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ハンティングの成果
2週間ほど前
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玄関がやけに騒がしくなった。
そういえば同居人のハンターが、スモールゲーム(鳥や小動物)が解禁になったと言ってたっけ。
ライフルだかショットガンだかのケース(壁際)をはじめハンティンググッズらしきものが勢ぞろいしている。
横目で見ているこちらにまで彼のウキウキ感が伝わってくる。
Good luckと見送って、というか真夜中の12時に出ていくと言うので、おやすみなさいの時にそう伝えて
それっきり。
しばらくし~んとしていた。
そして一週間ほどして
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山盛りの肉を持ち帰って来た。
なにこれ?
こっちがスプラウス(sprouce)
こっちはラッフ(ruff)
なにそれ?
どうやらどちらもグラウス( grouse:日本語を見るとライチョウとあるが・・?)という鳥の仲間でパートリッジと呼ばれている物もあるらしい。
パートリッジってクリスマスの歌に出てくるあれ?
パートリッジファミリーっていうアメリカのテレビドラマがあったけど(古すぎ?)
一体何羽獲ったの?
それぞれの上限
つまり、彼は彼の友人とそのお父さんの三人でハンティングに行ったのであるが、ひとり15羽までという規制があるので
ということは三人で
15 x 3の
45羽!!!!!
その場でさばき調理して食べ、あとはジェネレーターにつなぐフリーザーに入れて持ち帰って来たというわけである。
色の濃い方がスプラウス、薄いピンクがラッフの胸肉。
普段食べるチキンより小さい。
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ちょうど彼の子供たちもやって来たのでフライにしてくれた。
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ラッフは柔らかくジューシー。ほぼチキン。
スプラウスは初めての味。グースのように強い風味はなく美味しい(グース独特の味が私は苦手)
私の食べ物に対する考え方が変わった理由のひとつは、夫がハンターだったからである。
この小動物のハンティングにスモールゲームと名付けられているように、ハンティングは大体の場合ハンターたちのエンターティメントである。
それを快く思わない人たちがいるだろう。
生き物を遊びに使って、と。
しかしである。
カナダ・オンタリオでは、決められた数量内で獲ったものは必ず食べる、売ってはいけないという規定があるのだが、エンターティメントにしては口に入れるまでの時間と労力が半端ない。
例えば鹿を一頭撃つのに
適切なガンやライフル選びそれらのメンテナンスに始まって
タグと呼ばれるハンティングの許可証は毎年更新が必要で
そして春先の下見、鹿の動向の調査
ハンティング用ツリースタンド設置
冬場のための装備
そしていざ暗闇の林で
マイナス気温の中!
息を殺して獲物をじっと待つ
ある時は何時間も
ある時は夜中ずっと
ある時は何日も
運よくしとめても余力で走り去る獲物
血痕を見つけ真っ暗な林の中その痕跡をたどっていく
やっと見つけたら百キロをゆうに超える鹿を林から引きずり出し
吊るして血抜きし皮を剥ぎ骨を取ってさばいていく
持ち帰えるよりその場でさばく方が残骸が他の動物の餌になるし処理が楽だと、夫が言っていたことがある。
どうりで様々な用途のナイフが必要なはずだ。
血まみれになってさばいてやっと
調理用コンロにのせることができるわけで。
気が遠くなる工程である。
私なんか想像もつかない大変なことがさらにあるだろう。
春先、夫のスカウティングについて行ったことがあった。
コロンや匂いのする虫よけご法度。シャンプーの匂いもだめだと。鹿たちはわずかな残り香で人の気配を感じてしまうからである。
匂いを消すためのハンター用のシャンプーが売られている。
そんな手始めの事さえ知らない世界。
長年夫とハンティングをして来た同居人が言ったことは、
あまりに大変すぎて、罰を受けてるんじゃないかと思う時がある
それでも同居人は嬉々としてハンティングに出かけ
夫は10歳で自分のライフルを手にして以来生涯、病に伏す直前までハンティングと共にあった。
考えたら昔はこんな風にして食糧を得ていたわけで
いつからだろう、すべてを人任せにして美味しいとこだけ食べる私のような人だらけになったのは
次は12月だな
スプラウスの最後の一片に衣をつけながら同居人が言った。
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そして
いつかジェイ(夫)を越えたいんだ
と付け加えた。
彼はチョコレートとSK Ⅱの事を言っているのだとわかった。
これらは夫が仕留めてもっとも大きかった牡鹿たちの名前である。
その2頭は今も夫のライブラリーで私たちを見下ろしている。
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オンタリオのハンター雑誌に載ったと、興奮して夫が話してくれたのに私は、どっちがチョコレートでSKⅡか分からなくなっているオトボケ妻である。
さて同居人、12月は鹿?ムース?ベア?
とりわけムースは脂肪分が少なく私の好みですけど。
なんやかんや言っても結局は
美味しいとこどりのままの私であった。
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ハンターのガンケースに残っていたグラウスの羽ひとつ
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