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〈読書〉十の輪をくぐる
・十の輪をくぐる 著者:辻堂 ゆめ
主人公の泰介は50代。妻(由佳子)、高校生の娘(萌子)、実母(万津子)と暮らしています。
泰介は子どもの頃に、母の勧めでバレーボールを始めます。大学まではバレーボールを続けましたが、その後は選手としての活動はなく、大学を卒業してからはスポーツクラブを運営している会社に勤務しています。しかし、現在の所属部署の仕事に苦労しています。
また、同居する実母(万津子)には認知症の症状があり、家族が世話をしなければならない状態です。
娘の萌子は強豪校でバレーボールをしています。実業団のスカウトから声がかかるほどの腕前ですが、泰介は萌子が大学に進学せずに実業団に入ることに賛成できずにいます。
この物語には、もう一人主人公がいます。
泰介の母、万津子です。
泰介が語る現在の家族の話と、万津子(泰介の母)が語る万津子の歩んできた人生が交互に綴られていきます。
万津子がバレーボールに出会った頃の話。結婚してから苦労の連続だったこと。
読み進めていくと、万津子→泰介・由佳子→萌子と三世代がバレーボールでつながっていることがわかります。
認知症を発症している母、上手くいかない仕事、妻や娘のことなど、50代にありがちな悩みを抱えている泰介ですが、母の過去をたどり、母が必死で自分たち兄弟を育ててきたことに、改めて気づきます。
また、自分がADHDであることに気づき、受け入れ、治療することで、家族との関係や、職場での人間関係に、変化が訪れます。
それは、泰介を必死に育てた万津子の努力が報われたということでもあります。
万津子が必死に泰介とその弟を育てた経緯が語られています。苦労をしながらも、子どもの未来の為に、子どもを信じて一人で育て上げた、万津子の強い意志には心を打たれます。私など親としてまだまだ、未熟で、覚悟が足りない感じです。
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東京オリンピック。
この物語で何度も登場するキーワードです。
2021年に開催された東京オリンピックを、医療従事者として複雑な思いでテレビ観戦していました。
安全な開催ができるのか、開催後にウイルス感染者が増加して医療体制の崩壊がおこるのではないか、という不安な気持ちと、オリンピック選手を応援したいという気持ちを交互に感じていました。
万津子のように、オリンピック選手の活躍に励まされている人も、萌子のようにオリンピックを目指して競技を続けている人も大勢います。
次のオリンピックが開催される頃には、不安なくオリンピックの開催を喜び、選手を応援できるような状況になることを願います。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございました。