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俺の魂
『この(ペティ)ナイフは誰のですか?』
今日持ち場が一瞬一緒だった、定年された元副料理長(現在パート)が俺に問いかけた。
「あ、僕のです😅」
と答えると、
『メチャメチャ切れる❗️💦○○(投稿主)さんの切ったフルーツの断面が凄く滑らかですね。これが切れない包丁でやると果物のジュが出てきたり食感が粗くなってダメなんですよね』
と長くフレンチに携わっていた彼を唸らせた。
その眼には歓びも帯びているようにも思えた。
新しい職場に就任する前日から、使うペティナイフと牛刀を日が変わる前に家で研ぐ事が日課になっていた。
店をやっていた時はあまりにも自分の仕事量が多かった事もあり、専門業者に研いでもらうか、切れ味が悪くなるまでは研ぎ棒でシュッシュしていた。
しかし本当はその頃からもっとちゃんと包丁と向き合いたい気持ちはあった。なんだかんだ理由をつけたり、その時のルーティンを変えられなかったりして、結局、
膨大な
「やらなきゃいけないと思い込んでいる」
事に追われて常に後回しになっていたんだと思う。
環境も暮らしも180°変わり、ネガティヴなところだけがリセットされた世界が、ようやく真っ直ぐ向き合える自分になった感覚にさせてくれた。
ここに至るまでには、共に歩んでくれる妻と息子がいたからこそで、言葉でなかなか言えない性分なんだけど、ありがとう、と胸の奥で深く思っている。
やっと包丁の事を相棒と呼べるようになった気がする。
その日の研ぎ具合で今の自分の状態が著される。
そこには俺の、魂があるのだろう。