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介護books③「介護に慣れてきたけど、希望が持てない人に(もしよろしければ)読んでほしい6冊」

 いつ介護を始めたのか、改めて振り返ると、ちょっとはっきりしない。今、考えているのは、ずっと目の前にいる介護が必要な家族のことで、気がついたら、少しの変化に敏感になり、体が、この生活になれてきたような気がする。

 ちょっと前までは、介護以外のことに、まったく目がいかず、デイサービスも利用するようになったけど、その時間の間も、ほぼ何も考えられず、横になってなるべく寝るようにしていたのだけど、ぐっすりと眠れないような感じだった。ここのところ、やっと、その時間に休めるようになった気がする。

 介護は始まった時も、まるで災害に巻き込まれるような体験かもしれず、その時も、かなりの負担がかかっているはずです。そこでなんとか持ちこたえ、様々なサービスを使うようになったり、サービスを使わない場合でも、なにしろ介護生活に慣れてきた頃、気がつくのは、この時間が「いつまで続くか分からない」ことだと思います。

 少し周りが見えるようになってきたかもしれませんが、先のことを考えると、あまりにも、この生活が遠くまで続くのが見えて、どこか恐さもあって、また何も考えられなくなるかもしれません。体が疲れているような感じもあるのだけど、その疲れもはっきりとしない。ただ、今は、少し介護ではないことも、ふと考えられるようになってきた、という状況の方に、今回は本を紹介させていただきたいと思っています。

 本当に辛い介護の中では、おそらく本を読んだりする余裕もないと思います。
 ただ、少しだけ介護に慣れるようになってきた時、ちょっとでも、今の生活の中で気分転換がしたい時、よろしければ、読んでほしい本を6冊紹介します。

 今回も、できれば、手にとっていただきたいとは思うのですが、そのうち5冊は、介護に関することで、それも、主に介護者の視線から書かれているものです。介護のことを考えたくない、という方にも、1冊だけですが、あげさせてもらいました。

 別の人が、介護について書かれたことを読むことで、もしかしたら、自分だけではないんだ、と孤立感が減る可能性もあります。介護と違う世界のことを読んだ時は、少し意識が介護から離れて、それによって、負担感(ストレス)が、少しでも減る可能性が出てきます。

 相性もありますが、何かできるようになってきた第一歩として、本を読むと、微妙な達成感も得られる可能性もあります。興味がある本があれば、幸いです。(なお、紹介の文章の長さは違うのですが、それがおすすめの度合いとは直接、関係がありません。ご自分の、ご興味を優先させ、読みたい本を選んでいただければ、とも思っています)。


「良い祖母と孫の話」

 最初は、漫画です。
 気持ちのコンディションによっては、普段は漫画を読まない方であっても、漫画のほうが、抵抗感なく読める可能性もあります。

 孫と祖母の話です。それも、タイトルから素直に連想するような、シンプルに心温まるようなストーリーではありません。それに、介護だけの話でもありません。孫からの視点で描かれていますが、心の痛みや後ろめたさなどもかなりしっかり描かれています。主人公は思春期の女性ですが、その閉塞感は、年齢や立場が違っていても、介護をしている人だったら、もしかしたら我がことのようにわかる可能性もあると思いました。

 そして、自分とは違う存在に意識を移せる可能性も出てくるので、そのことで、普段の介護生活から、ちょっとだけでも距離をとれるかもしれません。
 普段は、心温まる内容の方が気持ちにフィットされる方も、ある意味では、過酷な毎日を過ごしている現在には、こうしたヒリヒリするような感触と、それを元にした嘘っぽくないささやかな嬉しさ、みたいな内容の方が、心に届く可能性があるとも思っています。

 もし、よかったら、普段、漫画を読まない方ほど、試してみてもいいのでは、と思います。
 帯には「SNSで号泣の声、続出」とあります。4年前の本ですが、古くはなっていないと思います。

「娘から父・丹羽文雄へ贈る朗らか介護」

 ある年齢以上の方でしたら、丹羽文雄という作家の名前はご存知かもしれません。いわゆる「人気作家」であった丹羽氏が、違う形で脚光をあびたのが、丹羽氏の実娘である、本田桂子氏の活動によってでした。丹羽文雄氏は認知症になり、実娘の本田氏が、10年以上の介護生活を、書いたものが脚光をあび、それから本田氏は、講演活動なども始めました。

 もちろん「著名人」ということでの恵まれた部分もあるかもしれません。それでも、介護をして、どんなことが起こって、どうやって対応していくか、その中で、家族介護者として苦しんで、アルコール依存になったことも含めて、かなり率直に書かれていると思いました。「朗らか介護」というタイトルは、「そうありたい」という希望だと感じます。すでに20年前の作品になりますが、それでも、今にも通じる部分も少なくない印象です。

 この著者の介護状況については、この「朗らか介護」は、「父・丹羽文雄 介護の日々」「父・丹羽文雄 老いの食卓」に続いての作品ですので、この「朗らか介護」を」読んで、さらに、具体的な介護について、ご興味を持たれた方は、前作2冊も手にとっていただければ、と思っています。

 今回、他の著作ではなく、この「朗らか介護」を紹介しているのは、主に二つの理由があります。
 一つ目は、古い話とはいえ、介護保険が始まったばかりの2000年から2001年にかけての内容ですので、現在の介護者にも共通点があると考えました。
 もう一つは、介護中だけでなく、介護終了後の視点も含まれているからです。今は、そんなことを考える余裕もないとは思うのですが、それでも、そんな要素に少しでも触れることが、この先の希望に少しでもつながる可能性があるかもしれない、と考えました。

 著者の本田桂子氏は、15年の在宅介護ののち、その継続が難しくなり、父親の施設入所でかなりのショックを受けたものの、そこから、家族介護者のサポートこそが必要として、声をあげてくれた先駆者の一人でもあります。
たとえば今の私が、臨床心理士として「介護相談」が出来ているのも、こうした方々の先駆的な志があってのことだと思いますが、本来は、それから20年たっているので、もう少し「家族介護者支援」や、家族介護者への理解が進んでいるべきだったのに、とも考えています。そうできなかった自分自身の責任と無力さみたいなものも、個人的には感じました。

私は介護者の負担を、当事者として痛いほどわかっています。こればかりは体験した者にしかわからないものです。ですから、ケアテイカーの心をしおれさせないように、もっともっとがんばっていきたいと思います。

 この著書は連載を元に編まれていますが、この言葉が含まれる文章が最後になり、著者は、65歳で亡くなってしまいます。父・丹羽文雄氏よりも先のことでした。


「死なないで!殺さないで!生きよう!いま、介護でいちばんつらいあなたへ」

 タイトルに、違和感がある場合は無理に読まないほうがいいとは思います。

 ただ、家族介護者であれば、こうした表現がそれほど遠くなく感じることも少なくないでしょうし、そのように心理的に距離感が近いと思った方には、お勧めできるのではないか、と考えています。

この本は、一度は相手を殺そうとした介護家族が、なぜ思いとどまれたのかを語り、いま極限状態にある人たちに「苦しくても死なないで!」と呼びかける渾身のメッセージ集です

 この本の具体的な内容は、「認知症の人と家族の会」の会員の体験談です。

1か月の間に八五人の会員が寄せてくれました。首に手をかけた人、崖から突き落とそうと思った人、包丁を手にした人、自動車で激突しようと考えた人、布団で口を押さえた人…。それぞれが思いとどまったわけをつづり、死なないでと呼びかけてくれました

 この本は、そうした方々の、本当に貴重な、記憶や思いの集積です。事件にはなりませんでしたが、何かが一つでも状況が違っていたら、事件になってもおかしくない時のことが描かれています。

 人の体験談を読む、ということに対しては、どうしても好き嫌いがあるので、全員にお勧めすることはできないかもしれません。それでも、今も、同様に、厳しい状況にいらっしゃる家族介護者にとっては、自分だけではないんだ、というような気持ちになり、孤立感を和らげ、少しでも気持ちが楽にある可能性はあります。

「恍惚の人」

 1972年ですから、最初に出版されたのは、もう何十年も前の本です。

 何度も映画化もされ、ドラマ化も複数回されました。
 徘徊、弄便など、認知症のBPSD(周辺症状)が、そのショッキングさとともに、初めて明らかにされたといわれる作品です。

それは、もちろん、そういう側面もあるのですが、この小説の主人公は、介護を受ける側ではなく、あくまでも家族介護者である女性です。それも、夫の父親を介護していて、介護者の後ろめたさなど、実は、今にも通じることが描かれていて、そうした微妙な部分は、ショッキングと思える場面に隠れるように、今まであまり取り上げられることもなかったと思います。
 また、主人公の夫が、自分の父親の介護の事でありながら、怯えなどにもよって、あまり関わらなかったりと、今にも通じそうで、なおかつ解消されていない課題も描かれています。

 さらには、介護だけでなく、小説として、その周辺の事情も、具体的に描かれています。たとえば、出版されたのが1972年ですから、もう50年近く前になるのですが、冒頭に、共稼ぎの主人公が家事を少しでも効率よくするために「冷凍食品」を使い、それに対して嫌味を言われる、といった描写もあります。今は、このエピソードは古くなっているかもしれませんが、この「冷凍食品」のところに、そのあとに登場した「便利と言われるもの」を当てはめれば、今でもありそうな話です。

 介護の経験者、今も介護をされている方が、実はもっとも深く読めて、理解できる可能性もあるのでは、と思っています。

 「息子介護 40息子のぐうたら介護」

 父を介護する息子の話です。といっても実際に介護をされていた方が書いたノンフィクションでもあり、「ぐうたら」という名前で読み始めると、見事に裏切られます。すごく切実で、本当に正面から介護を続けていて、だからこそ、介護者が消耗することまで、正直に書かれています。

 自分もそうだった、もしくは、今がそうだ、と共感できる人であれば、この本の、強い言葉と出会っても、読むことで、自分が少しでも力づけられる可能性があります。大事なのは、その言葉が、激しいかどうかよりも、その激しさが、より正確であることで、それが共感を生み、そして孤立感も減少する可能性があると思います。

通常の精神状態は、エンジンのアイドリング状態と思うのです。腹が立つことがあっても三〇〇〇から四〇〇〇回転。しかし、介護者は通常が三〇〇〇回転。
 そのぐらいのストレスがかかっていると思うのです。腹が立つことばかりなのです。
 ピークになると、レッドゾーン。煙全開。
 何があってもおかしくない

 こうした言葉を、受け入れにくい方も、当然いらっしゃると思いますが、たとえば、この指摘↓なども、本当に貴重な視点でもあるとは思います。

介護をしている日常はつらくない。そこに楽が入ってきて、この日常がつらいと知ったときに、つらくなるんです

 介護者負担を減らそうとする時に、レスパイト(デイサービスなど。介護者を休めること)だけを考えると、こうした視点をつい忘れがちになると思います。
 ここで、紹介した言葉に共感を覚える方に、おすすめできると思います。

「それからはスープのことばかり考えて暮らした」

 最後は、まったく介護とは関係ない本です。
 読んでいる間に、今いる場所から、少しでも意識が本の世界に移ることができれば、それで、今の辛さから少しでも距離をとれ、そのことで気持ちのストレスが減る可能性があります。

 とはいっても、介護中だったりすると、まったく今の日常とは関係ない飛躍のある冒険もののようなフィクションは、ちょっと疲れる可能性もあります。もちろん、冒険もので、好きな作品がある方は、それを読んで楽しめれば一番いいのですが、そうでない場合は、違う世界に行けるとしたら、穏やかな時間が流れているような小説がいいのでは、と思います。

「かもめ食堂」(2006年公開)という映画がありましたが、あの世界観が好きな方には、かなりフィットする可能性が高いようです。さらに、そうした世界観が好きな方にとっては、作中に登場する人物も魅力的に感じるし、出てくる食べ物(サンドイッチやスープ)も、素直に、とてもおいしそうに感じる確率が高いみたいです。


 今回は「介護books③介護に慣れてきたけど、希望が持てない人へ(もし、よろしければ)読んでほしい6冊」を紹介させてもらいました。これで負担感(ストレス)が、少しでも減ればと思いますが、もし、合わない場合は、申し訳ないです。

 もし、もっとこの本の方がよかった、といったご意見などがありましたら、お手数ですが、コメント欄にメッセージをいただければ、共有できて、とてもありがたいと思っています。

 次回は、介護books④「家族介護者の気持ちが分からなくて、悩んでいる支援者へ(差し出がましいですが)おススメしたい6冊です

(↑クリックすると、その記事に移動します)


(他にも介護について、いろいろと書いています↓。もし、よろしかったら、クリックして読んでいただければ、と思います)。

介護の大変さを、少しでもやわらげる方法① 自然とふれる

「家族介護者の気持ち」②「いつまで続くか、分からない」と、「先を考えられなくなる感覚」

介護の言葉① 「介護離職」

「介護時間」の光景③ バス停

介護離職して、10年以上介護をしながら、50歳を超えて臨床心理士になった理由③


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