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読書感想文「図書館のお夜食」原田 ひ香 (著)
森瑤子がどれくらい知的でカッコイイ女のアイコンだったか,'80〜'90年代に10〜20代を過ごした者ならわかっているはずだ。とりわけ、当時の女子にとっては、憧れもしくは眩しかったに違いない。森瑤子を失った日本とは、どうやって贅沢をするといいのかわからなくなった日本であり、どうカッコつけるとキマるのかを見失った日本である。
この本で、森瑤子は「お夜食」のテーマで一つであり、田辺聖子に向田邦子、赤毛のアンが並ぶ。彼女たちが振るう勇気と快活さが「お夜食」の隠し味なのだ。群像劇の各登場人物が抱える事情を吐露させるべく原田ひ香は彼らの人生に光を当てる。人はそれぞれ、普段は決して言わない事情を抱えているものだ。そうした個々の事情とは書店、古書店、図書館がそれぞれに抱える悩みでもあるし、原田が大好きなリアルな本が置かれている今の業界の構造的なややこしさだったりもする。
蔵書になった森瑤子、向田邦子、田辺聖子の本は、その著作のまま、問いかけてもその本以上には何も答えない。そのことの象徴としての図書館であるし、彼女たちの知性と活躍ぶりへの渇望が書かせた一冊だ。