連続型ワークショッププログラム運営 虎の巻(1)熱量の高い場をつくる準備
「ワークショッププログラムを運営することになった」
「オンラインファシリテーターを務めることになった」
という状況の方、いきなりそんなシチュエーションになったとき、何からやればいいのか悩みますよね。やるべきことばかりで、かつ責任重大。とっても焦ると思います。
僕も20代の頃はワークショップのなんたるかを分からずに、ただの参加者だったひとりです。
そんな僕が、2021年11月現在(38歳)、事業創造のためのオンラインワークショップ企画運営・ファシリテーターを務めています。
この2年間で公私合わせると、3ヶ月前後の連続型ワークショップは10件超、単発型ワークショップであれば50件ほど企画運営を行ってきました。
そこで感じてきたこと、反省点、運営の勘所を「虎の巻」として記事にまとめます。
前提として、僕が運営しているワークショッププログラムでは、チームで課題を見つけ、その解決に向けてアイデア仮説を磨いていくPBL(Project Based Learning)の手法を取っています。
僕自身、まだまだ修行中の身ではありますが、ひとりでも多くの「連続型ワークショッププログラム」企画運営に悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。
連続型ワークショッププログラムの落とし穴
最初に、連続型ワークショッププログラムの「落とし穴」から。
ほとんどのワークショッププログラムでは、テキストなどの教材品質は優れています。けれど、それ以外のところで運営がうまくいかないケースがあるのです。
1)学びや実践の方法が示されず、どうしたらよいか分からない
2)参加者同士の交流が促されず、仲良くならない
→結果として参加者の熱量が低くなり、離脱や幽霊化が起きる
僕自身、運営者や参加者として何回も経験するうちに気づきました。
ワークショップの本質や参加者の「本当の欲求」は、教材とは別のところにあるんじゃないか…と。
(もちろん教材は大切です。でも、それは必要条件であって十分条件ではないと感じるのです)
1)再現性のある「学び方」「実践の仕方」を知りたい
2)学びや実践の先にある「体験価値」「つながり」が欲しい
これらの欲求を満たすには、運営側だけが頑張ってもうまくいきません。
参加者同士が相互作用を起こし、自律的に関わり合うことが重要。そのためにも、「熱量の高い場」が必要なのです。
どうすれば熱量の高い場をつくれるのか?
では、どうすれば熱量の高い場をつくれるのでしょう?
そのキーワードとなるのが「エンゲージメント」です。
エンゲージメント(engagement)とは、「婚約」「誓約」「約束」「契約」などの意味を持つ英単語です。使用シーンによって意味合いは異なりますが、「深いつながりをもった関係性」を示す言葉といえます。
(リクルートマネジメントソリューションズ「人材育成・研修・マネジメント用語集」より抜粋)
ふむふむ。「深いつながりをもった関係性」をつくる…
このための考え方として、SNSを使ったメディア集客講座を行っているギルドメディアさんの「お風呂」の例がとっても分かりやすく参考になります。
・エンゲージメントを高めるとは、関わっている人々への貢献度と熱量が高い状態を保ち続けること
・そのためにやることは4つ。①最初から熱量の高い人を集める、②既存のフォロワーを温める、③温まっている状態を維持、④冷めているフォロワーを温める
・お風呂のお湯が増えた時に、つぎ湯と追い炊きでは追い炊きのほうが効率が良い(つまり②③へのエネルギー投入が効果的)
(参考:ギルドメディア「SNSのエンゲージメントを高める考え方」)
↑ギルドメディアさん、貴重なノウハウをありがとうございます!
ここから先は、僕なりにいろんな場を経験してきて分かった具体策をまとめていきます。
相互理解のための場をつくる
組織内にせよ、組織横断型にせよ、ワークショッププログラムには多くの場合、多様な属性の人が参加してきます。
そうした場で最初に参加者同士がお互い気になっている(そして、口に出して言わない)のは、このあたり。
(Who)「あなたは誰ですか?」
(Why)「あなたはなぜこの場にいるんですか?」
(What)「あなたはどんなことができるんですか?」
さらにオンラインワークショップの場合は、物理的に切り離されて非言語コミュニケーションが難しいことから、「相互理解のための場」をファシリテーターが意図的につくらないといけません。
たまに、コミュニケーション力が超絶高く自発的に繋がりまくってくれる人がいますが、それは稀なケース。
自己紹介/自己開示を促す
連続型のワークショッププログラムで参加者同士が短時間で距離を詰めるには、できるだけ堅苦しくないニックネームで呼び合い、参加の目的や原点を言語化し、さらにお互いのキャラクターが分かることが大切です。
相互理解のための場ではまず「自己紹介/自己開示を促す」ことから始めます。項目例としては、以下のようなものがよいでしょう。
-- 自己紹介の項目例 --
①氏名・ニックネーム
②所属組織
③専門分野・専攻
④趣味
⑤自分の強み・弱み
⑥プログラムへの意気込み
⑦顔・キャラクターのわかる写真
上記のうち僕は①ニックネーム、⑥意気込み、⑦写真を特に重視しています。
(SSDC「事業創造デザインプログラム」Slackでの一例)
「ジョハリの窓」でいえば、「開放の窓」を可視化するための儀式。
まずはこの窓を開けないことには、他の窓も開きません。
ただし、日本人は特にこの手の自己紹介/自己開示がニガテです。どこまでぶっちゃけられるか?の閾値は人によっても異なります。
あくまで、ご自身の開示可能な範囲でという形をとるのがよいでしょう。
コミュニケーションを2軸でデザインする
オンラインを使ったワークショッププログラムでのコミュニケーションは、「同期型/非同期型」×「個人学習/共同学習」の2軸でデザインしましょう。各象限の特性や活用に向いたツールの違いを意識することで、熱量を高めながら効率化することができるようになります。
(参考:吉田秀雄記念事業財団「教育の転換期とコミュニケーション。オンライン授業で、学生が育むものは何か?」)
同期型×共同学習:顔合わせ会を企画する
ワークショッププログラム本編開始前(別日程)、あるいはプログラム初期段階で、顔合わせの会を企画します。
自己紹介の項目を使った自己開示を促し、お互いの参加目的を共通化することが狙いです。
可能であればファシリテーターも場に入り、対話がスムーズに始まるきっかけをつくりましょう。
なお僕の経験上、特にオンラインの場合は1グループあたり6名を超えると急激にコミュニケーション効率が落ち、自己開示が難しくなります。
参加者が多い場合、ブレイクアウトルームなどを活用して小グループに分けながら回転させていくのも一案です。
非同期×共同学習:自己紹介チャンネルを立てる
同期型の顔合わせ会には全員が参加できれば良いのですが、どうしても2つの懸念点が残ります。
1)全員が参加できるわけではない
2)全員のことを覚えられるわけではない
特に、物覚えが悪い僕にとって2)は大きいです…苦笑。
これをクリアするために、非同期コミュニケーションツール(Slack、Teams、Chatworkなど)を併用して「自己紹介チャンネル」を立てましょう。
参加者に自己紹介を投稿してもらうことで、エンゲージメント向上と忘却防止の一挙両得です(そして、チーム構成後にも使えます)
特に初期段階では、ファシリテーター自らが率先して見本を見せましょう。
(SSDC「事業創造デザインプログラム」Slackでの一例)
自己紹介投稿が集まってきたら、スプレッドシートなどで自己紹介リンク集をつくると参加者同士で活用できてよいでしょう(あくまで、プログラム内での活用に留める前提で)
非同期コミュニケーションツールのメリットには、盛り上がりを量的に可視化できる、運営の対応負荷を平準化できる、形式知を共有しやすいといった点もあります。
ツールの使い方をフォローする
オンラインワークショッププログラム序盤でエンゲージメントが下がってしまう要因のひとつに「ツール迷子」になってしまうケースがあります。
これを防ぐには、基本的なツールの使い方をフォローし、かつ相談窓口を明確にすること。
例えばSlackなどでは、以下の観点でツール活用法のフォローをし、「質問・相談チャンネル」を設けています。
(課題解決ワークショッププログラムSlackでの一例)
できればリアルで交流する
ここまではオンラインを想定した観点でお伝えしてきました。
一方で、「瞬間の熱量」でリアルに勝る場はないのもまたひとつの真実です。カメラの回らないところに本音が出るからです。
オンラインとリアルの融合ができるならば、リアルでの顔合わせ会→懇親会交流の場も設けられると、グッと熱量の高い場をつくりやすくなります。
これは、システム思考をベースとした組織論「成功循環モデル」での「関係の質」のステップや、
組織における知的創造活動を理論化した「SECIモデル」での「共同化」のステップと重なるものがあります。
参考リンク
ワークショップファシリテーターとしての経験や気づきを基に書いた、前後編の2記事。
前編はファシリテーションの概念と4大スキル、後編は大切にしたい5つの心得と3つの理論(前述の成功循環モデル、SECIモデル含む)について解説しています。
以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。
ワークショッププログラムは一日にしてならず。でもその場の目的・意義を忘れず、参加者を信じて促すことで、きっと素敵な創発の場になるはず。
少しでもあなたの参考になれば嬉しいです。
それではまた!
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