が出た。我慢して我慢して我慢しても、止まらなかった。
吸ったばっかりの酸素がすぐ出ていってしまうから、肺が忙しなく動いていた。

泣き噦る孫ズを見て
鬼は、怒るだろうか。慰めてくれるだろうか。


枯れるほど泣いて絶望しても、飯食って寝てを繰り返せば人は育つ。

そんなこんなであれから10年程経って、孫ズもほとんど成人した。

で、

一番上、ちゃあちゃんを〝ちゃあちゃん〟と呼び始めた孫ズリーダーがこの前結婚した。

嫁、めっちゃ美人。

そのお嫁さんが、写真にて結婚式に参列したちゃあちゃんを見て「お婆ちゃん?」と首を傾げた。

リーダー、ニコニコ笑って
「ちゃあちゃんだよ」と答えた。絶対伝わらん。

でもお嫁さん、ちょっとキョトンとして
同じようにニコニコして言った。

「うちはね、あーちゃんだよ」

そう言って、神社の前に立っているお婆さんを指さした。

ニコニコ笑う二人を見て、ちゃあちゃんにも見せてあげたいな。きっと泣いちゃうだろうな。そしたら背中さすってあげよ。

って思った。

リーダーが披露宴の後に、私らに言った。
「ちゃあちゃんって、俺多分おかあさんって呼びたかったんだと思う。でも舌回らんくてちゃあちゃんになったんだよな。」


まじか。

まあたしかに、孫ズにとってちゃあちゃんは、
おかあさんみたいなもんだったしな。

おかあさんが二人いるなんて、私らは随分幸せ者だ。    

おいしいごはんとぽかぽかおふろ
あったかい布団でねむるんだろな

そんなおうちで過ごした、ちゃあちゃんと孫ズ。

そんな時間を、ふと思い出して、
とっても暖かい気持ちになったから、言葉にした。

いつまで経っても孫ズはちゃあちゃんが大好き。


愛してるよ。育ててくれて、ありがとう。

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