健康な人々、健康な地球、健康的な暮らし
いよいよ今週、2021年9月23日、初の「国連食料システムサミット」が開催されます。2030年までにSDGsを達成するために、「食」の切り口から、私たち消費者も含め世界中のステークホルダーによる議論が行われます。完全オンラインとなったので、日本からでも録画で色々なセッションを見られそうです(米国東海岸時間なので、ライブはきつそうですが…)
これまでも「現在そして未来世代の、全ての人々により豊かな生活を」を会社の「パーパス」(目的、使命)として掲げ、10年以上にわたりサステナビリティ経営のトップランナーとして走り続けてきた私たちDSM。
食料システムサミットに先立ち、「健康な人々、健康な地球と健康的な暮らし」の実現に向けた「食料システムコミットメント」を発表しました。
このような包括的な「食料システムコミットメント」を公表している企業は世界的にもまだ珍しく、かなり先進的な活動だと思います。公表したコミットメントについては、今後、毎年の統合アニュアルレポートで進捗状況を報告する予定です。
今回は、世界の食料システムが抱える課題に対して、私たちDSMがどのように取り組んでいこうとしているのか、ご紹介したいと思います。
世界の食料システムは課題であふれている
以前このブログでも書きましたが、「食料システム」とは私たちの食の生産から消費まで、全ての活動、ステークホルダーを包含したとても幅広い新しい概念です。「食料システム」というレンズを通すと、私たちの「食べる」という行為が、非常にたくさんの複雑に絡み合った問題につながっていることが見えてきます。例えば:
人々
・飢餓、あるいは「隠れ飢餓」(脂質や糖質などが充足・過剰な反面、ビタミンなどの微量栄養素が不足・欠乏している状態)など栄養不良の問題
・食に関わる疾患。肥満や生活習慣病など
・ビタミンやミネラルなどの微量栄養素不足・欠乏
・免疫の健康、抗生物質耐性菌などの問題
地球
・畜産からの排出(メタン、窒素、リンなど)
・森林破壊、地上と海洋の生態系破壊、生物多様性の喪失
・食品ロスと廃棄
暮らし(特に開発途上国の農業従事者)
・バリューチェーン上で搾取され、農業従事者が公正かつ安定した収入を得られない
・貧困のために、農業従事者が食や医療、教育など基本的ニーズにアクセスできない
これらは食料システムに関連する課題のごく一部ですが、それでも17のSDGsの多くに密接にかかわっていることがお分かりになると思います。
ただ、とても一企業の手に負えるような話とは思えない… ですよね。
DSMの「食料システムコミットメント」
私たちDSMは以前から、「栄養と健康」「気候とエネルギー」「資源と循環経済」の3つの分野で、様々な社会課題に対してサステナブルなソリューションを提供することに「事業として」取組んできました。
これらの取組み、さらに人と地球のサステナビリティに関する課題を「食料システム」というレンズを通して改めて見たとき、DSMのもてる能力を使って2030年に向けてやるべきことがクリアになってきました。これらを3分野、5項目にまとめたものを、今回コミットメントとして発表しています。
ちなみに「事業として」にこだわるのは、DSMの流儀。(慈善団体ではなく)企業が社会課題を解決するには、適正な利益をあげてビジネスとして行うことが最もサステナブル(持続可能)かつスケーラブル(拡張可能)だからです。社内ではよく、「People - Planet - Profit」とか、「Doing Well by Doing Good」(良いことをして利益をあげる)という言い方をします。
以下、5つの食料システムコミットメントについて、少しご説明させていただきますね。
健康な人々
2020年に必要な栄養を摂取できない人の数は24億人 - 実に世界人口の1/3 - に増えたと報告されています(国連FAO食糧農業機関)。フードバンクや、日本では子ども食堂の活動でも知られるように、貧困と食・栄養の問題は先進国でも大きな課題に。
また新型コロナウィルス流行により、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が免疫系の健康に果たす役割についても注目が集まっています。これまで開発途上国の問題と捉えられがちだった「栄養改善」は、今や先進国でも重要な課題となっています。この分野でのDSMのコミットメントは:
1-1) 2030年までに、微量栄養素不足・欠乏の状態にある8億人の栄養改善
過去に優れた効果とコストパフォーマンスが確認されている「主食の栄養強化」と「栄養補助食品」を通じて。長年のパートナーである国連WFP世界食糧計画、ユニセフ、ワールドビジョン、スケーリングアップニュートリション(SUN)等とのコラボレーションで推進。同時に、消費者に対して健康的な食生活の重要性を訴求していく。
1-2) 2030年までに、栄養を通じて5億人の免疫系の健康をサポート
栄養科学に基づく微量栄養素の世界的リーダーとして、必須ビタミンやミネラル、オメガ3をはじめとする高品質な栄養素を世界中の消費者に届ける。
「主食の栄養強化」の分野では、DSMは、小麦粉、トウモロコシ粉と並ぶ世界の三大主食でありながら、最も栄養強化が難しく法規制も遅れている「栄養強化米」に注力しています。
米粉と微量栄養素を混練、造粒して生産する「栄養強化米」を通常の米に0.5-2.0%混ぜて炊くだけで、栄養バランスに優れた食事となります。アジアの開発途上国には、かつての日本のように、おかずをとらずにご飯ばかり食べる、あるいは塩辛いおかずとご飯を大量に食べるという食習慣をもつ地域も多く、貧血や発育阻害などに苦しんでいる方々も数多く存在します。
また、「免疫系をサポート」するための栄養補助食品(サプリ)の分野では、従来にない栄養素材を提供すべく、イノベーションにフォーカス。例えば通常のビタミンD3に比べて3倍速く効果的に吸収される代謝型ビタミンD、ampli-D®は、既にオーストラリア、シンガポール、アメリカ等でサプリメントとして販売され、好評を博しています(日本では食品安全委員会の審査中(2021年9月21日現在))。
健康な地球
食料システムの問題と気候危機の問題が密接にリンクしていることはご存じの方も多いかもしれません。食料生産と消費から発生する温室効果ガスは、世界の全排出量の1/4以上を占める(2019 IPCCレポート)一方で、気候変動・地球の生態系の変化により真っ先に被害を受けるのは農業です。
急増する世界人口に対して栄養豊富な食を供給するためには、植物由来タンパク質の生産と消費を拡大しつつ、主要な動物性タンパク質 - 乳製品、シーフード、肉、卵 - の生産プロセスをよりサステナブルにすることが重要です。この分野でのDSMのコミットメントは:
2-1) 2030年までに、畜産からの温室効果ガス、窒素、リンの排出を数十%削減。具体的には
・酪農からの温室効果ガス(メタン)排出を20%削減
・養豚からのアンモニア(窒素)排出を30%削減
・養鶏からのリン排出を30%削減
2-2) 2030年までに、1.5億人に栄養豊富でサステナブルな植物由来タンパク質を届ける
畜産からの排出削減の分野では、例えば牛などの反芻動物のゲップに含まれるメタンガスを削減する飼料添加物 Bovaer® の開発に、10年ほど前から取り組んでいます。牛一頭当たり一日小さじ1/4杯を与えるだけで、メタンガス排出量を約30%削減。牛乳1kgに換算すると、生産時に発生する温室効果ガスを10-12%減らすことになります。Bovaer® は、2021年9月に畜産大国ブラジルとチリで当局の認可を得て、いよいよ実用化のフェーズに入りました。また、豚や鶏に消化酵素を与えることで飼料中に含まれる窒素やリンを効率的に消化吸収させ、排出量を削減する取り組みも進めています。
DSMは植物由来食品、飲料の分野でもイノベーションを行っています。植物由来タンパク質に対して、本物の肉、シーフード、乳製品のような風味、歯ごたえ、口感などを与える、植物由来のソリューションを提供しています。また、植物由来代替肉に不足するビタミンなどの栄養もサポート。加えて、一般的な大豆・そら豆由来ではない、全く新しいキャノーラ由来の植物由来タンパク質の商業化などにも取り組んでいます。
健康的な暮らし
食のサプライチェーンでは様々な人々が働いていますが、その多くは自分自身が健康的な食事にアクセスできていません。農業従事者、仲買人、工場労働者など。世界には約10億人の農業従事者がいますが、そのうちの約5億人は「極度の貧困」状態におかれています。これらの農業従事者、特に小規模農家に対して、公正かつ安定した収入と、健康的な食事や医療、教育など基本的ニーズへのアクセスをもたらすことは貧困問題を解決するために避けて通れない課題です。
3) 2030年までに、パートナーと共同で、50万の小規模農家の生活レベルを向上させる
最初のステップとして、DSMとルワンダ政府との官民ジョイントベンチャーである、Africa Improved Foods (AIF)のビジネスモデルを、他の地域にも展開します。
AIFはアフリカの食料問題に取り組む社会課題解決型企業。安価で栄養豊富な食品の、原料調達・生産・販売を現地で一貫して行うことでアフリカの地域コミュニティに強靭な食料サプライチェーンを構築することを目的としています。
2016年の創立以来、AIFは13万の小規模農家から様々な穀物を調達し、公正かつ安定した収入をもたらすと同時に、栽培技術指導なども行っています。さらに300人以上の直接雇用を生み出し、延べ1600万人の消費者に栄養豊富な食品を供給してきました。
このAIFのプログラムをサブサハラアフリカに展開することで、2030年までにサポートする小規模農家の数を4倍にし、さらなる直接雇用と栄養豊富な食品へのアクセスを増やす、これが5つ目のコミットメントです。
「食料システムコミットメント」実現を加速するために
DSMは今回、「食料システムコミットメント」の発表にあたり、もう一つ大きな発表を行いました。それは「健康、栄養とバイオサイエンス」へのフォーカスを軸とした長期事業戦略の刷新についてです。
今回公表した「食料システムコミットメント」、これらの重大な社会課題の解決に対して、DSMという一企業ができることは限られているかもしれません。
私たちのパーパスは不変ですが、新たに定めた「食料システムコミットメント」を実現させていくために、DSMはその持てる能力とリソースを、健康と栄養の分野、さらにキーテクノロジーであるバイオサイエンスに全集中させていく必要があります。
「オランダ石炭公社」から始まり、オランダ最大の石油化学企業、さらには栄養と機能材料のサイエンス企業へと変遷を遂げてきたDSM。サステナブルな食の未来の実現に向けて、「健康、栄養とバイオサイエンス」企業としてさらに進化を続けていきます。変化を楽しみながら、社会課題の解決に向けて全力で取り組んでいきたいと思います!