自分をフルに生かして生きる(八木澤智正さんインタビュー②)
音楽活動も、周りがエフェクティブだからやりたいことができる
「音楽活動に関しても、周りの人たちに『エフェクティブ』であってほしいという思いは同じです。自分はバンドの中ではドラマーなので、メロディを奏でることはできません。でも、共演する人たちがエフェクティブであれば、自分のやりたいことを一緒にやることができます。
ドラッカーは『自分よりも優秀な人たちにいかに働いてもらうかが大事』と言っていますが、まさに音楽活動でも同じことが言えるわけです。」
私の大好きなジャズライブに行くと、このことがよく実感できます。ライブでは、ギター、ピアノ、ベース、ドラムなど、メンバーそれぞれが自分の役割を最大限に果たすことで美しい音楽が生まれます。つまり、お互いがエフェクティブであるほど面白く魅力的なステージになるのです。
これはきっと仕事のチームや組織も同じだと思うのです。私が企業の広報部にいたときも、多言語に堪能、技術に詳しい、メディアリレーションに強い、など多彩な強みや持ち味を持つメンバーが集まっていて、それぞれにエフェクティブであり、かつ協力し合うことでチームとして強くなり、成果が上がるということを日々実感していました。
今もいろんな方とお仕事でご一緒する機会に恵まれていますが、誰か一人だけではなく、メンバーみんながお互いに持っているものを発揮した上でコラボレーションできるように、といつも心がけています。
芸術活動でアテンション(注意力)を鍛える
「『エフェクティブである』ということのもう一つの意味は、自分をフルに生かして生きるということです。仕事で発揮する自分はこれぐらいで、などと思わずに、いつでも自分の持てるものをフルに生かして生きてほしい、周りの人たちに対してもそう思っているし、自分もそうありたいと思っています。
芸術活動を通じて五感が鍛えられるというのも、自分をフルに生かすことに繋がると思います。例えば、日常生活ではなかなかアテンション(注意力)を伸ばすことは難しいのですが、音楽活動をしていると、ここは音が外れたな、これはデジタルではなくレコードの音だな、オーケストラの中で誰かが崩れたな、など、細かい差異を認識する力が自然とついてくるように思います。
そして自分のコンディションを整えておけば、日常でも些細な変化に気づくことができます。これは仕事にも使える話かなと思います」
私もジャズピアノを弾くので、この感覚はよくわかります。ピアノを始めた頃は、誰かのカッコイイ演奏を真似しようとしてみても、何がどうなっているのかさっぱりわからなかったのですが、数年練習を重ねた今では、リズムとか、音の重ね方とか、あるいはグルーブとかが、なるほどこうなっているんだなと、少しずつ認識できるようになりました。
PRの仕事でも、取材のときに相手のちょっとしたトーンや表情の変化から大事なポイントに気づいて更に質問したり、イベントのときに参加者や場の変化に気づいて対応したり、と、細かいところに気づくアテンション力というのは、結構仕事のクオリティを上げてくれるなと感じています。
どんな仕事でも、まず「気づく」ことから、いろんなことが形になっていくことを考えれば、日頃から五感を鍛えておくと仕事にも役立つというのは、いろんな職種に言えるのではないでしょうか。
普段とは違う自分の領域を活用する
「また、自分は作曲をする時に、脳の中で、言葉を使っている領域とは別の領域を使っていることを実感します。作曲にのめり込んでいると、うまく言葉が出てこなくなってしまうぐらいです(笑)
ということは、音楽活動をすることで、仕事とはまた別の自分の一面を発揮していることになり、これもフルに自分を生かすことだと考えています」
ふたたび私の例を出させていただくと、PRという職業柄、普段は物事のポイントを整理したり、言語表現を考えたり、イベントのコンセプトを考えたり、ということをやっているのですが、私という人間のトータルバランスからすると、かなり言語やロジックに偏っているかも知れません。
その一方で、ピアノを弾いていると、鍵盤上の指の配置を考える時は数学的だったり、どんな響きがしっくりくるかなと探る時は感性的だったり、スムーズに指が動くように練習する時は脳と身体の連動性だったり、と普段とは違う領域を使っていて、より自分の全体性を発揮させてくれるような気がします。
人間は本来多面的なもので、仕事で重点的に使っていたり、自分が認識していたりする以上にいろんな領域を持っていそうです。なので、仕事以外にも音楽をやったり、絵を描いたり、料理をしたり、ということは、自分をフルに生きて、より人生を楽しく豊かにすることにも繋がりそうです。
その③「大切な今を生きるために、誰もがマネジメントを活用できる」に続きます。